第17回 一歩進んだリハビリオーダー
総合内科流 一歩上を行くための内科病棟診療の極意
著:森川暢(市立奈良病院)
第17回 一歩進んだリハビリオーダー
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リハビリオーダーを漫然としていないでしょうか? 実は、リハビリオーダーをICF(国際生活機能分類)に基づいて行うだけで、リハビリオーダーの質が明確に向上します。リハビリセラピストと恊働するためにも、ICFについて勉強しましょう。
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症例(病棟の極意・実践前)
82歳女性。変形性膝関節症と認知症があるが独居で、徐々にADLの低下と認知機能の低下を認めていた。今回、菌血症を伴う尿路感染症を発症し入院した。尿路感染の治療を2週間で終えたが、その間に廃用が進行し、寝たきりの状態となった。施設入所しかないと考えて家族に病状説明を行ったところ、家族より、「『どうしても自宅に退院したい』という患者本人の意志があるため、家に帰したい」と言われ困惑してしまったが、ひとまずリハビリ転院と伝えた。
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【極意】
① ICFとは?
ICFは、「心身機能」「活動」「参加」の3つの要素に、「環境因子」「個人因子」「健康状態」を加えた6つからなるフレームワークです(図1)。
ICFは前回取り上げたBPSモデル(生物心理社会モデル)と明らかに類似しています。ICFに基づくリハビリも、生活や行動などのマクロな視点を基盤としているため、基本的なアプローチはかなり似ています。
あえてわかりやすくBPSモデルとICFを対比すれば、表1のようになります。
つまりICFというのは、BPSに加えて機能的問題を扱ったモデルと考えるとわかりやすいと思います。その機能的問題を、「機能」「活動」「参加」という3つの要素に分類して深掘りしていることが特徴です。では、詳しく見ていきましょう。
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② 「機能」について
例えば、優位半球の中大脳動脈の脳梗塞を考えてみます。
内科的には、神経診察を詳細に行い、異常所見を拾い上げ、脳梗塞と診断し、抗血栓療法の適応を考えるという流れになります。しかし、その際に「機能」という観点で考えてみると、以下のような問題点が挙がります。
#嚥下障害
#認知機能低下
#片麻痺
#高次脳機能障害
#膀胱直腸障害
これは、リハビリ的なプロブレムリストと呼んで良いものです。内科的にプロブレムを挙げるのと同様に、機能的問題についてもプロブレムを挙げていきます。ICFの概念を理解するために最も特徴的な考え方であると言えるかもしれません。
リハビリをオーダーする際には、このような機能障害があるかを考えることが重要です。なお、筋力低下、痛み、変形、呼吸障害、聴力障害、視力障害なども重要な機能的障害です。つまり今回の症例では、変形性膝関節症や廃用症候群による筋力低下などが重要な機能的問題であると言えます。
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③ 「活動」とその評価について
機能的問題は評価の基盤ですが、機能的問題があるから動けないというわけではありません。機能的問題の把握は、「活動」に繋げるために行います。
「活動」とは、ADL(Activity of Daily Living)やIADL(Instrumental Activity of Daily Living)であると考えて差し支えないと思います。ADLとIADLの覚え方は、表2・3のDEATHとSHAFTが有名です。
まずはDEATHを用いて、ADLだけでも確認すると良いでしょう。
ただし、ここで注意点があります。DEATHのそれぞれの項目に関して、「自立」または「介助」のみ記載することがありますが、これではADLが全くイメージ出来ません。
セラピストが使用している評価法としてFIMが有名ですが、FIMは「運動ADL」13項目と「認知ADL」5項目の合計18項目で構成され、さらにその18項目を以下の7つの段階で分類します(表4)。リハビリセラピストがこれほどまでに精密にADL評価を行っていることを、まずは知っておきましょう。
明らかな自立や寝たきりはいいのですが、それ以外に関しては、表4のFIMによる分類に準じ、どれくらいの介助度が必要なのかを把握することが重要です。
コツとしては、まずADLの中でも「入浴」を確認すると良いでしょう。入浴は最も難易度が高い行為なので、入浴が自立していればADLは自立と判断して良いでしょう。
その次に、「排泄」を評価します。排泄は、自宅退院が可能かどうかを判断するために、最も重要な項目です。ベッドからトイレまでの道筋や行動をイメージしながら、詳細に評価すると良いでしょう。具体的には、以下の項目をチェックします。
<排泄のチェック項目>
・1人でトイレまで歩いているか?
・トイレまで手すりがあるか?
・介助歩行でトイレまで歩いているか?
・1人でズボンの上げ下ろしが出来るか?
・紙パンツを使用しているか?
・失禁をすることはあるか?
なお、簡易にFIMを評価する方法を佐藤健太先生が提唱されており、実践的であるのでご紹介します[1]。
自立(介助者不要、手出し不要):6点
監視(介助者必要、手出し不要):5点
介助(介助者必要、手出し必要):4点
DEATHの5項目を上記のように評価し点数をつけ、平均点を算出します。平均点の解釈は以下のようになります。
6点 → 問題なく帰宅可能
5点 → サービス調整で帰宅
4点 → 施設入所レベル
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④ 「参加」について
機能および活動を評価し、その後に具体的な生活を評価するのが「参加」です。
例えば、片麻痺がありADLが車椅子レベルだとしても、認知機能が保たれ、自分で車椅子を運転出来るのであれば、屋外での活動は可能です。仕事に行くことも可能でしょう。このように、社会への参加を評価します。車椅子レベルで認知症がある高齢者だとしても、デイサービスなどに参加することは可能です。
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⑤ ゴール設定について
では、なぜ急性期病院で、このような評価を行う必要があるのでしょうか?
それは、リハビリのゴール設定を行うためです。具体的には機能的問題を把握した上で、活動と参加のゴールを設定するということになります。
ここで、今回の症例に戻ります。「機能」「活動」「参加」の観点で入院前の状態を整理すると、以下のようになります。
しかし、脳梗塞発症後はこうなりました。
入院前の状況と比べて明らかにギャップがあります。特に「活動」、つまりADLのギャップに注目してください。
ゴール設定においては、入院中のADLのみで判断しないことが重要です。病院では寝たきりに近くても、入院前の状況を確認すると、思ったよりもADLが良好であったということはよくあります。その場合は、まず入院前に近いADLを目指すことが重要になります。
もちろん、完全に入院前と同じ状況になるのは難しいことも多く、リハビリによる伸びしろは個人差があります。これについては、リハビリセラピストに直接確認すると良いでしょう。
さらにBPSモデルに準じて、健康状態(生物的問題)、個人因子(精神的問題)、環境因子(社会的問題)は以下のようになります。
先に述べた機能的問題の入院前と入院後のギャップ、そしてこのBPSモデルを使って全人的に考えることで、ゴール設定を行います。
本症例では、長期的なゴールは以下のようになるでしょう。
長期的ゴール 施設入所、もしくは介護保険を十分に利用しての自宅生活
どちらを選ぶかは本人および家族ですが、どちらかわからない場合は、より高度なゴールである自宅生活を目標にしておきます。
その長期的ゴールを達成するために、長期的なADLのゴールを設定します。
前述したように、排泄が自宅退院の規定要因となることが多いため、伝い歩きでトイレ排泄を目指すというのが長期的なADLのゴールになります。
ただ、すぐに長期的なADLのゴールを達成することは難しいため、まずは短期的なゴールを設定します。
短期的なゴールは、急性期病院で最低限達成すべきゴールと言えるでしょう。基本的には、以下のように設定することが多いです。
ここまでのゴール設定が出来ないと、本当の意味でのリハビリオーダーは出来ないと言っても過言ではありません。漫然とリハビリオーダーするのではなく、ゴール設定を意識したリハビリオーダーをしましょう。
さらに、これらのゴール設定が出来ていると、転院調整も格段にスムーズになることを付け加えておきます。
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⑥ 早期リハビリテーションについて
前述の通り、これらの短期的ゴールは急性期病院で達成すべきです。リハビリテーション病院に転院してからでは遅いことも多いからです。
実際に、高齢者を対象とした早期に集中的なリハビリテーションを行うことで、通常群に比べて身体機能が改善されたという報告があります[2]。
入院時から退院後のことを想定し、早期に短期的なADLのゴールを達成するようにリハビリテーションを行うことが重要になります。
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⑦ セラピストの種類
リハビリをオーダーするときには、リハビリセラピストの得意分野を意識してオーダーすることが重要です(表5)。
今回の症例であれば、下肢筋力低下が目立つため、理学療法士は必須ですが、ADL障害と認知機機能障害があるため、ADLの専門家であり、高次脳機能の評価も出来る作業療法士もオーダーしても良いでしょう。
嚥下障害もあるため言語聴覚士も必須ですが、「言語聴覚」士は嚥下だけを扱っているわけではく、言語などの高次脳機能障害の専門家であることも覚えておきましょう。
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⑧ 病棟でのリハビリについて
上記の短期的ADLを達成するためには、病棟もリハビリの場と捉えることが重要です。
具体的には、安静度を常に見直すことです。
例えば、入院時は状態が不良で安静が必要だとしても、状態が落ち着いてからも安静の指示が継続されたままでは、廃用のリスクが高まるだけです。
筆者は、脳梗塞やショックなど安静が必要な病態以外、安静度は入院時から院内フリーにしておくことが多いです。また、排泄は車椅子でも良いので可能な限りトイレで行うようにすることで、寝たきりを防ぐことが出来ます。
完全な寝たきりにならないように車椅子レベルを目指すのが、最低ラインです。よって、看護師に車椅子座位保持を可能な限り長くとることを依頼します。
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⑨ リハビリの中止基準とは?
リハビリの中止基準も明確にしておくと良いです。
通常セラピストは、特に指定がなければ、標準的な中止基準で動くことが多いです。そのため、COPDですぐに酸素化が低下する場合などは、中止基準を明確にしておかないと、すぐにリハビリが中止されてしまいます。
例えば「酸素は88%以下でリハビリ中止、リハビリ時には酸素3Lまでアップ可」などの指示を入れるだけで、リハビリセラピストの安心に繋がり、リハビリをよりしっかり行うことが可能になります。
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⑩ リハビリ栄養
低栄養があるときは、リハビリの強度を下げる必要があります。なぜなら、低栄養があるときにリハビリを行うと、筋肉量がむしろ 減少してしまいます。たんぱく質を中心とした栄養補給を優先し、栄養状態が改善した後に、リハビリの強度を徐々に上げる必要があります。このような概念は、近年「リハビリ栄養」と呼ばれており、栄養はリハビリのバイタルサインであるとも言われています。
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■ 極意 ■
●廃用を防ぐために、高齢者では特に早期のリハビリ介入が必要
●ICFに基づいて、全人的に評価を行いゴール設定することが重要である
●病棟生活もリハビリの場と捉えるべきである
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症例(病棟の極意・実践後)
82歳女性。変形性膝関節症と認知症があるが、独居である。徐々にADLの低下と認知機能の低下を認めていた。今回、菌血症を伴う尿路感染症を発症し入院した。入院直後は寝たきりの状態だったが入院2日目には全身状態が改善した。廃用を防ぐために、理学療法と作業療法にオーダーを出した。そして、入院日に今後の目標を家族に確認したところ、自宅に帰したいとのことだったので、転院し介護保険の調整を行った上で、自宅退院を目指す方針とした。短期的には車椅子移乗の安定と伝い歩きを目指すことにして、その旨をリハビリオーダーに記載した。また、中止基準の特記事項は収縮期血圧が90以下で中止としたが、それ以外は一般的な中止基準で問題ないことを伝えた。入院2週間の時点では車椅子移乗が安定し、歩行器歩行もかろうじて可能になった。今後の自宅退院を目指すために入院2週間目に地域包括ケア病棟に転院となった。
<+α アドバイス>
急性期病院に入院する高齢者を扱う上で、リハビリは必須です。普段からICFを意識した診療を行うことが重要です。
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【参考文献】
[1]佐藤健太,編.Gノート増刊 Vol.4 No.2 これが総合診療流! 患者中心のリハビリテーション〜全職種の能力を引き出し、患者さんのQOLを改善せよ!羊土社. 2017.
[2]Martínez-Velilla N, et al. Effect of Exercise Intervention on Functional Decline in Very Elderly Patients During Acute Hospitalization: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2019; 179(1):28-36.
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■著者略歴
森川暢(市立奈良病院)
2010年 兵庫医科大学卒業
2010年~ 住友病院にて初期研修
2012年~ 洛和会丸太町病院救急・総合診療科にて後期研修
2015年~ 東京城東病院総合診療科(当時・総合内科)、2016年からチーフを務める
2019年~ 市立奈良病院総合診療科
■専門
総合内科、誤嚥性肺炎、栄養学、高齢者医療、リハビリテーション、臨床推論
■著書
『総合内科 ただいま診断中!-フレーム法で、もうコワくない-』(中外医学社)
監修:徳田安春/著:森川暢
■現在連載中
『J-COSMO』(中外医学社)総合内科まだまだ診断中!フレームワークで病歴聴取を極める