化石先輩
犬の散歩をしていた際の話です。
僕の家の裏手には、露頭(※)がありました。
※岩石や鉱脈が地表に現れているところという意味らしいです
僕はいつもなんとなく、露頭にツータッチくらいして通ります。
表面がちょっとだけ削れて、ザラザラとアスファルトに落ちます。
いずれ波が削ってできた貴重な地形とか、海風が数千年かけて作った空洞とか、そういうのみたいになるのを妄想すると楽しかったので、そうやっていました。
その日もいつもと同じで、ツータッチくらいして通り抜けようとしたら、犬が唸っていたのです。
大人しくて、「待て」も得意で、2分くらいは余裕で待てる犬なのですが、あの日は様子が違っていました。
犬が唸ってるのをみて、声をかけたのですがそれでもいうことを聞きませんでした。
なんだよ、と思いながら視線の先を見たら、露頭がの表面が大きくひび割れて、穴が開いていました。
よく見ると、穴から人間の手みたいなのが出てました。
最初は信じられなかったんですけど、やっぱり見れば見るほど、それは手でした。
精巧な彫刻みたいに綺麗なんです。
へー、すごいなと思ってたら、化石おじさん(※)
※近所で有名な化石博士っぽいおじさんのことです。何でもかんでも燃えるごみで出すおじさんでもあるため、「カス」とも呼ばれています。
が現れてこう言うんです。
「これは、人間の化石じゃないか。」
おじさんはすごく慌ててました。
コンビニで買ったコーヒーも全部こぼしていました。
「おじさん、コーヒーこぼれてる」
「君、これ、やばい発見かもしれないぞ。どうしよう、俺、一回ちょっとお母さんとかに言ってみる」
おじさんはコーヒーをビシャビシャ撒き散らしながら走って行きました。
その飛沫が露頭にかかった時、露頭がすごく光り始めました。
びっくり仰天です。
帰るに帰れない展開になってきた僕は、何が起こるか一部始終を観察するため、その場にしゃがみ込んだのでした。
「君かい?私を助けてくれたのは」
ちょっと目を話した隙に、露頭前に髪が長くて金色の目の人が立っていました。
服も着ていません。
「僕は、君の種の先祖だ。」
「そうなんですか。先輩ですね。」
僕は彼のことを化石先輩と呼ぶことにしました。
化石先輩はいい奴で、毎週土日のどっちかは一緒にカラオケに行く間柄になりました。
誕生日にいい感じのパーカーをあげたら、お返しにキックボードを買ってくれたのです。
僕は未来予知ができるんですが、自分の死因をしっています。キックボードで通勤中に飛び出して交通事故に会うとのこと。
なので、もらった時にはははぁ、これが、と唸らずを得ませんでした。
運命は決まっていて変えることができません。
でも大丈夫、すべてはバランスを保つための出来事に過ぎません。僕の不幸は誰かの幸せを創り出す種なのです。
私たちは繋がっています。
私たちは一つです。
私たちは、一つです。