書きかけ

脳死で文章綴るのが楽しくなっちゃってまただめになっちゃった・・・

頭使わないとなあ



 若いうちの苦労は買ってでもしろ、なんて言うけれどさ、その気がない人にものを買わせるのって押し売りだし、実はキリマンジャロ無酸素登頂並みにやっべー苦労だってことを隠して買わせたら、やっぱりそれって詐欺っていうはずだし。結局これもさ、無垢な私ら若者に在庫の積み上がった苦労押し付けようっていう資本主義者の陰謀なわけ。社会主義者ならきっとこう言うよ。
「若いうちは須らく苦労すべきである」
 ああ、やっぱりなんてディストピア。秘密を守るか、正直を守るかの違いだわ。けれどそのどちらも信義ではあるらしい。主義とか思想っていうのは、そういう馬鹿馬鹿しい言葉に信義を与えるためにあるのよね。
「サオリ、なにボーっとしてんの?」
 この没個性的な呼びかけで最初の台詞を消化したのはジュンちゃん。貴重な親友。丸メガネにおさげという没個性的を通り越して重要文化遺産みたいな格好をしている。そしてお弁当のだし巻き卵を橋に突き刺したままの姿勢、お行儀がよろしくない。
「それは小説の冒頭にふさわしくない言葉だわ」
「なに?」
「人生日々小説の冒頭シーンだと思って生きるべきだと思う」
「私らただのパンピーJKが主人公になれると思う?」
 ジュンちゃんは没個性的なJK生命体だけど、時にはこうして私の心を深くえぐる言葉を放つこともある。それがしかも誰に対してもそうだってんだから、友達一桁しかいない私の半分くらいしか友だちがいないのも無理はないよね。
 もっともこれが、私が友情をかさにきてジュンちゃんの間抜けを嘲笑っている姿を晒し者にするスタイルの小説だったら、実はジュンちゃんって人気者で私はお情けで友達やってもらってただけだってことがオチのとこで判明するんだ。で、私はジュンちゃんを刺して自分も死ぬ。あれ? それはもっとバイオレンスとダークな少女が好きなオタクくん向けのヤンデレ展開?
「ねえサオリ、ウィンナー箸にぶっ刺したままボケっとすんのやめなよ。行儀悪いよ」
「だし巻き卵は許されるのか」
「なに?」
 誰かを批判する時、往々にして自分のことを顧みるのは難しい。そのことについて私はジュンちゃんを責めるつもりはない。だって私も、自分がウィンナーに箸ぶっ刺してるのをすっかり忘れてだし巻き卵云々言ってたからね。
 ウィンナーを口に放る。お行儀が悪い。味は良い。スーパーで20個400円で売ってるやつだから、おいしい。既成品はいつだっておいしくて、私の手料理はいつだってまずい。ママの手料理は、まあ普通。健康志向だから塩味が薄っちいけど。
「大量生産大量消費バンザイ!」
「あ、私トマト嫌いだって言ってんのに。サオリ食べる?」
「うん」
 酸っぱかった。
 ミニトマトって皮の部分の食感ってなんか気持ち悪い。でも健康に良いらしいから食べてしまう。
 しかし実際に私の食べたトマトがどれくらい現在の健康に寄与しているのかは不明だ。喰らわれた野菜たちはその貢献度に関するエヴィデンスを提供してはくれない。一方で喰らわれたスウィーツは体重への貢献度に関するエヴィデンスを積極的に提出してくれる。できる社員だ。そういう一部の有能な社員に依存した形態が、昨今の私の肥満気味な体型をもたらしているのだ。
 55キロを超えたら、さすがに雇用形態と労働環境を見直しましょう。
「そういえば4限ってなんだっけ? 考古学?」
「どんな高校だよ」
 美しい突っ込みだった。就職にも進学にも失敗したらジュンちゃんと私でお笑いコンビとしてやっていこうか。退廃JK漫才。
 2匹目のウィンナーを食らう。うまい。けれどもういない。あとはママの薄味野菜炒めだけ。キャベツが重い。
「私とジュンちゃんで漫才するならコンビ名なんだろう」
「漫才すんの?」
「コンビ名を考えるのに漫才コンビになる必要はない」
「じゃあ、そうだなあ。うん。ジュンとサオリで……呪怨」
 これには私も参った。ついさっきまでは存命だったウィンナーにぶっ刺さっていた白い旗をあげる。なんの意図があってママはこんなものをつけたんだろう? 私がジュンちゃんに負けることを想定していたのだろうか。
「ねえジュンちゃん、なにかおかずちょーだい。あともうキャベツしかなくって」
「キャベツ、いいじゃん。食物繊維だ。便秘になりにくい」
「ね、食事中。お行儀が悪い」
「誰だってうんこはする」
 うん。ジュンちゃんは本当にいつだってこんな調子だった。なに言っても無駄なんだよ。
「で、なに、オカズ? いいよ、チーカマあげる」
「え、私ほどチーズが嫌いな女子高生なんていないと思うって話今朝しなかった?」
「した」
「したよねえ。そのお箸を近づけるのやめてくれないかなあ」
 チーズの臭いがする。そりゃあチーズだから。けどチーズが嫌いな人もいるわけで、チーズの臭いのしない、チーズの味もしない、チーズの食感も見た目もないチーズがあってもいいと思う、私は。それくらいにチーズじゃなければ安心して食べられるのに。
 それってまさしくチーズはどこへ消えたってやつ? アムウェイはお断り。
「むぐ」
「これが餌付けか」
 ちなみにだけど、私のチーズ嫌いはいわゆる食わず嫌いってやつだ。だってDNAにこれやばいよって刻み込んであるから。疑われたらゲノム解析にかけたって構わないよって嘯く準備はできているけど、幸か不幸か私の食わず嫌いの理由を説明する機会はこれまでになく、そしてこれからもないだろう。
 で、そんなだから、実を言うとチーズを食べた場合にどうなるかってのも知らないわけだったんだ。どうなるって、栄養になるだけだろう。消化器官は好き嫌いしないもの。
 私だってそう思ってたんだけど……。
「サオリん、なんか輝いてない?」
 ジュンちゃん、どうして君はそんなに冷静なの? ひょっとして冷酷なの? なんて親友の友情を疑う暇もなく、世界がどろりとチーズみたいに溶けて消えた。
 いや、まさかね。私は、実はチーズを食べるとタイムスリップする体質だったなんて、いったい誰が予測できるっていうんだろう。これを知っていたからこそ、DNAはチーズなんて食うなって警告していてくれたんだね。

 第一の章

 目は最初から覚めていたけど、それでもあえてこう言いたい。
 目を覚ますと、知らない天井がそこにあった。
 いや、実を言うと目が覚めていただけじゃなくて、知らない天井ですら無かったんだよね。私は、さっきまでジュンちゃんと昼飯かっくらいながら駄弁っていたゼン=ゼン高等学校3-B教室の中央で、大の字になってぶっ倒れていた。めっちゃよく知っている天井だ。
 訂正。
 目は最初から覚めていて、見飽きたくらいによく知った天井がそこにあった。
 目をパチクリさせる。なんか目の話ばっかりだよね。全く残念なことに視界くらいしか私の狭量な脳みそが処理できていないんだと思う。
 がばっ。
 飛び起きた。だだっ広い教室。なんだか違和感がある。それはべつに壮大な伏線ではなくて、単に机と椅子がすっかりなくなっていたからだ。なにもない教室というのはとても違和感がある。散らばっていてこそ正常。私の部屋のように。
「とりあえず、順番に整理しよう」
 声が小さい。
「順番に整理しよう!」
 よし。気持ちがちょっと切り替わった。そして近くに誰がいれば奇声の様子を見に来るだろう。もしも来たらそいつに聞きたいことが山ほどある。あるいは奇声にびっくりして逃げてしまうかもしれない。それなら危険が減ってよろしい。
「整理をしよう」
 まず、1つ目。ここはどこだ? 3-Bの教室。なんで椅子と机がないのか? 知らない。
 2つ目。私の身に何が起こった? タイムスリップ。どうしてそうとわかるのか? DNAが呆れながら教えてくれたから。
 あ、なんだか私、やばい人だなあ。
 突然に泣きたくなるのを堪らえる。いいよいいよ知ってるから。つってもそりゃ、いいとこ中二病をこじらせた程度のやばい人くらいだって自覚くらいしかなかったし、突然に超常現象に巻き込まれるようなやばい人であるとは想定外だったけどね。
 3つ目。タイムスリップであるとしたら、ここは過去なの? 未来なの? 知らない。
 ヒントはいくつかあった。
 ヒントその1。まず椅子と机がないこと。それは確実にヒントだ。例えば私の記憶の中にこれと同じ光景があったら、それは過去だよな。文化祭の準備とか? そのへんは有り得そうな話だ。そして過去なら話は早い。たぶんそっから私は何かを、母親の事故死を未然に防ぐとか、宝くじを買い占めるとかをやればいいってことだから。
 でもそんな記憶は脳みそひっくり返しても出てこない。そもそも私はジュンちゃんと協力してできるかぎり穏便に静謐に学園生活にケリをつけようと考えていたわけで、学園祭なんて何月にやってんのかさえ知らなかった。
 消去法的に、ここは未来。の可能性が高め。もちろん過去であるという説が潰えたわけじゃない。私は過去のあらゆるものを知ってるわけではもちろんなく、むしろ知らんことのほうが多い。
 ただ私の希望したい観測を参照するに、もし過去にタイムスリップしたのなら、やっぱり私の知っている時間と場所にぶっ飛ばされるのが常識的だと思う。タイムスリップに常識もクソもないっていうのは正論だけど、世の中が正論で回っていれば苦労はない。
 一方で未来ならとても話は簡単だ。私は過去のことなら少しくらい知っているけど、未来については一切合切存じ上げない。だからここが未来であってもおかしくない。
 ヒントその2。教室の掲示物。これもまた私の希望を裏付けている。
『学年通信。2022年4月1日。新入生の皆さんへ』
 こういうものをヒントと呼ぶのは憚られるけれど、しかしフェイクニュースの蔓延る昨今においては単一の情報から全てを確信に結びつけるのは危険。
 ただ残念なことに掲示物は学級通信一枚こっきりしかなかった。たぶんもう少し掲示されていたんだろうという残滓はあったけど、残滓ではどうしようもない。
『春といえば、皆さんはどんなことを想像するでしょうか。入学、進級、卒業。生活における大きな節目という印象があるかもしれません。あるいは桜。お花見。長い冬が終わって楽しいイベントが開かれるようになる時期でもあります。これらのイメージは、全てとても大切なことです。いずれ皆さんが学生でなくなった時に、きっと素敵な思い出になることでしょう。そして今日はもう一つ、春に新しいイメージを付け加えましょう。それは、昨年にこの新生大東亜共和国の成立した季節だということで』
「す?」
 そっから先は破れていて読めない。自然に破れたというよりは誰かにびりびりにされたという風。けれどまあ、これ以上は読みたいとは思わないし、できれば読まなかったということにしておきたいかな。特に理由はないけど、読まなかったほうが幸福な気がした。
 ヒントその3。
 そんなに広くない教室の縁まで歩いていく。外壁の方向。率直に言えば窓の方へと近づく。窓は全部割れている。ぶちまけられたクリスタルがそのへんに散らばってる。夜中ならクリスタルナハトみたいだって不謹慎なことを言うのも一興だったけど、たぶんまだ昼くらい。それと、私は上履きを履いていたから怪我をする心配はない。全裸でタイムスリップしていなくて本当に良かった。
 まあ、瓦礫の山と称するのが最も適切なんだろう。瓦礫が校庭の向こうの、たぶん町並みとかそういうのがあったような気がする空間に山のようになっている。煙とかもちょっとあがっていた。そして山のようになっていると言いつつ、ビルとかに比べてずっと背丈が低いから空がとても広い。
 抜けるような青い空、それをボールペンで引っ掻き回したような煙たち。そこを鳥が三匹飛んでいく。きれいだなあ、なんてぼんやりと見上げてみると、鳥じゃなくて飛行機だった。羽ばたきもせずに飛んでいる。これといった根拠があるわけじゃないんだけど、あれって爆撃機なんじゃないかな。そうだったら嫌だな。でも、そうなんだろう。
 さて、ここは未来。いくつかのヒントから私はそう結論づけた。ヒントと呼べるのかな。たぶん答え合わせがそこにあったんだろうけど、あんまり認めたくなかったからヒントだとか言ってみたんだ。自分で自分の逃避を分析することくらい悲しいこともないよ。
「ふうーん」
 黒板によっかかる。なんか変な声が出た。どうにもならない状況に陥ると変な声が出ちゃうんだ。
「おぅーむ」
 机もない。椅子もない。教卓机さえない。そして床の上にはちょっと埃が積もっていて、この校舎は何らかの理由で放棄されて久しいんだってことがわかった。なくなった机とか椅子とかはどこに行っちゃったんだろう。わからない。わからないことだらえだった。
「みぇぁまぁんん……むぅ」
 基本的にま行に偏りがあることは否めない。頭を抱えてうねうねしながらそう発声するとリラックスはできるんだけど、人を呼び寄せる効果は、今日のところは控えめらしい。
 いつもはすぐにジュンちゃんが
「クラゲみたいな声を出すな」
 って突っ込んでくれるんだけど。クラゲは喋らないのに彼女は本当にいつもそういう態度なんだよ。
 それで、思いつく。ジュンちゃんでも探しにいこうか。
 実を言うと私はけっこう途方に暮れていた。まずタイムスリップなんてしたのが最悪なのに。それで『時をかける少女』みたいなんだったらいいさ。実際は『漂流教室』だ。そしてつい十分くらい前までは普通にジュンちゃんと話していたはずなのに、今はもうどこにいるかわからない。最低の3乗だってまだ足りない。
 それでも、あいつを探そうって心に決めてみると、不思議と元気が湧いてくるのを感じた。腐っても、腐りきっても、腐りきって土に帰って土地ごと土砂に流されて、数百万年後に化石で見つかったって親友だ。
 ダッシュ。教室から転がり出る。そっから駆け出そうとした私のやったるぞっていう気分は、けれど、すぐになよっと萎んでしまった。目が合う。誰とっていうとこれが厄介で、いや言葉にするのはとても簡単だ。
 私が私を見つめていた。奇怪なものを見る目つき。
「あ、どうも……」
 自分にあって第一声がこれである。とても泣きたい気持ちになった。

 学校を出るまでに私が――つまり未来の私が発した言葉は「ついてきなさい」だけだった。
 ついてきなさい、かあ。私だったら、過去の私と出会った時にはそんなこと絶対に言わないだろうな。でも現に未来の私は私に向けてそう言った。それが成長という言葉の意味なんだろうか。わからない。でもやっぱり、私は例え成長したとしても、過去の自分に第一声から「ついてきなさい」なんて言いたくはない。
 一方で未来の私は、やっぱり今の私の纏ってる雰囲気とはちょっと違うものを放っていた。ここが2022年なら、私は22歳。そろそろ青春も下り坂って感じかな。身長とか足の長さとか胸とかは成長しないみたいだけど、ちょっと大人びた感じがする。髪も伸ばすのはやめにしたみたいだし、馬鹿の一つ覚えでどこへ行くのにも着ていた(今も着てる)セーラー服は当然着ていない。じゃあ何を着ていたかと言えば、迷彩柄のジャケットを着ていた。成長というのは常にプラスの方向性を志向するものではないないんだっていう悲しい真実。
 まあ、それでも自分だってのはすぐわかった。人間、根本的なとこはかわらないんだろう。それが魂ってやつの正体かもしれない。きっと向こうもそう思ってるだろう。
「どうしてこの時代に?」
 学校からくだった駅前。サブウェイ、ケンタッキー、マクドナルド、丸亀製麺と並んでいた黄金のジャンクフード地帯も今や瓦礫、瓦礫、瓦礫、そして瓦礫の土気色の瓦礫地帯に変わっていた。けど連中のしぶとさならこの瓦礫の上にまた店を出しそうなものだ。そうしないってことは、ほんとに人が居ないんだろう。
「ジュンちゃんにチーズを食わされたんですよ」
「よくわからないけど……それよりも、ねえ、自分としゃべるのに敬語を使うの?」
「私ならそうしますね」
「遠慮から一番遠い存在じゃない? 自分って」
「いやあ、私をより長く生きてるだけ凄いですよ。尊敬しますよ。その証として敬語くらい使わせていただけませんか?」
「こんな嫌味な人間だったのね、私……」
 はい、そうです。そしてお変わりないようですね、私。
 なんとなく気まずい、というか冷戦のような雰囲気になってしまった私たちは、旧・黄金のジャンクフード地帯の中心で足を止める。未来の私が虚空に向かって手をかざす。電子的な音。ピィヒュゥンみたいな感じ。瞬間、空間が切り裂かれた。質量を伴った物体が現れる。暗黒色の巨大な豆腐。ちょっとビビって一歩たじろいでしまったのを、嫌な奴だ、未来の私は見逃さない。
「なに驚いてるの? すこし隠しておいただけじゃない。まあ、5年前にはなかったかもしれないけど」
「正直に言ってください。5年じゃなくて50年経ってますよね?」
「うーん、南極で輝くトラペゾヘドロンが見つかってからは1年でそれまでの10年位のペースで技術が進歩したの、なんて言って伝わるかしら」
「伝わったら自分のことが嫌いになるんじゃないですか?」
「そうね」
 何事も、何事を成すにおいても、自分が嫌いだっていうスタート地点は碌なもんじゃない。それでも通常は、自分が嫌いになるのはだいたい自分の間抜けさとか、周囲から強引に認めさせられた不甲斐なさとかそういうやつのために嫌うのであって、そういうのは自己責任ってことにしといてと頼まれる分まだマシだ。眼の前に自分がいて、そいつはなんだか嫌だなあっていう行為を平気でする。それで自分が嫌いになる。なんて最悪な体験だろう。
 まあ、私は私を嫌って久しいから今更どうにもならないけどね。
 未来の私が巨大暗黒豆腐の側面にそっと触れた。ぐにゅるぅんと一部が歪んで内部が露出する。つまり扉が開いたんだろう。乗り込む私に従って私は乗り込む。なにもない空間だ。バスとか電車みたいに側面に据え付けられたソファしかない。そして明らかに外から見た時の大きさと広さが釣り合っていない。
「ちょっと狭いけど」
「バスの中くらいありますよ」
「4次元的に閉じているから、窓から乗り出すと次元断裂することだけ注意してね」
「じっとしています」
 次元断裂とはなんだろうかと尋ねることはできなかった。次元的に断裂するんだろうということまでは想像がつくけど、肝心の次元的というものがわからない。私は借りてきた猫みたいにちょこんとシートに座る。そのすぐ隣に未来の私が腰を下ろした。私のくせにいい香りがするんだね。互いの鼻頭が近づく。迷彩服のジャケットなんか着てるくせにメイクは私よりもずっと上手くなっていた。
「直感的にそうだと思っちゃったけど、本当に私なのね」
「ええ、まあ、はい」
「そういうことって本当にありえるんだ」
「私も嘘だった方が良いなと感じてます」
「どうやって来たの? タイムマシン? それとももっととてつもない方法で?」
「チーズを食べちゃって」
「それって何? タイムスリップしちゃう食べ物?」
「普通のチーズです。チーカマ。かまぼこにチーズが入ってる。DNAが食うなよやばいよっていってたんだけど、ジュンちゃんが無理やりに口に突っ込んできて……」
「うぅうん?」
 そう、例えるなら猫が「ワン」と鳴きながら空を飛んでいるのを目撃したらこんな反応をするだろうなっていう反応を私はしていた。まあしょうがないよね。でもそれ以上に説明のしようがない。全部本当のことだから。
 

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