分岐
夫に触れられたくない。
ごめんなさい。もう、あなたとは出来ないの。
「え?………なんだって?」
今、なんと言ったのだ?
耳を疑って、ぽかんとしてしまった。
目の前の妻は、大変申し訳なさそうに、けれど力強く言った。
「あなたとは、もうセックスできないの。ごめんなさい。あなたを嫌いになった訳ではないの。夫として、家族として愛しているわ。ただ、セックスはできないの。誰か、他の人を探して」
お願い、と続けて、妻は目を伏せた。
「え?できな、、え?セックス出来ないの??」
意味がわからない。
ただ、妻に顔をあげてほしくて肩に手を伸ばす。
「いやっ」
俺の気配を感じて、妻は素早く振り返り、俺の手を叩き落とした。
俺は、叩かれた掌を引っ込めることも出来ずに、最愛の妻をぼんやりと見つめた。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
そう言って、妻は自室へと逃げていく。
俺はそれ以上問いかけることも、まして追いかけることも出来ずに、目の前が暗くなるのを感じていた。