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見つけてくれてありがとう
こんなところに居たのかやっと見つけたよ
このアルバムが発売されてから約1ヶ月が経とうとしている。クリープハイプのメンバーが、本作について語る雑誌を読んだり、ラジオを聞いたりしてきたので、これから書く内容が感想という自分の中から出てきたものとして成り立つのか不安ではあるけれど、書いていこうと思う。
まず、このアルバムが手に届いてからというもの、今まではランダム再生も平然とやってしまう私だが、今作は一度もランダム再生をしていない。いや、できない。この曲順が一番良くて、曲と曲の繋がり方が完璧だから。
「ままごと」から始まって「天の声」で終わる。この2曲の間には既発曲もある。曲が終わったあとの静かな間のあとに始まる曲は、これじゃないととなる並び方をしている。
まずは、一曲ずつの感想を順番に書いていく。
1.ままごと
曲中に出てくる二人がとにかく、かわいらしい。
背伸びした二人の生活が、かわいらしくてたまらない。
"このまま そのまま 二人でいよう"
まだ始まったばかりなんだろう。この二人の生活が可愛らしいままごとで、いられるのも限られた時間な気がして、妙に不安になるのは、きっと自分の過去の恋愛を重ねてしまうからなんだろう。
2.人と人と人と人
802で、初めてインストバージョンを聴いて、なんだか焦るような、寂しいような、そんな気持ちになったことを今でも覚えている。そして、この曲に歌詞がのったとき、いろいろな人たちの気持ちが入っている曲だと感じた。もちろんこの曲の作り方が、リスナーからの感想をもとにしているのは知っているが、そういうことではなく、クリープハイプの曲の中には登場人物がいて、多くはわたしの中でこんな感じの人たち。とある程度のイメージがあるけれど、人と人と人と人については、顔も性別も年齢も何も浮かばず、とにかく多くの人が曲中に混み合い、まだ見えてこない。
そして、インストバージョンで感じたことが言葉になって表現されたとき、クリープハイプのメロディの強さを感じた。
3.青梅
マッチングアプリのタイアップ曲。ラジオで尾崎さんが令和版ラブホテルと言っていた気がするが、まさに令和版ラブホテル。アップテンポなサウンドのこの軽さが、まさにマッチングアプリの気軽な出会いを想起させる。曲の終わり方が、ラジカセを巻き戻すような終わらせ方なのも印象的だった。現在進行系ではなく、既に回顧していて次の出会いを探しているのかもしれないと感じた。
4.生レバ
意味のないことを歌っているのに、意味があると感じさせられ、まさにクリープハイプ、尾崎さんの手のひらで転がされたと感じた曲。イントロのベース、カッティングしたギターの音がかっこいい。体が自然と動き出す曲。一度聴いたら耳から離れないこのメロディ。クリープハイプの歌詞が良いと力説してきた私としては、この曲が好きと感じたということは、もう、クリープハイプの歌詞がうんぬんとは言えない。クリープハイプは、歌詞もメロディもすべてが良い。
5.I
恋だの、愛だのを語るとき、どうしても男女の組み合わせで思い浮かべてしまうけれど、人が人を好きになるそういうまっすぐな気持ちを思い浮かべた曲。最初と最後の音が、わたしには火が燃える音、消える音に聞こえて、とても切なくなる。心が苦しくなる。この曲は、同性愛のことを歌ったものだとインタビューで知り、このバンドは人と人の中に生まれる愛を限定していないのだと感じた。押し付けてこないちょうど良い温度感でこちらに解釈を委ねてくれているのも感じた曲。
6.インタビュー
このテンポ感。ギターソロがとにかく好き。
曲中に出てくる
喜びと悲しみと苦しみと痛み
憎しみと信頼と慰めと諦め
プルチックの感情の輪を思い出した。
正反対の感情は基本的に同時に起こらないけれど、感情が混ざり合うことはある。そういう感情も歌えるから、このバンドにわたしは出会ってから魅了され続けている。
7.べつに有名人でもないのに
ピアノで始まるイントロが印象的だった。この曲に出てくるあたし。あたしがどうか幸せになってほしい。
8.星にでも願ってろ
作者を伏せたとしても、これはカオナシさんと分かる曲。そして、間奏のドラムとギターがとにかくかっこいい。早くライブで聴きたい。
しかし、
あの娘が幸せで居ますように
でも孤独に寝てますように
この心理を描いた上でタイトルが星にでも願ってろってのが、良い。
タイトルを聴いたときに、身も蓋もない水槽をイメージしていたので、曲を聴いて一番、曲調に意外性があった。渦巻く感情にぐるぐる巻かれながら走って落ちていく感じ。「こんなことなら」と同じ言葉が繰り返される後ろで、音が変わっていってその曲の移り変わりに怒りから諦め、後悔に感情が移り変わっていく様子が感じ取れた。
10.喉仏
dmrksからの喉仏。こんなことならって思っているとき、それはバレてるし見えてる。今作、アルバムの中でもつながりを感じたり、今作のアルバム内だけでなく、これまでに出た曲にもつながりを感じるものが多く、15年の積み重なりを感じる。
11.本屋の
わたしがよく行く本屋が思い浮かんだ。景色がくっきりと輪郭を持って頭に浮かぶ。絶対にこの本屋とは違うと分かっているけど、わたしの体験と重なるものがあるのが不思議。帰ったら積み上げたままの本に手を伸ばして読もうかな。買ったままの本があったはず。
12.センチメンタルママ
個人的な話だが、2024年、今までで一番体調を崩した。熱が出て仕事を休むこともあった。
体調を崩したときのことすら曲にしてしまうだなんて、尾崎さん、クリープハイプは、凄まじい。
13.もうおしまいだよさようなら
大丈夫みたいな曲。
会いたくなったらまたおいで
この曲の中の優しい言葉たちが暗闇をゆっくり明るくしてくれる。
14.あと5秒
まるで好きなバンドのMV、クリープハイプの本当のMVを思い浮かべた。だから余計にこの曲が自分の生活にぐっと入ってきた。生活の延長線上にいるのではなくて、生活の中にいる。
15.天の声
これが、自分に向けた曲だと思える。
いろいろな曲の歌詞が散りばめられていて、クリープハイプとの時間が走馬灯になって蘇る。
いわゆる応援歌みたいなものが、苦手なわたし。クリープハイプの熱すぎず冷たすぎないこのちょうど良い温度感にわたしは何回も救われた。出会ってからお互いに歳を重ねてきたけれど、これからも一緒に歳を重ねていきたい。15年後の30周年も当たり前な顔をして通過したい。
クリープハイプと出会えたこの人生、幸せだよ。
わたしがクリープハイプを見つけたと思っていたけど、クリープハイプがわたしを見つけてくれたんだ。そう思えたアルバムです。
#こんなところに居たのかやっと見つけたよ
#クリープハイプ