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【番外編】「極悪女王」モヤりポイント大放出スペシャル【NOT批評】
みなさま、ごきげんよう。
今回は番外編、Netflixオリジナル作品「極悪女王」について、遅ればせながら私的に振り返りたいと思います。なかなかのタイトルをつけていますが、決して不穏試合ではございません。満足はしていますが、あえて引っかかったポイントを備忘録として残したいと思い、記事作成に至りました。
まず筆者のプロレス者としての事実関係を整理しましょう。
1988年6月生まれ、36歳、男性、大阪在住
本作の舞台は全て生まれる前の出来事、リアタイ世代ではない
97年大阪ドームの橋本小川2戦目現地観戦で新日にドハマり
以降現在まで新日ファン
→特に新日冬の時代であるゼロ年代に10代を過ごす
(棚橋中邑Kアンダーソンが特に好きな選手)
→レインメーカーショックを現地観戦、10年代は特に熱中全女自体もリアタイでは通っていない
→めちゃイケの企画により全女&クラッシュを知る
→そこから歴史、選手や名勝負等の基本知識を押さえる
→多分リアタイだったら豊田真奈美か井上貴子のファンになっていただろうと想像2021年ごろから女子団体のスターダムにハマる、そして現在まで
→全女の流れを汲む団体のため、関連書籍等を漁って知識強化
(フロント・スタッフ関連もここで知る)
→全女出身の現役選手がスターダムにスポット参戦した試合を多数観戦昭和~平成プロレス知識に関してはアーカイブ、関連本、くりぃむ有田さんの動画等で補強
一言で言えば、「ブシロードの犬」です。
※ブシロード=新日・スターダムのオーナー企業
女子と昔のプロレスもある程度知識のある典型的な30代プロレスファンの感想になります。同時代性はありません。
全体的な感想について
全体的な感想は満足しています。
少女たちの青春群像活劇としてハッキリと良作だと思います。
ただ観る前と観た後で根本的なズレが生じました。
それらをモヤりポイントとして、本記事にてまとめます。
個人として、この作品に求めていたものは【全女という異常な団体がどう描かれるのか】の一点でした。
プロレス、全女が纏う空気、そして松永兄弟、ここらは特に物足りなさを強く感じています。フィクションかつ地上波ではないネトフリオリジナル作品の配信なので、もっと過激なものを求めていました。
正直、フィクションが実態を下回っている印象です。
プロレスファンが不満に感じているのはおそらくそこだと思っています。
プロレスのなんたるかは映画「レスラー」「アイアンクロー」「家出レスラー」等で既にしっかり描かれてきました。「極悪女王」もそこはしっかりクリアしています。
高司会長が少女を会場に誘うラストは夢の入口でもあり、地獄の入口でもある、という帰結は素晴らしく好きです。ここは本当にえらく泣かされました。だからこそ、もっとひどく過程を描いてほしかったんですね。これだけひどいのになぜプロレスに魅せられるか、に執着してほしかった。
そこは1週後に同じNetflixで「Mr.マクマホン~悪のオーナー~」で満たせたので、良しとします。「Mr.~」を観ると、全女がいかに先鋭的な団体だったかをより立体的に感じ取れると思うので、「極悪女王」を観た方はあわせてぜひ観ていただきたいです。
プロレスドキュメンタリーの最高峰と言っていい作品です。
それでは本題に入りましょう。
その根本的なズレをより具体的に掘り下げていきます。
「極悪女王」モヤりポイント大放出スぺシャル
モヤったポイントは5点
シゴキ描写
松永兄弟のキャラクター像
プロレスの"そういう"部分をもっと出せ
鈴木おさむ色の濃さ
ネトフリ×全女=ジャンプ的物語のズレ
この部分について、振り返って終わりにしたいと思います。
当時の全女ファンのようにもっとくれもっとくれと異常なものを求めていたが故の指摘です。全く正解とは思っていません。
1.シゴキ描写
現実の方がはるかにひどいので、物足りなかったです。
これに関しては、今なお健在の全女出身の方々が多くいらっしゃるという理由からの配慮が働いたと思いますので、一定納得はしています。
ただラブリー米山という架空選手を用意していたので、そのキャラクターに色々な選手のエピソードを集約してしまえばよかったのにと思う部分はあります。
2.松永兄弟のキャラクター像
本作から彼らは良い人とまではいかないものの悪い人じゃないよ、という平和的な着地を感じ取ったんですが、みなさんどう思ったのかなと。
詳しくない人たちや現代の目線から見ると十分ひどい人に映ったのならそれでいいと思います。
個人的にはとてもじゃないですが、良い悪いで判断できる人たちではなさすぎるので、良い面も悪い面も極端に描写すべき人間たちだと思っています。
やっぱり彼らが何でもかんでも異常で規格外だから全女に惹きつけられたのは間違いないので、ここももっとエクストリームにいってほしかったです。
3.プロレスの"そういう"部分をもっと出せ!
勝敗は事前に決している、流血は作為的になされている、などプロレスの不文律はもっとはっきり出すべきでした。「レスラー」「アイアンクロー」はここをわかりやすいセリフを使わず、動作でガンガン描写しています。
極悪同盟結成後の阿部四郎も武器を渡すだけでなく、カミソリやカッターで相手の流血の手助けをする描写を入れないと!
プロレスラーって客沸かすためにここまでやるんだぞ!という部分こそ、これみよがしに見せつけないといけない。フォークをおでこにコツコツ当てて流血なんてするわけないじゃないですか。
ダンプのヒール転向にそこを集約したいのはわからなくもないけど、プロレスの構造を一目でわからせるためにも絶対必要な描写だったと思います。
そんなショービジネスといえども、現場のレスラーは日々身体を消耗し、死と隣り合わせでもあるということの強調が足りないかと。
加えてプロレスって"そういう"ものだ、が強調されるからこそ、全女のピストル(押さえ込み)にさらに大きな価値が生まれると思うんですけどねぇ…。いかがでしょう。
4.鈴木おさむ色の濃さ
これは想定外でした。
演出の部分でどう見たらいいんだろうみたいなノイズになった部分があります。前述したエグイ描写は白石和彌監督だからこそ期待したもので、想定以上に鈴木おさむ色が濃いなぁと感じてしまいました。
父のダンプカーの運転が雑いとか、壁が抜ける×2は正直鼻白みました。ダンプ松本のヒール覚醒も、家庭でとプロレス会場でと2回やっちゃってるんですよね。個人的な意見ですが、プロレスって【潮目が変わる瞬間】を観るために普段から観続けてるんです。だから覚醒部分は1回かつ会場でしか使っちゃダメなんですよ!!
これは批判食らっても言いたい。だってプロレス映画なんだもん。
そこに集約しないとプロレス映画である意味がない。そのためにタメてるんで。きっかけは家庭でいいんですけど、あそこであのダメ親父にブチギレて、「ダンプカー後楽園まで走らせろ!行かないと殺すぞオラぁ!」で親父脅して送らせて会場で本物のヒールとして覚醒が自然な流れかつ覚醒シーンを集約できていいと思うんですけどねぇ。
家庭での覚醒と会場での覚醒と2回やることで会場の方が弱くなってるのは演出や流れとして致命的にヘタだなと思ってしまいました。
ただ、家庭での覚醒シーンは壁抜けて、ダンプに落ちて、チェーンを手に取って、雷鳴って、とめちゃくちゃウソくさくてアホ演出だけど、結構好きです。だから完全にダメとは思ってないです。あれがやりたかったんだろうなは理解しますが、それが先行しすぎてる気はします。
あとは【ブック】問題かな。
ブックという言葉が当時使われていないことぐらい、制作側はわかってると思うので、あえて使っているのは明白です。演出としては「私勝ちますから」「(負けろという指示に対して)そんなの知りませんよ」「私が勝った方が盛り上がるでしょ」のセリフで十分伝わります。
お話上、ブックなんて言葉を使う必要はないのです。実際使われていたか否かは個人的にはどうでもよく、使った理由が大事です。
じゃあなぜ使ったかという理由はおそらく、物議を醸したい、SNSで論争させたい、それで本作が話題になればいいという態度以外、特に思い当たりません。これはプロレス者特有の邪推ではなく、そうとしか考えられません。
自分の結婚相手をブスと称した物語を自ら企画してカネに変える根性の持ち主ですから、おそらく間違いないでしょう。ここに品のなさを感じて、心から好きになるのを阻害されている気がします。その言葉が実際に使われてたかなんてどうでもいいんです。こっちの方が問題。
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ただその話題性を生ませる姿勢ってプロレス的でもあるんですよね。
全女的かつ猪木的でもある。話題性を生むという意味では大正解だと思いますが、好き嫌いで言うと嫌いってだけです。難しいですね。
5.ネトフリ×全女=ジャンプ的物語
これも想定外でした。
少女たちの青春群像活劇であること自体は問題ないですし、それに即した素晴らしい物語だと思います。ただ、思っている以上に「努力」「友情」「勝利(成功)」という少年ジャンプ的結論にされてしまったなぁ、が本音です。
全女というエグイ団体から生じる先入観による想定とのズレ、去年「サンクチュアリ」で同じ構造を観た、というのが重なって素直に楽しめる状態ではなかった気がします。
これは運が悪かったなと思うしかないです。
やっぱり国内でプロレスを本当の意味でダークに描いた作品は難しいのかなと思ってしまいました。業界からの反発は怖いですからね。
特にプロレスはムラ社会ですから。
何だかんだ長くなってしまいましたw
うだうだ言ってますが、好きな作品です。役者さんはみなさんすごかったですし、特にジャッキー佐藤(鴨志田媛夢)とクレーン・ユウ(えびちゃん)がお気に入りです。プロレスシーンも迫力満点!
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ただ、個人的には本作より「家出レスラー」の方が好きでした。業界内の現役レスラープロモーション企画として、いろいろ制約の多い映画でしたが、相当やれることやってるなという印象で今さら好感度が上がりました。「アイアンクロー」もありましたし、今年はプロレス題材のドラマ映画作品の当たり年かもしれません。やっぱりプロレスって面白いです。観れば観るほど奥深く、わからなくなる不思議な魅力にあふれたジャンルです。
全女のリアルは以下の書籍で補強してください。
めちゃくちゃ面白いので、ぜひこちらも楽しんでください!