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案外 書かれない金継ぎの話(17)欠け埋めの道具と材料

ヒビ止め編が終わりましたので、欠け埋め編に入ります。今回は欠け埋めで使う道具と材料について書きたいと思います。ヒビ止めの道具と重複するものは省略し、追加分のみ説明します。

追加する道具

  1.  ヘラ

  2. 丸筆、平筆

1.ヘラ

さび刻苧こくそという漆のパテを作ったり、欠けにパテ埋めする時に使う主要道具です。
ヒノキの板を切って作ることも出来ますが、金継ぎではホームセンターなどで売っているプラスチックのヘラで十分です。ヘラは使うと減っていく消耗品なので、自分がどのように使うかで材質は決めて下さい。金属製のヘラは、陶磁器を傷付けてしまう危険がありますので木やプラスチックなど柔らかい素材の方が適当です。

ヘラはパテ作り用の大きめのサイズ(幅4cm程度)と、小さいサイズ(幅2cm程度)の2つがあると作業効率が良くなります。小さいサイズは充填用にも重宝します。金継ぎセットで購入するとヘラを1本しか付けていない事が多いので買い足しておくとよいでしょう。
メーカーによっては、建築用ジラコヘラ(硬質ヘラ)と板金用デルリヘラ(軟質ヘラ)の2種類の硬さがあります。私はパテを作るのにジラコヘラ(硬質ヘラ)を、充填にはデルリヘラ(軟質ヘラ)を半分の幅に切ったものを使っていますが、硬さは好みで選んで頂ければ良いと思います。

売っている木ヘラで先端が厚みを残した未整形のものが多いので、削ったり研いで厚みの調節をしてから使用します。

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ジラコヘラ(上)とデルリヘラ(下)

2.丸筆、平筆

欠けはヒビよりも広い面を塗る必要があります。1~2mmの小さな欠け(ホツ)は細筆でも塗れますが、大きくなると大変でなので、適宜、太めの筆または刷毛を使用します。

おおよその目安ですが、1cm角程度までは丸筆ラウンドが扱いやすいと思います。
それ以上の面積を塗る時は、丸筆ラウンド平筆フラット平刷毛ひらはけを併用して塗ります。

材質は、ナイロン(人工毛)か、リス・テンなど(天然毛)の軟毛を選んで下さい。軟毛は筆跡が出にくく、泡立ちも抑えられます。豚毛など硬毛は向きません。

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上から丸筆(ラウンド)2本、平筆(フラット)2本

追加する材料

  1. 充填剤(砥の粉、地の粉)

  2. 木粉

  3. 刻苧綿

1.充填材

ホツは素黒目漆を何度か重ね塗りすることで対処できますが、削げや欠けは塗り重ねで埋めるのは大変なので、粉体と混ぜてパテを作り充填します。
単品の場合と、複数を組み合わせる場合がありますが、大切なのはそれぞれの材料の性質とパテにしたときの効果を理解して使用することです。
パテにした際の効果は、次回に解説しますので、ここでは材料の性質のみ記載します。

砥の粉とのこ

元は天然砥石(鉱物)を切り出す時に出る粉を集めていましたが、現在は石を機械で粉砕して粉にしています。
天然砥石には、溶岩が冷えて固まった陶石と、珪藻(単細胞藻類)の殻が海底や湖底に堆積した珪藻土(珪藻泥岩)があります。どちらも砥の粉になりますが、陶石は陶磁器の原料、珪藻土は漆芸で使われる事が多いようです。木材に刷り込んで目止めや色調整したり、化粧の原料としても使われます。
陶石も珪藻土も主成分はシリカ(二酸化ケイ素)。粘土や絹雲母きぬうんもを含むものは可塑性(乾燥しても形が崩れない性質)があります。鉄の含有量の違いで白・黄・赤の3色に分けられます。色が濃くなるほど鉄の含有量が多くなります。

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砥の粉(黄)

地の粉じのこ

砥の粉よりも粒の大きなものを地の粉と呼びます。
瓦(低火度焼成の陶土)の粉砕物や、珪藻土を粉砕したものがあり、輪島塗りでは珪藻土を蒸し焼きにしてから粉砕したものが地の粉として使われています。
成分は砥の粉と同じですが、加熱された地の粉の場合は有機物が燃えたりシリカが熱変性するため可塑性は失われますので増粘のため糊を加えて使います。

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地の粉(蒸し焼きしていない状態)

2.木粉もくふん

「きのこ」と読む事もあるようです。木材の粉末(おが屑)です。ヒノキ、ケヤキ、ツゲなどいろいろな木が使われるようです。販売もされていますが、少量であれば、のこぎりで木材を切って作ることもできます。自作する時はふるいで粉の大きさをそろえて下さい。生木から作った時は、空焼きして水分を飛ばしてから使います。

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木粉

3.刻苧綿こくそわた

「苧」はカラムシという植物のことで、亜麻の昔の呼び名です。古来より茎の皮から取った繊維を糸や布にしていました。本来はカラムシの繊維を刻んで綿にしたものですがカラムシの採取量が減っているため、現在は漆と混ぜて使う繊維全般を刻苧綿と呼んでいます。
左官の塗壁ではヒビ防止のために加える植物繊維をスサと呼びますが、陶磁器の金継ぎでもパテにヒビが出るのを防止する繋ぎとして使用します。通常、刻苧綿だけでパテを作る事はしません(刻苧綿だけで作った刻苧は反りが出て取れてしまうことが多いからです)。木胎もくたい修理では麻や亜麻などの植物繊維、鉄瓶などの鉄胎修理では難燃性を考慮し真綿(動物性繊維)が使われます。陶磁器の金継ぎは植物繊維・動物繊維のどちらを使っても問題ありませんが植物繊維が主流のようです。

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刻苧綿(亜麻)

なお、充填材料は全て買う必要はありません。次の記事で、それぞれのパテの特徴について記載しますので、そちらと合わせて、ご自身で購入するものを選んで下さい。

(つづく) - ご質問は気軽にコメント欄へ -

(c) 2021 HONTOU , T Kobayashi

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