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「面影」

「雨を聴く」というハープとフルートの為に書かれた結構難しい曲を薔薇フェスタの最後の日に演奏する依頼が来た。
生憎の小雨だったこの日は人もまばらで少しほっとした気持ちになる。
春の薔薇も最後の風情で、バラ達の前は雨のベールで包まれた。
弦は湿気に弱いので、どきどきしながら、フォルテッシモで静かな霧雨の音を出しフルートと合わせた。
時にバラ園の噴水のように。
時にまだ発見されていない小さな滝のように。
開いた花びらに雨粒が次々と降り注ぎ、うつむき加減のその姿は、
最後に会った彼女の横顔のようだった。
静かな雨音は次第に弱くなり、ハープとフルートの音でバラ園は満たされ始める。
雨の向こう側の光はどんどんこちらに来てやがて花びらの上で光輪を作る。
輪の真ん中に彼女の面影が浮かび上がり光っている。
雨とバラの香りが混ざって余計に覚えた彼女の記憶が鮮明になる。
その時思った。
君に会いに行こうと。

Fin
オリジナルストーリーNo.11

*小牧幸助さんの企画に参加させて頂きました。

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