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案外 書かれない金継ぎの話(16)ヒビの修理6~金蒔き~
最後の作業は、金継ぎの名前の由来にもなっている金蒔きです。赤い漆が金に変わり、下地作りの良し悪しも分かるので、何度やっても緊張しますし感動もします。
金粉を使う理由
金継ぎの着彩では大抵、金粉を使用します。金箔でも出来ますが、扱いが面倒、層が薄く実用器での耐久性に難がある、光沢が強く見た目に煩いなど、様々な理由で金粉が使われるようです。
漆と金粉を混ぜ金漆にして塗る方法を紹介している場合もありますが、かなりの量の金粉が必要になりますし、粘度の調整が難しい上に失敗して縮れたりとコストパフォーマンスが悪いので、余程のこだわりが無ければ赤漆を塗って金粉を蒔くのが一番ではないかと思います。
金蒔きの工程
金粉は、粉を落とす、蒔きつける、蒔きしめるの3工程で行い、3号粉以上の粒が大きなものは更に磨きの工程があります。(注:正式な工程名は無いようなので、名前は仮に付けたものです。)
まず毛棒や真綿に少量の金粉を付け、それを赤漆の上または近くで叩いて落とします。(写真:上段)私は近くに落としてから赤漆まで履き寄せる方が金粉が綺麗に乗る気がしますが、どの辺に落とすかは好みで良いと思います。
蒔きつけは赤漆に過不足なく金粉を付ける作業です。(写真:中段)大切なのは、毛棒が漆と接触して塗面に傷が付いたり、真綿の毛が漆面に付着してしまわないよう出来るだけ力を入れず、金粉だけを触るよう静かに慎重に行うことです。
蒔きつけだけでは粒の並びが不揃いなため金に艶が無いので、その後に少しずつ毛棒や真綿で撫でて蒔きしめていくと徐々に艶が出てきます。(写真:下段)
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1号粉は艶の頃合いを見て、これで良いと思ったら全行程終了です。3号粉以上は1号粉のような艶は出ませんので赤漆が乾いて金粉が固着した後、更に金の表面をメノウ(石)や鯛牙(鯛の歯)など硬い素材で磨いて艶を調整します。
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1号粉はしっとりとした質感。3号粉以上は磨き加減で光沢が強くなります。ご自身の美的感覚でどちらにするかは決めて頂ければ良いと思います。
ちなみに、実用上の強度はほぼ同じで、スポンジで洗ったりしていると経年で似たような感じに削れていきます。
タイミングが悪い場合
金蒔きのタイミングが早すぎると、数分経過後、金が沈んで赤漆が露出してきます。焦って金粉を追加してもまた赤くなりますし塗面も荒れるので、もう少し乾かしてから再び金を蒔きます。
逆にタイミングが遅すぎると、ピカピカな光沢金に見えますが、翌日に指で撫でると簡単に取れて赤漆だけになりますので、もう一度、塗面を研いで赤漆を塗るところからやり直します。
塗面を研がずに上塗りすると、無駄に厚みが出たり、乾くタイミングが変わって(早まって)金粉の蒔き時を逸してしまう事があるので面倒でも研ぎ直しから行ったほうが良いでしょう。
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タイミングが遅すぎる場合(右)
金継ぎのバランス
金というと、黄味の強いキラキラした色というイメージがあると思いますが、本金の色は、もう少し落ち着いた感じで派手さはありません。金含有量が多くなるほど黄土色に見えますし、金襴手や、洋食器の金彩(水金)のような焼付けの金と比べると、地味に感じるかもしれません。
私は、金継ぎの金はあくまでも器という主役に対しての脇役であり、芝居の黒子と同じものではないかと考えています。見えているけれど器の空気感を壊すことなく成立させる。そういった奥ゆかしい存在が金継ぎの色ではないかと思います。器のための金継ぎであり、金継ぎのための器になってしまっては本末転倒でしょう。と、これはあくまでも私見なので、本金の色に納得できない方は金含有比の違う色で試してみるのも良いと思います。
大切なのは、器と金継ぎをどのような関係で捉えるかというバランス感覚であり、それに近付けるための材料の選択や作業方法を見つける事ではないかと思います。あなたが直した器と、今後どう付き合っていくかをじっくりと考え、多角的に金継ぎのバランスを模索して下さい。
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