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【SATC衣装をたどるシリーズ|S1-01】 NYセックス事情/Sex and the City

スリフトショップ大好き人間のkinuが、Sex and the City(略:SATC)の衣装を独断と偏見でピックアップして深掘りするシリーズ。キャラクターの人生を表すファッションが、どのような要素で構成されているかを紐解き、考えを巡らせます。


SATCを初めて観たのは20代の終盤あたりだったと思う。配信の見放題で一気観したのだった。当時の感想としては、キスの音がやたら耳について、観終わる頃にはうんざりしていたこと、サマンサのベッドシーンが毎度面白かったという印象が残っただけだった。

ファッションにも特別惹かれることはなかった。私が観ていた2010年代前半はシンプルをよしとするノームコアファッションが流行っていた。自身も洋服にお金をかける余裕がないという事情もあって、着回しのきくパリジェンヌファッションの考え方にハマっていた。『フランス人は10着しか服を持たない』という本が流行っていたのもこの頃だったと思う。

SATCを観ても、「どうせお高いんでしょ?」「日常に即したリアルクローズじゃない」と自分から遠ざけていた。ストーリーの中で、キャリーが買い物依存症のように描かれている要素もあるし、「洋服はたくさんあるのに、着て行く服がない」といったセリフをキャリーが吐いている場面もあり、さもありなんと思わされることも実際あった。

だけれども、散財するキャリーを皮肉って残るのは、そんなキャリーに本当は嫉妬しているんだいう自分を残念がる気持ちだ。キャリーのように憂さ晴らしに買い物で気分を上げ、気軽にタクシーを呼んで帰宅…なんてできないお財布事情。地方で自転車と徒歩中心の日常。この服を買ったら何週間分の食費に値するんだろうという計算で、罪悪感がついて回って買い物は心から楽しめない。SATCを特徴づける目眩くハイヒールを履きNYCでタクシーを使いまくっている成功者の彼女たちを見ると、ドラマとは分かっていても自分の人生の野暮ったさに気落ちさえした。

そんな1回目の視聴から数年が経って、自分の人生にガタが来た。陰気な日々の景気付けに映画版のSATCを何度も繰り返し観た時期がある。結婚をめぐってショックを受けたキャリーが女友達に連れられて行くメキシコ傷心旅行も、腐らずコツコツと人生を立て直していくキャリーの姿にも元気づけられるからだ。

映画版を何度も見ているうちに、TVドラマ版をもう一度見たくなった。気を散らして自分の感情から離れたい時期。女4人のセレブなブランチシーンをだらだら眺めていたい気持ちになったのだ。

そういうわけで、35歳にして人生二度目のSATCドラマ一気観をした。そうしたらなんとすごくハマってしまった。やけに元気付けられてしまったのだ。いくつかのストーリーと、ファッションに。


何度も観ているうちに、SATCについて感じたことを記録したいと思った。
今日はその第一回目、シーズン1の第一話、ドラマのパイロット版だ。

本国アメリカでの初回の放送は1998年6月6日。この同じ月にWindows98が発売され、2ヶ月後にiMacが発売されたらしい。あのスケルトンのころんとしたかわいいコンピューターだ。予測できない未来を感じさせる情報社会の機器がいよいよ一般の人の手元に及んできた時代にSATCは始まったのだと、調べてみて改めて気付かされた。

当時まだ小学生だった私の記憶に残る出来事といえば、長野オリンピックのジャンプ団体戦で金メダルを取って泣きながら抱き合う日本男子の選手たちと、フランスで開催されたサッカーワールドカップの話題で盛り上がる一部同級生男子の姿だ。8年後のワールドカップに出るぞと意気込んでいたサッカー少年のあの子は、今どうしているだろう。大人になって振り返ると微笑ましく、幸せであれと思う。


「SATC」「ファッション」といえば、「パトリシア・フィールド/ Patricia Field」の名前があまりにも有名だと思う。ドラマに詳しくなかった私でもこの名前は聞き覚えがあった。だけど、この初回のパイロット版だけは「ELLEN LUTTER」という方がコスチュームデザイナーとしてクレジットされている。

わたしとしては、このパイロット版の衣装も好きで、サラジェシカ・パーカー(以後SJP)の一人語りとキュートな動きにも合っていると思う。ちなみに、SJPの演技はシーズンを追うごとに円熟していくのだけど、この初回のジョーク混じりの身振り手振りの多い演技がなんとも好きだ。

一番印象に残っているのは、道端で初めてMr.Bigに出会うシーンのこの衣装。

イラスト:kinu

過去のボーイフレンドとの情事の後、全能感爆発で通りに出てきたこのシーンが最高。黒い長い袖のスレンダーな腕を大きく振って、ふわふわの髪を整えながら歩く様が、粋でエネルギッシュで都会を感じさせる。

この他のシーンでも、胸元の空いたピッタリした黒いトップスをキャリーには多用していて、本当にSJPはこんなタイトな衣装が似合う。

キャリーは全シーズンを通して露出の多い衣装が多い。胸元が大きく空いたトップス。ブラ見せ。大胆な脚見せ。肩見せ。背中見せ。

NYCを舞台に恋愛関係を描くなかで、どんどん関係を試してみる登場人物4人の中で一番積極的なのはサマンサだが、キャリーも果敢に出会いに挑戦するタイプだ。キラキラした目で気になる相手に視線を送るシーンは多い。そんなアピールの機会が多いことから、つい目がいってしまうような肌見せの多いセクシーな衣装が多いのか。

じゃあセクシー一辺倒なのかと言うとそうではないのがキャリーのキャラクターを特徴づけていると思う。どこか遊び心や、可愛い要素を取り入れて、セクシーだけではないキャリーの個性を表現していて、さまざまな要素のバランスが粋な都会っぽさを感じさせる。

キャリーのセクシーハズしの一番大きい要素は、象徴的なブロンドのカーリーヘアだ。ミュージカル『Annie /アニー』の主人公の女の子のようなふわふわのカーリーヘアが、あどけないようでいてポップでパワーも感じさせる個性的な印象を与える。(ちなみにSJPは子役時代にミュージカルでアニーを演じている)

どんなにかしこまったスーツ姿になろうとも、このカーリーヘアがシリアスさをかき乱して惑わせる。MIXスタイルがSATCを通してのキャリーのファッションの楽しみだが、そのMIXスタイルの一番の効果的な要素が、キャリーのカーリーヘアだと思う。

その人がどんな人かわかりそうでわからない、掴めそうで掴めない、そんな惜しさに、粋という感覚を感じるのではないか。私は、キャリーのMIXスタイルに、現代的な粋を感じているのかもしれない。

※おまけ※
ちなみに、この回のレイヤーの入った髪型のサマンサ、最高にかわいい。

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