190201_前田高志さん取材_

「視覚の気持ち良さに取り憑かれた男」_デザイナー/漫画家・前田高志の惰性を破る柔軟な生き方①

幼稚園に上がる前にデザインの衝撃を受けていた!?生粋のクリエイター気質をもち、鬼のような情報発信力でSNS界隈からその名を広く知らしめているデザイナー・漫画家の前田高志さん。平成最後の日、2019年4月30日には集大成ともいわれる『NASU本 前田高志のデザイン』を出版することが決定。そんな前田さんの幼少期の原体験、任天堂から独立した今のワークスタイル、箕輪編集室でのブレイクスルーの瞬間とは?

視覚の気持ち良さに取り憑かれた

――前田さんはあらゆる場所で情報発信をされているので知っている人は多いと思うんですが、言い表すとしたら前田さんってなにものなんですか?

前田さん:今は漫画家なんですけど、「グラフィックでものをつくる人」なのかなと思います。僕のなかでは漫画もグラフィックデザインと捉えているので。

だから全部まとめて言うと、もう「グラフィックデザイナー」っていうのが一番正しいですね。僕のいうグラフィックは「視覚から得られる刺激」とか、「心が揺さぶられるもの」「湧き上がるもの」っていう意味合いです。

僕はちっちゃいころから、「視覚の気持ちよさ」をずっと追いかけてきてるんですよね。「グラフィッカー」とも言えるんですかね。自分の肩書きを決めようと思ったことはないですけど、とにかく視覚の気持ち良さにずっと取り憑かれてるのかなっていう感じはしますね。

【前田 高志(まえだ たかし)】デザイナー・漫画家。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、2001年より任天堂(株)の宣伝広告デザイナーを15年間務める。2016年に独立。現在は株式会社NASU代表、専門学校や芸大の非常勤講師、オンラインサロン「前田デザイン室」の主宰など、多岐にわたって活動を展開。2019年より漫画家に転身。


幼稚園に上がる前に受けたデザインの衝撃

――前田さんは幼少期から絵を描くのが好きだったそうですが、初めて「描くのが楽しい」とか「描きたい」って思ったときって、いつですか?

前田さん:絵はいつのまにか自然と描いてて、ちっちゃい頃は塗り絵をずっとやってたんですけど、あるときグラフィックの見せ方のバリエーションでこんなに変わるんだ、面白いなって驚いたときがありました。

家で「忍者ハットリくん」の塗り絵をしてたんですよ。輪郭を濃く塗って、シャーって内側を薄く塗って、きれいに塗ってというのをずっと何回かやってたら、夜、父親が会社から帰ってきて「あ、塗り絵してるんや」みたいな感じで寄ってきたんです。

そしたらなんか、自分のペンを出したのかな?僕はペンじゃなくて色鉛筆で塗ってたんですけど、父親がペンを持って、ストライプみたいに斜めにボーダーを入れたんですよ。

それ見た瞬間に、「え、なにこれ」「こんな見せ方あるんや」みたいになって。しかも簡単に。それもすごく目に心地いいというか。ドキッとして。それが今でも印象に残ってるんです。

父親がやったのはデザイナーと近いやり方だったんですよね。色ベタで全部塗るだけじゃなくて、それを斜線で表現したりとか。僕はただ塗ってただけですからね。僕が今まですごく時間かけてやってたのを、ごく単純な作業で。

――え、そのときいくつですか?

前田さん:幼稚園入る前とかですけど。

――えぇっ、その頃にそこまで思えたんですか。すごい......。

前田さん:いや感覚的にですよ。今になってその衝撃を言語化するとそれを感じてたってことですね。その時は「うわーっ!」くらいしか思ってないです。

――でもすごいですね。それを感じられたのはきっと当時からデザインの感性を強く持っていたからでしょうね。

前田さん:うーん、絵はずっと幼稚園入る前とかから描いたり、色を塗ったりしてたんですけど、たぶんずっと視覚的に「あーきもちいいな」って感覚がありましたね。

喋るのが好きとか、文章を書くのが好きとか、いろんな人がいますよね。僕は完全に視覚ばっかり。ずっとボケーッと見るのも好きだし、自分で描いたのを見るのも好きやったし。だから「視覚の気持ちよさに取り憑かれた男」みたいな感じです。

それが漫画にもつながってるし、デザインにもつながってる。だからよく「デザイナーから漫画家になった」って、すごい変わったように言われるけど、“視覚”の部分では一緒なので、視覚でなにか伝えるっていうのはずっと同じなんですよね。


「任天堂のデザイン」から「前田高志のデザイン」へ

――任天堂で15年の勤務を経て独立された前田さんですが、独立前後でワークスタイルにはどんな変化があったんでしょう。

前田さん:今は休みがまったくないので、永遠に仕事してるのか、永遠に遊んでるのか、境目がまったくないっていう感じですね。

仕事だからしんどいなみたいなのはまったくなくなりました。まぁ、めんどくさいと思うことは変わらずありますけど。

あとは、やっぱり任天堂のときは、任天堂のことを考えて、任天堂のデザインをしてました。でも今はクライアントさんのデザインでもあり、僕個人のデザインでもあるっていう視点に変わりました。「僕のデザイン」が商品ですから。なので割と、自分っぽさみたいなものが出るようになってきたのかなって思います。

それに情報発信をするにつれて、「 “前田さんに” お願いしたい」「前田さんのデザインでお願いします」って言ってくれるようになってきたんですよ。なんというか、作家性がちょっと強くなってるのかなっていう感じはしますね。

その分、ある程度の融通が利きやすくなりました。むしろそれを求められてる部分もあると思います。卓球のグッズ制作のときも、「前田さんのドットの感じがいいんで」って言われたりするんです。

情報発信し始める前だったら僕のほうから「どんなグッズにしましょう」って言ってるところですが、今は「今までの卓球の世界になかったような、前田さんのドットの感じでお願いします」ってズバッと来ます。

たぶんドットのイメージは、任天堂というより前田デザイン室のイメージが強いんやと思いますよ。“ドットが好きな人” みたいに思われてるんだと思います。箕輪さんも言ってたし。「前田さん、ドット好きだから」って(笑)。

でも、この ” ドット好き ” のイメージも、ひとつのブランディングができている証拠なので、いいことなんです。「あの人、こういう人ですよね」って想起させる印象を持ってもらうってすごくいいことなんですよ。そこに存在してるってことですから。イメージすら持ってもらえなかったら、むしろ辛いのかなって思いますね。


『やりたくないことはやらなくていい』

――前田さんは毎日、膨大な量の情報発信をされていますよね。Twitterをはじめ、noteブログCHIP。それに加えてデザイン業、前田デザイン室の運営、全国で行われる講演やセミナーへの登壇も頻繁にされ、今年(2019年)からは漫画家への転身もされましたが、日々どうやって仕事をしているんですか?

前田さん:今は日々なにかに追われてるので、最近はブログとかnoteは委託するようにしてます。ライターの浜田 綾さんという方に。

最近ブログにアップした箕輪編集室の新しいロゴについての記事も浜田さんが書いてくれてるんですよ。そうやって自分のやりたいことに集中するために、その他のことは人に委託しようとしてます。

これは『やりたくないことはやらなくていい』っていう本を書いている板垣雄吾さんの影響でもあるんです。幻冬舎から3月27日に発売される本です。「社員雇いたくない」「経理やりたくない」「文字書きたくない」とか。

▲Twitterで「#やりやら」と検索すると、書籍の装丁デザイン案も見れます。右の漫画は書籍から誕生するキャラクター「やりたくないおじさん」。かわいいLINEスタンプになります。お楽しみに。

それに影響されて、委託するようにしてみると、自分のやりたいことに集中できるようになってきました。今はそうして、漫画に集中するために環境を整えてるっていう感じですね。

委託していることが自分のやりたくないことっていうわけじゃないんですけど、本当にやりたいことをやるために、他の人に頼む。誰かにやってもらう。ライティングなら浜田さんは専門なわけですから、お願いしたほうがいいものになって、みんなハッピーになります。まぁ、そもそも文字書くのは、そこまでやりたいことじゃないんですけどね(笑)。


クリエイティブ体力が復活した箕輪編集室

――任天堂時代からデザインの仕事をされてきた前田さんですが、箕輪編集室に入ってからの成長や変化について教えてください。

前田さん:箕輪編集室で変わったのは、モチベーションが上がったことと、“クリエイティブ体力” がついたことですね。

――クリエイティブ体力?

前田さん:クリエイティブ体力っていうものがあるんですよ。面倒くさいことにどれだけ対応できるか、みたいな力。ぼくは30歳過ぎくらいに、もうクリエイティブ体力なくなったと思った。

そのときは、もう何やるにしてもしんどい。20代のときはバリバリで、めちゃめちゃストイックだったんです。でもその反動で、「あぁ、つかれた...」みたいな。

「あぁ、そうか。クリエイティブって30歳超えたらこんなにしんどくなるんだ。だからアートディレクターとかって、若いデザイナーがやるのかなー」なんて思ってたんですよ。それが38歳までずっと続いて、そのあと会社辞めて、フリーランスになって。

そこから箕輪編集室に入って、いろいろデザインして、多方面から取り上げてくれて、箕輪さん自身も拡散してくれた。

だからもう「ワーッ!」と全力でデザインしてたら、「あ、これ全然いける」って。クリエイティブ体力めちゃめちゃ復活してたんです。

これはやっぱり、「思い込み」と「環境」やと思う。ずっと同じ環境にいるとマンネリ化する。刺激もなくなってくるし、「そういうもんなんかな」みたいに思っちゃうんですよ。でも新しい環境に飛び出して、新しいことをやって、活動の幅を広げていったら、クリエイティブ体力は復活する。

だから「年齢じゃないんや」って思えましたね。ハッとした勢いのままツイートしました。40超えてからでも、20代で新人のときぐらいのバリバリ動ける体力あるぞと思って。

ずっと忘れてたんです。新鮮な気持ちが失われて「そういうもんだ」って思い込んじゃってた。でも環境さえ変えれば、いつでもクリエイティブ体力は復活する。

なので今「しんどいな」とか「全然仕事楽しくない」って思っている人は、ぜったい環境を変えるべきですよ。


受け入れる柔軟さが環境を変えた

――ものすごいブレイクスルーの瞬間だったんですね。大事なのは「まずやってみる」「飛び込んでみる」ということでしょうか?

前田さん:そうですね。それもありますし、僕わりと柔軟なんですよ。柔軟なので、すぐ人から影響を受ける。影響受けすぎてるっていうくらい受けちゃうんです。

だからすぐに自分を変えられました。箕輪編集室のときを例にとれば、箕輪さんにハマったんですよね。

箕輪編集室での衝撃があって、あるときパパッとラフ案を描いたら、箕輪さんが即ツイートしてた。次の瞬間には「それでいきましょう」って言ってる。そんなスピード感での意思決定、今までやったらまったくあり得なかったんですよね。だけど「あ、そっかそっか」って受け入れたんです。

箕輪さんは「アップデート主義」で、観客を巻き込むっていうか「そういうやり方してるんだよ」って教えてくれて、「あ、なるほどな」って腑に落ちたんですよ。


(前田高志さんインタビュー連載第2回「スター型のオンラインサロンじゃない『それがいいんや』_デザイナー/漫画家・前田高志の惰性を破る柔軟な生き方②」に続きます)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【書籍発刊のお知らせ!】

『やりたくないことはやらなくていい』板垣雄吾 著、1,404円(amazon価格)、幻冬舎(発行)

『ビリギャル』の坪田信貴先生が推薦。デザイナーの前田高志が装丁デザインを担当。「#やりやら」で検索すればTwitterで装丁デザイン案の試行錯誤の数々を見ることができます。本書から誕生したキャラクター「やりたくないおじさん」のLINEスタンプも販売予定。

「やりたくないことはやらなくていい」のタイトルに込められた、人生を充実させるためのヒントとは。3月27日に発刊です。


『NASU本 前田高志のデザイン』前田高志監修、5,800円、前田デザイン室(発行)、日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社(印刷)

前田の「ものづくり」のこだわりがすべて詰まった「クリエイターの指南書」が平成最後の日、4月30日に刊行されます。アートブックであり、ビジネスマンが仕事で使えるデザイン思考を収録した実用書パートも兼ねております。

クリエイターのための本書はタイトルのネーミングにちなみ、前代未聞の “ ナス(茄子) ” をかたどった書籍として発刊。

印刷には、日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社の高品質カラーデジタル印刷システム「NDP(Nissha Digital Printing)」による、高彩度・高精細な印刷技術を採用しており、“ 全ページフルカラー ” にてお届けいたします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【トークイベント開催のお知らせ!】

「前田デザイン室トークイベント『えっ!? 元任天堂デザイナーが漫画家に?〜41歳でたどりついた後悔しない生き方〜』」

15年にわたって宣伝広告デザイナーをつとめた任天堂から独立し、株式会社NASUの代表としてデザイナーとして活躍の場を広げる前田高志が、2019年、41歳にして漫画家に転身。本来の夢に向かって突き進む前田さんが持つワークスタイルを存分に語るトークイベントです!ぜひ、足をお運びください!

日時:3月21日(木) 14:00~16:00(開場13:30)

場所:梅田 蔦屋書店

〒530-8558 大阪府大阪市北区梅田3丁目1−3


ライター:金藤 良秀


いいなと思ったら応援しよう!

金藤 良秀|Yoshihide Kanefuji
いただいたサポートは活動費として大切に使わせていただきます。