もったいないので
1年ほど前に「脚本−1グランプリ」というライブがございまして
みんなが小説のようなものを書いて舞台で発表して小説の賞に応募しようってライブでございまして
応募してから半年ほどどこにも公開してはいけないというルールがございまして
もうその期間が過ぎて晴れて自由になったわけでございまして
中々労力のいるライブだったのに箸にも棒にもかからなかった私の作品がございまして
もったいないので見てもらおうというわけでございます
『まっくら』
真っ暗な道
ひたすら歩く
物心がついた頃からずっとだ
只々歩き続ける
出口を探して
私には仲間がいる。でも暗くて顔はよく見えない。
何人いるのかも分からない。
家族なのか?それすらよく分かってない。
私達は生まれた時からずっと暗闇を歩き続けているのだから、分からなくて当然なのかもしれない
でもどうやら全員の目的は一致している。
ただ、外に出たいのだ。
目的が一致しているならそれはもう仲間と呼んでいいのではないか。
たとえお互いの顔すら分からなくても。
ある時、私の近くを歩いていたであろう仲間が私に話しかけてきた。
「あんたも俺を嘘つき呼ばわりするのか?」
「私は君の事をまだ知らないよ。嘘つきと思うかどうかは話を聞いてからだよ」
「それじゃあダメだ、話せない。絶対に信じると約束してくれないと話さないよ」
どうやら散々信じてこられなかったのだろう。
少しかわいそうに思えたのでどんな話であろうと信じてあげようと思った。
「絶対に信じるよ。君は嘘を言う奴の熱量ではないからね」
「よしじゃあ話してやろう。よく聞けよ、俺は出口を見た事があるんだ」
「なんだって!?本当かい?」
「やっぱりあんたも信じないのか!」
「そんな事はないよ、信じるよ。信じると今約束したばかりだからね。でもひとつ聞いてもいいかい?」
「なんだよ」
「出口を見たのにどうして外に出なかったの?」
自分でも至極真っ当な質問だと思った。
「それはあれだ、出口が塞がっちまったんだ」
「塞がった?」
「そうだよ・・・仕方ない、最初から話そう」
彼はあきらめたようにそう続けた。
あきらめられる筋合いはないはずなのに。
「いつものように暗闇を歩いていると、遠くに光が見えたんで俺はその方向へひたすら進んだんだ」
「光だって!?」
もちろん見た経験はなかった。
「そうだ、光だ。そしたら他の仲間達も大勢その光に集まってきた。中には脱出できた奴もいた」
「脱出だって!?」
脱出はこの暗闇の世界で生きる者の悲願だ。
それを成功させたというのなら期待せざるを得なかった。
「ああそうさ。俺ももうすぐ出られる、そう思ってたら出口に群がった仲間が多すぎて、つっかえて身動き取れなくなっちまって出口を塞いでしまったんだ」
馬鹿だと思った。心からそう思った。
「それならみんなを落ち着けて順番に脱出させてやればいいんじゃないか?」
私は頭のいい提案をしてあげた。
「俺もそう思ってみんなに落ち着くように言ったんだ!そしたら・・・」
彼は突然怯えたような細い声になりこう言った。
「・・・みんな死んじまって動かなくなってたんだ」
意味が分からなかった。
分からないのならどうやら私も馬鹿なのであろう。
「死んだ?そんな突然、どうして?」
「わからねえよ!でもこう考えるのが自然だ。俺たちは外に出ると死んじまうんじゃないかって」
彼が嘘をついてるようには見えなかったし、彼の推測も正しいように思えた。
「信じたくない話ではあるけれど、それが真実かどうかは私にはどうでもいいよ」
「どうでもいい?どうしてそんな事言うんだよ?」
「どちらにせよ私は外を目指すもの」
「死ぬかもしれないんだぞ?」
「だってここでは、それしかやる事がないからね」
格好つけたわけでもなんでもない。この暗闇の世界では他に選択肢がなかっただけだ。
ようするに退屈なのだ。
「あんた面白い奴だな。それもそうだ。こんな真っ暗な所で一生暮らすぐらいなら、どうなろうが外を目指す方がましってなもんだ」
それからしばらく彼は私に付いてくるようになった。それは楽しくもあったが嫌でもあった。
というのも、この世界はどうやら迷路のような構造になっているようなのだ。
暗闇の中で無数の分かれ道がいくつも点在している。
私は過去にも行動を共にした仲間がいた。とても気の合う仲間だったのだがある日突然姿を消した。
暗闇の中ではぐれてしまったのだ。
あまりにも分かれ道が多すぎて一度はぐれると再び出会うのは困難であり、ましてやこの暗さなら限りなく不可能に近いのであった。
この世界では当たり前のように別れが突然やってくる。
私はまたはぐれる事が怖くて誰かと仲良くするのを躊躇していた。
それでも彼は私に付いてくるし、私もわざわざ振り切ろうとはしなかった。
そんな時間がしばらく続いたある日の事、
この暗闇の世界が大きく揺れる出来事があった。
それは比喩ではなく、文字通り大きく世界が揺れたのだ。
私の身体は壁に打ち付けられ、近くにいたであろう大勢の仲間達はもみくちゃになっているようだった。
何が起きたのかと困惑していたら彼の叫び声が聞こえてきた。
「おい!あれを見てみろ!」
私は彼の言葉を理解するよりも先に安堵した。
どうやら彼とはぐれてはいないようだ。
私は彼の言う方を向いた。
見えないはずの世界で私は初めてモノを見た。
光だった。
「さっきの揺れで壁が崩れたんだ!」
彼の顔も初めて見えた。自分に似ている気がした。
もっとも、自分の顔も見た事はないのだが不思議とそう思えた。
「脱出できるかもしれない!」
私達は急いで光に向かって走り始めた。
死ぬかもしれないという恐怖心は一切なく希望に満ち溢れていた。
走っている途中に彼が気づいた。
「この光、一箇所だけじゃないぞ!」
周りを見渡せば無数の光が溢れていた。
それはとてもとても綺麗な光景だった。
「いこう!」
私と彼は光に向かって一緒に飛び込んだ
他の仲間達もこぞって光に飛び込んだ
こうして、私たち赤血球は、みんな外に出る事ができました。
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