金魚の発生学実験#03:胚発生を観察する
1:導入
この内容は上の動画の文章版です。「動画に興味はあるけど文章の方が理解が早い」あるいは「動画を見た後で内容を文章で確認したい」という方は是非ください。今回は、我々が発表したこれらの文献を参考にしながら、金魚の胚発生を解説してゆきます。
2:背景の説明
では、はじめに、受精卵の取り扱いと観察方法について簡単な説明をします。前回の動画でもお見せしましたが、金魚の卵は何かにくっつく性質があります。この性質を利用して、こちらの透明なプラスチックディッシュの上に受精卵を拡散、接着させます。そして、コチラの顕微鏡を使って受精卵を観察してゆきます。
3:細胞分裂から孵化まで
最初、受精卵は丸い形をしています。卵の大きさは、メスによりばらつきがあるのですが、直径はおよそ1ミリメートルぐらいです。
卵黄と胚盤(卵黄を含まない細胞質の部分です)がありますが。胚盤の方で細胞分裂が起きます。さて、これから、卵が受精してから孵化するまでを見ていただくわけです。しかし、すべての過程をお見せすることはできませんので、時間を縮めて撮影したタイムラプス映像や、時間を早回した映像を見ていただきます。では、受精卵の形が変わっていく様子を見てゆきましょう。
3-1:受精後30分から1時間
受精してから30分から一時間分経ったあたりで細胞が2つ、4つ、8つ、と倍倍に分かれていく様子を見ることができます。水温は24度。この段階だと割球の数を数えることができます。16,32,とドンドン数が増えてまいります。ブドウみたいな果物っぽい感じになってきました。
3-2:受精後約4-5時間
何段にも細胞が重なってきました、ここまでくると細胞を一つ一つ数えることはできません。24度水の中で4から5時間ほどでこのようになります。
3-3:温度と発生
ちょっと、説明の途中で申し訳ないのですが、ここで、水温と発生の進み具合について解説させてください。水温が高いと胚発生は早く進み、水温が低いと胚発生は遅くなります。つまり、温度で何分後にどういう姿かたちになっているか変わるのですね。なので、胚発生の進み方を詳細に説明するときに、時間だけではなく温度についても知っておく必要があるのです。
温度がバラバラだと胚発生の進み方が変わってしまい研究に支障が出ます。なので、私たちの研究室では24度に温度設定されたインキュベータもしくは24度前後になるように空調が設定されている室内で受精卵の発生を進めるようにしています。
ちなみに、今回見ていただく映像のほとんど長時間光を当てながらタイムラプス撮影された胚の映像です。なので厳密に24度で置かれた胚とは発生の進み具合が若干違っていることはご了承ください。この時間と発生段階の関係については語りだすとそれだけで一つの動画になってしまいますので、また別の機会に説明することにします。
3-4:受精後約5-6時間
受精後5から6時間後の胚はたくさんの細胞が卵黄の上に乗っかった様な形になってまいります。胚盤と卵黄の周縁の部分の形が胚発生が進むごとに変わってきます。細胞が何段重なっているのかもわからなくなってきます。そして、これから細胞の位置関係がめまぐるしく変わり始めます。
3-5:受精後約8時間
受精後8時間の胚はこんな感じになります。いままでは、胚盤が卵黄に乗っかっていたように見えていたのですが、ココからは様子が変わってきます。胚盤がドンドンと卵黄を取り囲むように動き始めました。生きている胚を見るだけではお腹と背中の位置関係はさっぱりわかりませんが、この時期に背腹の位置関係はすでに決まっております。これから卵黄がドンドンと胚盤に覆われていきます。
3-6:受精後約12時間から
受精後12時間以上たつと卵黄が胚盤に完全に覆われます。また、この辺りから、胚の様相が変わってきます。いままでは粒粒の細胞が均一に並んでいたように見えましたが、これからは神経や目やそのほかの組織や器官の元になる細胞が分化してきます。
3-7:受精後16時間
受精後16時間以上たつと、目や耳の元になる構造が見えてきます。また、連続した体節とよばれる構造も見られます。この体節から筋肉ができてくると胚もピクピク動くようになるます。こうなると、いかにも動物っぽくなってまいります。
3-8:受精後20時間
さらに時間がたって受精後20時間になると目の色素も明らかになってきます。体の色素も濃くなってきて来ますし、血液の流れもハッキリ見えます。
3-9:受精後2日目
でも、ちょっと、卵の中だと体が丸まっていてよくわかりません。なので、卵膜を取り除いた状態の胚も見ていくことにします。ちなみに、卵の殻を取り除く方法にはいくつかあるのですが、その詳しい方法についてはまた別の動画で説明します。
卵膜を除去したおおよそ受精後2日が経過した胚の映像です。この段階になると、尾鰭、背鰭、尻びれ鰭の元になる膜もできてきます。もう少し拡大してみましょう。よく見ると、この辺りがポコッと膨らんでいるのがわかります。これは、胸鰭の元になるふくらみです。
3-10:受精後3日目
さて、ふつうの卵の解説に戻ります。受精後3日目の胚です。黒い色素だけでなく黄色い色素も見えてきています。たしかに頭がちょっと黄色みがかってますね。もう、ここまでくるといつ孵化しても大丈夫そうです。必要な組織器官がしっかり出来上がっています。
3-11:孵化
では、孵化する様子を見ていきましょう。発生現象を見ていて印象に残る瞬間ですね。ご覧の通り孵化するタイミングにはばらつきがあるようです。しかし、おおよそ3日から4日目にはほとんどの胚が孵化します。
4:胚から孵化仔魚へ
孵化した後の金魚は孵化仔魚と呼ばれます。孵化したての段階では浮袋はまだありませんし、口も空いたばかりで食べ物を食べることはできません。しかし、もう泳ぐことができます。そして、おなかには、お母さんからもらった卵黄が残っています。これでしばらくの間、生きていけます。
5:まとめ
はい、今回の動画ではざっくりと金魚の胚発生の過程を見ていただきました。正直なところ、具体的に何がどう変わっていったのか細かいところまで今回は説明することができませんでした。しかし、丸い卵が時間を追うごとにめまぐるしく形を変えていくことはご理解いただけたかと思います。この発生過程の詳細についてはまた別の動画で説明いたしますのでお待ちください。
さて、次回の予告です。今回見ていただいた、金魚の孵化仔魚たちは、これから、ゾウリムシやブラインシュリンプなどの餌を活発を食べて大きくなっていきます。次回はその様子を見ていただきます。お楽しみに。それではまた。
文献
Tsai, H.-Y., Chang, M., Liu, S.-C., Abe, G. and Ota, K.G. (2013), Embryonic development of goldfish (Carassius auratus): A model for the study of evolutionary change in developmental mechanisms by artificial selection. Dev. Dyn., 242: 1262-1283. https://doi.org/10.1002/dvdy.24022
Li, I.-J., Chang, C.-J., Liu, S.-C., Abe, G. and Ota, K.G. (2015), Postembryonic staging of wild-type goldfish, with brief reference to skeletal systems. Dev. Dyn., 244: 1485-1518. https://doi.org/10.1002/dvdy.24340
Li, I.-J., Lee, S.-H., Abe, G. and Ota, K.G. (2019), Embryonic and postembryonic development of the ornamental twin-tail goldfish. Dev Dyn, 248: 251-283. https://doi.org/10.1002/dvdy.15