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案外 書かれない金継ぎの話 (2) 金継ぎが不得意な事-接着の基礎-

本や雑誌の紹介記事では、誰でも簡単・器の万能修理的に書かれることの多い印象の金継ぎですが、じつは弱点も存在します。金継ぎに限らず何かを扱う際には、得意な事だけでなく何が不得意かを知ることは割と大切です。

陶磁器とガラス

焼き物の説明では、陶器と磁器をかなり明確に別物として記述したものが多く見受けられます。確かに陶器と磁器には異なる部分もありますが、結構、地続きで成分的には似ています。そして、ガラスもまた陶磁器とは地続きな関係です。
見た目はかなり異なりますが、どれも主成分はシリカであり、ざっくり言えば、半分くらいがけて固まったものが陶器、かなり熔けてから固まったものが磁器、全部熔けてから固まったものがガラスという状態の違いになります。ガラスの状態に比べると陶器と磁器は区分けが難しく、陶器と磁器の中間状態を持つ半磁器・炻器という分類を用いることもあります。
ちなみに陶磁器表面のコーティングであるゆうは、粘りの強いガラスです。

漆の接着相性

ガラスは鉱物がしっかりと熔けて固まった状態なので漆との接着相性は、あまり良くないということは覚えておきましょう。
シランカップリング剤を添加したガラス用漆という商品もあり、塗料としては無添加の漆よりも密着しますが修理剤としてガラス専用接着剤(UV硬化樹脂やエポキシ樹脂)に比べて高強度かと言えばそこまでではありません(とは言え一応、私は金継ぎ修理に使用しています)。
シリカが良く熔けて固まったものほど、つまりガラス化が進むほど漆との接着相性は悪くなり接着力が落ちます(ガラスからのアルカリ溶出など専門的な話は割愛)。
漆との相性は、陶器<磁器<ガラスと悪くなっていきますが、陶磁器の接着強度がガラスに比べて得られるのは、結合の効果が期待できるからです。

接着するということ(結合の効果)

接着は、複数の要素が複雑に関係していると考えられています。
陶磁器の金継ぎで意識したい接着の要素は分子間力ぶんしかんりょく機械的結合きかいてきけつごう投錨効果とうびょうこうか)です。専門的な解説はその手の書籍に任せるとして実感的に説明をすると、分子間力は、物と物がめっちゃくちゃ近付くと磁石の+と-のように引き合うよ、という事。機械的結合(投錨効果)は、細かい隙間に液体が入って固体になると抜けにくくなるよ、という事です。機械的結合は「食い付き」と言ったりしますが、この方が分かりやすい表現かもしれません。ガラス化が進むと接着力が落ちるのは、接着面の細かい凹凸が無くなってくるため、特に機械的結合の効果が得にくくなるからです。

陶磁器の修理で十分な結合の効果を得るためには、
 ・漆を満遍まんべんなく表面に広げ(界面かいめんが良く濡れていると表現します)
 ・しっかりと密着し
 ・ガチっと固める
必要があります。
量が多ければ(液剤の量が多ければ)接着力は上がると思っている方がいますが、接着の強さは量の多少ではなく、適量を最も効率的かつ効果的に使うことが大切です。
しかし、案外、この作業を抜かりなくやるには技術と経験が必要になります。そして、金継ぎで使う漆はとても個性的でマイペース。扱う人が漆の個性を学んで、全て認めて受け入れないと納得して仕事をしてくれないのです。
漆の個性については追々説明していきます。

力の掛かり方で強度は変わる

修理の終わった品物が、どのような使われ方をするかは大変重要なポイントです。前回少し書きましたが、極端な温度差が生じる場合や、ずっと器が湿っている環境だと漆の接着強度は極端に落ちます。その他、接着面積や、使用の際の修理箇所にどのような力がかかるかによって接着の強度は大きく変わります。これは修理後の器の何処に気を付けて扱わなければいけいないのか、という事にも関わってきます。

漆はウルシオールという一種の油が、酸素を取り込んで網目構造を作る(重合する)事で非常に硬くなります。サランラップなどに漆を塗って乾かし、手でゆっくり曲げていくとパキンと割れますが、このように漆は乾くと剛性体ごうせいたいになります。(逆に、個体になってもゴム状のものは弾性体だんせいたいといいます)
被膜として硬さは重要ですが、接着剤は一般的に剛性が高くなるほど、はく離や割裂(引き裂き)に対して弱くなります。漆は剛性体ですから、はく離や割裂の接着強度はどちらかというと高くありません。

日本工業規格では力の掛かり方の試験方法として計8つがあり、細かい試験規定が決まっています。

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日本工業規格が定める8つの試験方法

器を修理する際には、こうした力の掛かり方を考慮し、修理後に実用可能かどうかを見極める必要があります。
例を上げると、非常に細い取っ手や一点で支えるタイプの取っ手、横手の急須の持ち手は、破損個所・接着面積によっては実用接着強度が得られない可能性があります。こうした場合は修理後は実用せず飾り用にするか、実用強度が上がるよう補助の細工をするなど工夫をしなければいけません。
金継ぎを行う時には、修理する物の観察と予測が不可欠なのです。

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修理強度が弱くなる箇所

(つづく) - ご質問は気軽にコメント欄へ -

<参照:ガラス用漆販売店・接着の基礎ガイド>

(c) 2021 HONTOU,T Kobayashi

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