もう一人の私
どうやら私は、メンヘラらしいです。
ずっとメンヘラと思っていた姉にそう言われた。
メソメソと泣いていた私。
泣きたいわけじゃないのに、不思議と涙が溢れてくる。自分の意志で何にもできないの。
止めることができない。
床をぼんやり見つめて、ただただ流れる涙を感じていた。
「あんた、メンヘラだわ」
「…………………」
メンヘラ。メンヘラって、情緒が安定しない人の事じゃなかったかしら。いつも悲しいことばかり考えて、やってこない不安な未来のことを延々と心配している。
私が、それだって?
「あんたが思っている未来はやってこない。そんな悲しい未来なんて、1ミリも待ってない。そんなふうに泣いてるから、彼は振り向かないんだ」
「……………彼の前では泣いてないもん」
私の言葉に、はぁ、と大きなため息を吐く。
「彼はそんなことくらいお見通しだっつの」
たとえ目の前で泣いていなくても、その悲しみを感じ取ることなんかお手の物だ。そういう人だって、自分が一番わかっているはずでしょう。そういう人だから、好きになったんでしょう。
「…………………」
頭の奥で、声がする。
「お前の一途なんて、大層な価値があるもんか」
え?
と私は顔を上げた。
私が1度の過ちで、人知れず落ち込んでいたときのことだ。私が鬱々と悲しんでいた。
大好きな彼のことを裏切ってしまった。いや、そもそも付き合って居るわけではないのだから、裏切ったなんて表現もおかしいだろう。けれど、私が私を裏切ったんだ。それが苦しい。
私は私に真っ直ぐでいたかったのに。
「この世界になんの影響も及ぼせないお前に価値なんかないだろ。だから、お前の一途にも価値なんかない」
笑って、私の大好きな人はそう言った。
「だから、お前は自分の好き勝手に生きて良いんだよ」
私が。私の好きなように。私の。
でも私、私が嫌い。自信のない私。輝けない私。
「そんなの、これからいくらでも変えていける」
「私は、貴方みたいに自身が持てないの」
「俺だって、自信なんかないよ」
「え」
「自信なんかないよ。……ただ、来年の自分が今の自分より誇れるものでいたいってだけ。今で満足したくないだけだよ」
「……自信、ないの…?」
「ないよ。俺に価値があるとも思えないし」
「みんな…、誰しも自信を持ちたいんじゃないの…?それが希望になるんじゃないの…?」
「希望なんて抱くから、失ったときに落ち込むんだろ。悲しくなるんだろ。そんなん最初から持つな」
「…………そんなこと言う人、初めて見た」
ぽかん、と口を開けて彼を見た。
「いいんだよ。お前はお前なんだから」
晴れやかに笑う彼。その瞳。
…………ああ、私、この人がすきだ。
私、恋をしてしまう。
すとん、と。胸に落ちてきた気持ち。
素直に両手を出して受け止めた想いが。
眩しい眩しいその人。
私の神様。
わたし、この人に誇れる自分でいたい。
少しでも、この人に褒めて欲しい。
少しでも、私を見てほしいから。