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金魚の発生学実験#08 アルテミアを与える。

1.導入

1水生動物学研究室主宰の太田欽也です。今回も皆さんに金魚の発生学実験について解説してゆきます。このNoteは研究室内での教育用動画のテキスト版です。動画を見る前に内容を文章でチェックしたい方や動画を見た後で内容を確認したい方などは参考にしてみてください。しかし、動画の方が圧倒的に情報量が多いので、見られていない方は動画版をご覧になられることを強くお勧めします。10分ほどの動画です。上のリンクからご覧いただけます。では、今回は前回に引き続き、餌料生物についての解説です。アルテミアの孵化させて金魚に与える方法を解説していきます。

2. ブラインシュリンプ

アルテミアやブラインシュリンプと呼ばれるこの生き物。私たちが餌に使う種はArtemia salinaという学名だそうで、なので、アルテミアなのですね。このアルテミアは塩分の高い湖、塩水の湖に住んでいる甲殻類です。前回のゾウリムシに比べて、このアルテミアは餌料生物として栄養価が非常に高いので、大きくなってもらいたい、孵化仔魚たちには積極的に与えたい餌料生物です。
 しかし、淡水の中では長くは生きられません。あと、自分たちの水槽設備ではこのアルテミアの次世代をえて恒久的に維持することができません。つまり、ゾウリムシと違って、毎度毎度、アルテミアの卵をお店で買ってきて孵化させて使っていくしかないのです。なので、ゾウリムシの時とはちょっと違ったところに気を使いながら使っています。
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まずは、一連の流れから簡単に説明します。このようなアルテミアを孵化させるためのアルテミア孵化器を使っています。アルテミアを回収しやすいようにそこが細くなっています。この容器に海水を入れます。そして、アルテミアの卵を1匙から4匙ほど入れます。あとは、蓋をして、空気を送り込み激しく海水をかき混ぜます。このアルテミアの卵はお互いにくっついているとうまく孵化しないようなので、激しく曝気して、海水をかき混ぜるようにしています。
 あと、加温するほうがアルテミアの孵化するタイミングが早まるようです。しかし、加温しようとすると、これまた準備が必要なので、我々の研究室では室温でそのまま孵化させています。1Lのアルテミア孵化器を複数準備しておきます。そして、毎日、ひとつの孵化器にアルテミアの卵をセットしておいて、いつも新鮮な孵化したばかりのアルテミアが得られるようにしています。
 そして、2日経って、中の卵が十分に孵化した頃合いに、海水をかき混ぜるのを止めます。そして、遮光用の箱を被せます。こうすると、孵化したアルテミアが容器の底の方に泳いで集まってきます。良い感じで、アルテミアがたくさん容器の底の方に集まったら、海水と一緒にアルテミアを別の容器に回収します。こうすると、海水の中に大量のアルテミアが入った、いわば「高濃度アルテミア入り海水」としてアルテミアを集めることができます。孵化したばかりのアルテミアの濃度が高い場合、この高濃度アルテミア入り海水はトマトジュースやニンジンジュースのようにな色になります。あと、高濃度であることもポイントです。
 では、ここで、少し考えてみましょう。なぜ、わざわざ、高濃度アルテミア入り海水としてアルテミアを回収するのでしょうか?その理由は仔魚の入った飼育水にあまり海水を入れたくないからです。新しい新鮮な飼育水が絶えず大量に流れ込んでいる水槽システムの場合であれば、海水が多少混入しても、それほど大きな問題ありません。
 しかし、強い水流に抗えない弱い小さな仔魚が入っている水槽には大量の飼育水を流し込むことができません。水流で仔魚たちが流されてしまうリスクが高まるからです。このような、小さな仔魚が入った水槽に大量の海水が流れ込むと飼育環境の塩分濃度が著しく上がってしまうのです。
 なので、とりわけ小さな仔魚にアルテミアを与える場合、海水をあまり水槽に持ち込まないように気を使っています。丁寧な人の中にはアルテミアを真水で洗う人もいるようです。でも、自分たちはそこまではやっていません。
 と、いいますのは、これも自分たちの感覚なのですが、あまりにも頑張ってアルテミアを真水で洗ってしまうと、今度はアルテミアの方が早く死んでしまうような気がするからです。あくまでも感覚ですが、このようにするほうが、アルテミアが新鮮な状態で、金魚の口に届くのではないかという感覚があるので、このような方法でやっています。
 そして、あたえるアルテミアの量にも注意しています。ゾウリムシと違ってアルテミアは真水の中では長くは生きられません。なので、仔魚がゾウリムシを簡単に何匹も丸呑みにする様なサイズになったあたりで、水槽にほんの少し、アルテミアを入れて様子を見ます。そうすると、仔魚はアルテミアを追いかけます。そして、運がいいと、体を激しく振ってアルテミアを食べようとする瞬間を見ることがあります。もし、その瞬間を入れなくても、アルテミアを食べることに成功した金魚のお腹はオレンジ色になりますので、すぐわかります。このサイズになってから、与えるアルテミアの数を加減しながらアルテミアを与えるようにしています。
 あたえるアルテミアの量に注意するのは水カビの発生を抑えたいからです。死んでしまったアルテミアは水カビが発生する原因となるからです。なので、すこし、多めにアルテミアを与えた場合、後日、水カビが発生していないか、アルテミアを与え始めてからは水槽の底が汚れていないかをチェックするようにしています。そして、汚れがひどい場合はピペットで汚れを吸い取るか、水槽ごと変えるかして、綺麗な飼育環境を維持するようにします。
 良い水質を維持した状態でアルテミアを適正な量与えづつけると仔魚たちは日に日に大きくなります。そして、体が大きくなるにつれてアルテミアを食べる量も多くなっていきます。なので、準備するアルテミアの量もそれにあわせて増やします。仔魚の時期は、水質を維持しながら継続的に餌を与えることが成長に欠かせないので、新鮮なアルテミアを絶やさないように気を使います。
 あと、私たちが気を使っている細かな注意点を説明します。アルテミアは購入して容器を開けたら涼しい場所に保管して出来るだけ速やかに使い切るようにしています。容器を開封してから長い間時間が経つとアルテミアの孵化率は下がっていきます。そうなると、孵化したアルテミアに混じって孵化していない卵が混じります。この孵化していない卵は、先ほどお見せした方法では上手く取り除くことができません。
 メッシュなどを使うと分けることができるのですが作業が煩雑になります。また、この孵化していない卵は、ある程度大きくなった仔魚であれば問題ありません。そのまま、消化されずに体から排出されます。しかし、小さな仔魚があまりにも大量に孵化していない卵を食べると消化管を詰まらせるかもしれません。なので、できるだけ、孵化していないアルテミアの卵が水槽に入らないように気を使っています。
 そして、孵化したアルテミアの保存方法についても説明します。孵化してまもないアルテミアは速やかに仔魚に与えてしまうのがいいのですが、どうしてもおいておきたい場合があります。その場合、新鮮な海水の中に入れて、もうしばらく海水をかき混ぜるか、冷たい環境で代謝を抑えて活かすようにしています。
 では、我々の研究室で注意しているアルテミアについてのまとめです。
1:海水は出来るだけ少なく。
2:適量を与える。
3:水槽の底は綺麗に。
の3点です。

3.掃除

あと、もうすこし、水槽の管理と餌料生物についての補足しておきます。光が十分に当たっている水槽には藻類が生えてきます。そして、あまりにも大量の藻類が生えるすぎると研究を進めるうえでいろんな問題を引き起こします。なので、観察や実験の邪魔になる藻類は取り除くようにしています。しかし、私たちの研究室での経験ですが、ピカピカに磨き上げられた水槽よりも、少し壁に藻類が残っていた水槽で飼った金魚の方が早く大きくなるみたいなのです。正確な理由はよくわかりません。おそらく、この壁に着いた藻類が餌になっているのかもしれませんし、あるいは藻類を餌としているほかの微生物が餌になっているのかもしれません。いずれにせよ、自分たちとしてはとにかく金魚が早く大きくなってくれたほうが研究が進みます。なので、このように、観察のためにガラス面を綺麗にして、底面も綺麗にするようにして今うが、壁面の藻類はあえて残すようにしています。つまり、我々の水槽設備で飼われている金魚たちは、ゾウリムシ、アルテミアのほかに、水槽の壁に生える藻類やそこに生息する微生物をたべて大きくなっていく訳です。

4.まとめ

はい。前回と今回とでゾウリムシとアルテミアの管理方法を解説してきました。ほかにも金魚の餌料生物に用いられている生き物はいくつかいるかと思います。たとえば、ミジンコとかワムシとかですね。
 しかし、我々の研究室ではこれら二つの生き物を使っています。その理由は、ゾウリムシとアルテミア、ともに我々の研究室の規模でも容易に小規模に飼育でき、なおかつ、衛生管理が出来るからです。
 実際に、これら二つの餌料生物と乾燥飼料、そして、時々、水槽内に発生する藻類や何かしらの微生物を与えるだけで、仔魚から稚魚、そして成魚へと成長し一年経つと金魚のメスは発生学に必要な卵を産んでくれました。事実、我々の研究室から発表された論文に登場するこれらの金魚も同じ餌を食べて大きくなったものです。
 この、我々の研究室の環境で飼育した金魚たちがどのように大きくなってきたかについては、これらの論文で紹介しているので参考にしてみてください。概要欄にリンクを張っておきます。そして、皆さんの中で金魚を実際に飼われている方がおられたら比べてみてください。おそらく、かなり違う結果になるかと思います。
 実際に、我々がこの動画で説明したようなやり方でほとんど同じ環境で飼育しても、成長の在り方に個体差が出てきます。これは、環境や遺伝の影響が反映されているのだと思います。この環境と遺伝が発生過程を介して表現型にどのように影響するかについては、進化発生学の非常に重要な内容ですので、また、別の機会に解説したいと思います。

5.予告

さて、次回予告です。いままでの動画を見てくださった皆様は、すでに、金魚がどのようなものを食べて、どういう感じで大きくなるかはご存知かと思います。なので、次回からは、その知識をもとに、更に詳しい金魚の発生過程を理解していただけるような内容にしてゆこうと思います。とりわけ、金魚の発生段階表について詳しく説明してゆくつもりです。発生学を理解する上で大事なツールとなる発生ステージ表を身近な金魚を通じて理解してもらおうという試みです。おたのしみに。それではまた。

6.文献

Tsai, H.-Y., Chang, M., Liu, S.-C., Abe, G. and Ota, K.G. (2013), Embryonic development of goldfish (Carassius auratus): A model for the study of evolutionary change in developmental mechanisms by artificial selection. Dev. Dyn., 242: 1262-1283. https://doi.org/10.1002/dvdy.24022

Li, I.-J., Chang, C.-J., Liu, S.-C., Abe, G. and Ota, K.G. (2015), Postembryonic staging of wild-type goldfish, with brief reference to skeletal systems. Dev. Dyn., 244: 1485-1518. https://doi.org/10.1002/dvdy.24340

Li, I.-J., Lee, S.-H., Abe, G. and Ota, K.G. (2019), Embryonic and postembryonic development of the ornamental twin-tail goldfish. Dev Dyn, 248: 251-283. https://doi.org/10.1002/dvdy.15

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