ミス日本昔話【浦島太郎】〜設定ミス編〜
昔々、あるところに心優しく、
身長が25メートルある浦島太郎という若者がいました。
浦島太郎がいつものように浜辺を散歩していると、
少年たちが集まって亀をいじめていました。
「こら、お前たち。やめないか。」
浦島太郎は、子供達を注意しました。
浦島太郎の声帯は常人の何倍も長いので、人間が聞き取れる声の限界の低さであり、
かつその声量は凄まじいものでした。
よって、子供達にとっては、
クジラのいななきのごとき凄まじい重低音が鳴り響いて、何事かと見上げれば、顔の見えないほど巨大な生物が立っている、という状況でした。
子供達は息を呑みました。
ー死ぬ。
命の危機を感じた子供達は、見たこともない速さで、かつ無言で走り去って行きました。
「助けてくださって、ありがとうございます。」
本体と甲羅の割合が1:10の亀はお礼を言いました。
「なんて?」
上空20メートルに位置する浦島太郎の耳には届きません。
ましてや、本体が甲羅の中に転がっているような状況の亀の声は、甲羅に阻まれて普通の背丈の人間にもほとんど聞き取れないレベルでした。
仕方がないので亀は砂浜に文字で
「ありがとう」
と書きました。
「お礼に竜宮城へ連れて行って差し上げます」
と書き上げる頃には、翌日の昼になっていました。
体の大きな浦島太郎に取り、それは体感で20分ほどの出来事だったので、事なきを得ました。
いざ竜宮城へ。
甲羅をわきに抱えて海へ向かう浦島太郎。
その傍らには亀の本体が取り残されているのでした。
亀(いない)が何を言っているか聞き取れないため、ほとんど勘で竜宮城を目指す浦島太郎。
「痛い」
足裏で踏んづけたものは、なんと竜宮城でした。
「ようこそおいでくださ・・・スゥ」
体の95%が和紙でできた乙姫がいましたが、出迎えの途中で溶けていきました。
「痛いなあもう」
「それより竜宮城を探さなくては」
「あぁ、亀さんみてごらん」
「きれいな夕焼けと一緒にお風呂に入っているみたいだ」
眼前に浮かぶ太陽を見ながらつぶやいても、こたえる声はありません。
浦島太郎はどこへとも知れず歩いていきます。
ー彼が再び日本に上陸するまで、残り400年。