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案外 書かれない金継ぎの話(11)ヒビの修理3~ヒビに漆を入れる~
ヒビ止め実践の話に入りましょう。ヒビ止めは『注入』『下地作り』『金蒔き』の3手順になりますが、今回は注入について書きたいと思います。
ヒビを止めるとは
ヒビは大別すると、
貫通していない閉じたヒビ
貫通していても茶渋などが詰まり疑似的に閉じたヒビ
貫通して水漏れしてしまう開いたヒビ
があります。閉じたヒビは実用上問題が無いので無修理で構いませんが、やるとすれば被覆処理の『金蒔き』だけになりますから、ここでは貫通している開いたヒビ止めについての話をいたします。
ヒビ止めは、漆を注入することで
水漏れを止める
ヒビを固めて器に掛かる負荷を軽減する(ショックを受け止める)
という2つの目的があります。
そのため、ヒビに漆を満充填する必要があります。
漆の注入
筆を使って素黒目漆をヒビの上に置くと、重力と毛細管現象でゆっくりと浸透していきます。漆は粘度があるため浸透には時間がかかります。厚みのある器ほど浸透に時間が掛かります。
ヒビに漆を乗せた後、ヒビを手で無理に開く方法を勧めていることがありますが、そのような事をしなくても器を40℃程度に温めてから漆を乗せれば、漆の粘性が落ちて流動性が出るのでしっかり浸透していきます。急がずのんびりと構えて、出来るだけ器に負荷はかけないほうが良いでしょう。
また、漆を希釈すると早く浸透しますが、私は極力、希釈をしないようにしています。ヒビが細く、どうしても希釈する必要がある時は筆に希釈油を付けて軽く漆と混ぜる程度にしています。
希釈することで、焼成温度が低く素地の焼き締まりの弱い器、粉引、貫入の多い器、焼き締めの器などは、ヒビ以外のところに漆が広がって汚してしまう事があるからです。
漆の置き方には『点で置く』方法と『線で置く』方法の2つがあります。
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高い焼成温度で素地の焼きしまりが良く、光沢釉が掛かっている器は、点で置く事が出来ます。要するに漆が拡散しにくい器です。
点の利点は、多めに漆が置けるため、漆を補充する手数が少なくなる事です。
上記以外の器は、線で置きます。まず出来るだけ薄く細くヒビに沿って漆を乗せ、漆が沈んで土手のようになりますので、そのまま少し置いて漆を半乾きにし、その後、線から食み出さないよう注意しながら少しずつ漆を追加します。
光沢釉が掛かっていても、粉引(有色の土に白い泥を塗る技法)の器は、白泥に漆が染みて汚れる事があるので線で置く方が安全です。
一度に追加できる量が少ないので手間はかかりますが、土手を作る事で表面の漆の拡散を防ぐことができる利点があります。
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漆の浸透の完了は、
1.置いた漆が減らなくなる
2.反対側に染み出てくる
という2つで判断します。
点で置いた時は、希釈液を付けた綿棒で余分な漆を拭き取ってから(力を入れると希釈液がヒビに入ってしまうので、力を入れずに拭き取ること)漆を乾かします。
線で置いた時は、拭き取ると漆が広がってしまうので、そのままの状態で漆を乾かし、後で削って調整します。
裏技(吸引機を作る)
厚みのある器や、漆の粘度が勝ってしまう細いヒビは、なかなか漆が浸透しません。希釈して浸透させる方法もありますが、最初にお話ししたように、私は出来るだけ粘度の高い漆でヒビを止めたいので吸引機を使って漆を浸透させています。
以前は掃除機を使っていましたが、吸引力が強過ぎて器の内側に漆が散ってしまう事があるため、手動の吸引ポンプにしたところ調子が良かったので簡易吸引機の作り方を紹介します。
ダイソーで販売しているペットボトルを圧縮するポンプと5㎜厚の発砲スチロールボードで作る事が出来ます。発泡スチロールボードよりもベニヤ板に板ゴムを貼ったものの方が耐久性がありますが、発泡スチロールボードでも茶碗や丼程度ならば使えます。
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作り方は、発泡スチロールボードの中央に穴を空けて、ポンプの先を入れ、必要に応じてセロテープかビニルテープで目貼りして出来上がりです。
使い方は、ボードの上に器を伏せて置き、器とボードに隙間が出来ないようマスキングテープで目貼りします(落とさないよう仮止めする意味合いもあります)。ヒビに漆を乗せた後、ポンプを動かして減圧します。直ぐに漆が減りますので、漆を追加します。2,3回繰り返したら、器をボードから外して内側を確認し、浸透していたら終了です。
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