第6回 マネジメントを意識した入院時サマリーの書き方
総合内科流 一歩上を行くための内科病棟診療の極意(6)
森川暢 市立奈良病院
第6回 マネジメントを意識した入院時サマリーの書き方
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多忙な内科医が入院時サマリーに割ける時間は、それほど多くはないと思います。しかし、入院後のマネジメントに繋げるためにも、要点を押さえて入院時サマリーに書くことは重要です。
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■ 症例(病棟の極意・実践前)
78歳男性が、傾眠傾向と肺炎で入院した。肝障害の既往歴があった。状態が悪そうなので内服薬は全て中止した。入院翌日に解熱したが、その日に原因不明の強直性痙攣を発症した。セルシン®で止痙したため、セルシン®内服を継続した。しかし酸素化の改善が乏しく、ADLも著明に低下したため、ひとまず他院に転院の方針となった。
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【極意】
① 現病歴
現病歴には、主訴に関連した内容を簡潔に記載します。この際に意識することは時間軸です。主訴が時間の経過とともにどのように変化したか、一目でわかるようにしましょう。学会で発表する場合などでは、症状を時系列でグラフ化することもあると思いますが、あのイメージが明確に頭に浮かぶような書き方を心がけます。なお、プレゼンをする場合では入院日を起点に何日前から症状があるか発表するほうが望ましいですが、カルテを書く場合は具体的な日付を記載するほうが望ましいです。
陰性症状を記載する場合は「陰性症状なし」だけで良いですが、主訴以外に陽性症状がある場合は、必ずそれも時系列に含めます。例えば、腹痛が主訴である場合は、「随伴症状として下痢あり」の記載だけでは不十分です。いつから下痢があるのかで鑑別の方向性が全く違ってくるからです。下痢が数年前からあるのであれば、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患を念頭に置くべきですが、前日からの腹痛とそれに随伴した下痢であれば、感染性腸炎や虫垂炎などを念頭に置くべきです。このように、現病歴を記載しながら、自分の中で鑑別疾患を整理することになります。本人から病歴が聞けない場合は、家族や施設職員などから必ず聴取しましょう。
② その他の病歴
ルーチンに記載する必要はありませんが、Sick contactや旅行歴、性交渉歴、食事歴、動物接触歴などは時に重要な情報をもたらすことがあります。
性交渉歴を聞く際には、必ず「パートナーはいますか?」と聞きます。最近、LGBTという言葉が普及しています。LGBTは、Lesbian、Gay、Bisexual、Transgenderの頭文字を取ったものです。つまり、男性の性交渉のパートナーは必ずしも女性ではないということです。
また、性交渉があった場合は、避妊をしているか、不特定多数のパートナーとの性交渉があるかも確認します。ただし、これらの情報は非常にセンシティブですから、あくまで治療上必要と判断したときに、患者さんにもその旨を伝えた上で聴取します。不明熱、原因不明の皮疹、その他非典型的な経過を辿る疾患では、これらの情報が重要になる場合もあります。
③ 既往歴
既往歴を記載する順番は現病歴の後ですが、実際に問診するときは最初に聞いてしまうことも多いです。当然ですが、既往歴は鑑別疾患に明確に影響しますし、入院後のマネジメントにも影響を与えます。
慢性心不全の急性増悪を繰り返している高齢者の呼吸困難では、当然ですが、心不全急性増悪を念頭に置きます。とはいえ、慢性心不全が既往にあるといっても、その程度は千差万別です。もしかしたら、かかりつけ医に「浮腫があるから心不全かもね」と言われただけかもしれません。
狭心症もそうでしょう。一過性の非特異的な胸痛に対して「狭心症疑い」と言われただけという場合と、急性冠動脈症候群に準じた危険な狭心症で緊急カテーテル治療をした場合とでは、そのインパクトは天と地ほどの差があります。
さらに言えば、脳梗塞などもその傾向があります。例えば、脳ドックで指摘された無症候性のラクナ梗塞などは、抗血小板薬の絶対的な適応ではなく、仮に抗血小板薬を内服していたとしても中止は問題なく可能です。その一方で、頸動脈狭窄が著明で脳梗塞を何度も再発しているにも関わらず、頸動脈ステントなどを希望されておらず内科的治療をしている場合は、原則として抗血小板薬の中止は難しいでしょう。
入院後のマネジメントに繋げるためには、既往歴の有無だけを聞くのではなく、詳細な内容を問診して判断する必要があります。患者さんに聞いてわからなければ、主治医に確認することを怠るべきではありません。
④ 内服薬
内服薬は、可能であれば飲んでいる量やタイミングまで全て記載するべきですが、難しければ、処方内容だけでも記載します。この際に、どこの病院のどの診療科から何の薬が処方されているかを必ず書きましょう。
ポリファーマシーが問題となっていますが、ポリドクターの場合、問題はさらに複雑になります。例えば、薬手帳は非常に有用ですが、ポリドクターとなると、記載が漏れている場合もあります。さらに、院内処方は薬手帳には反映されないため、より複雑になります。大概は薬手帳や患者さん・家族からの申告で把握出来るため、可能な範囲で記載します。
ポリドクターやポリファーマシーの症例では、入院時の薬剤リストは暫定版としておき、入院後に薬剤師さんに検薬を依頼することで、薬剤リストを完成させます。検薬をすると、意外なところから意外な薬が処方されていることが判明したり、全く薬が飲めていない現状が浮き彫りになることもあります。反対に、過量内服によって薬剤副作用が起きている可能性が、検薬から明らかになることもあります。
これらの情報は必ずサマリーに記載し、必要に応じて外来主治医に情報依頼を行うとよいでしょう。
なお、薬剤処方歴から既往歴を類推することも可能です。患者さんが「既往歴はない」と言っている場合でも、例えばバイアスピリン®を内服していることで心筋梗塞の既往歴が判明することもあります。
⑤ 嗜好歴
喫煙歴と飲酒歴を確認します。
喫煙歴は言うまでもなく、COPDのリスクです。喫煙の継続期間を確認することが非常に重要になります。pack-yearsはタバコ1箱(20本)を継続した年数であり、国際的な喫煙歴の基準とされています。20pack-years、つまりタバコ20本/日を20年継続した患者さんの20%がCOPDであることを覚えておくとよいでしょう[1]。
ただし、1日の本数よりも、純粋にタバコを継続した期間が気道閉塞の予測因子になるという報告もあるため、まずは喫煙年数を確認し、20年以上喫煙を継続している場合はCOPDのリスクが高いと判断し、呼吸機能検査をすることを検討します[2]。
飲酒に関しては、喫煙よりも正確な量を把握することが難しい傾向があります。なぜなら、患者さんが飲酒量を過小報告することが多いためです。そこで正確な飲酒量を類推するためには割り算をします。大酒家は大瓶(2Lなど)でアルコールを購入する傾向があります。そのため、「大瓶を何日くらいで飲むか」という聞き方をします。2Lの焼酎を4日で飲むのであれば、1日の飲酒量は500mLであることが判明します。明らかに飲酒量が多い場合は、ワイパックス®などで離脱予防を行うことを検討します。また、アルコール依存の可能性が高い場合は、専門の精神科医へ紹介することを検討します。
⑥ 生活歴
高齢者は、自宅から来たのか、施設から来たのかの情報は必須です。また、介護保険を利用しているか、利用している場合は介護度も記載します。
さらに、普段のADLについても具体的に記載します。可能であれば、全てのADLを記載したいところですが、最低限、排泄と食事に関してだけでも充分です。
オムツなのか、ポータブルトイレなのか、それとも車椅子でトイレに行っているのか、トイレに歩いて行っているとしたら手すりはあるのか、など詳細に記載します。
食事に関しては、食事介助が必要なのか、セッティングすれば自分で食べられるのか、誰が食事を用意するのか、普段の食事形態はどうか、など記載します。
排泄と食事を詳細に聞くだけで、ADLの肝が見えてきます。これらの情報は退院出来るかどうかに直接関わってくるため、極めて重要です。
家族構成とキーパーソンについても書きますが、家族関係に問題がありそうであれば、それも書いておくと良いでしょう。なお、若年者の場合は、職業を記載すると良いと思います。社会復帰を考える際に、職業が重要な要因になることはよく経験されます。
⑦ DNAR
当然ですが、DNARの確認は、高齢者では入院時に行うべきです。また、確認しておきながらサマリーに書いていないケースがあります。これは、後で主治医以外がサマリーを見たときに困ることになるので必ず記載しましょう。
⑧ アレルギー
薬剤と食事について、それぞれアレルギーの既往歴を確認します。特に慢性咳嗽で喘息を疑う場合などは、花粉症やアトピーの有無もアレルギーの一環として確認します。喘息ではこれらのアレルギー体質を合併し得るからです。
⑨ 身体所見と検査
バイタル、身体所見、検査所見について簡潔に記載します。特にバイタルと身体所見は、検査結果と異なり、入院時サマリーにしか項目がありません。
入院時、胸部Xpや心電図の検査のルーチンがあるように、入院時のルーチンとして最低限の身体所見は網羅して書くことをお勧めします。後から比較することが可能になり、急変時などに役に立ちます。
⑩ アセスメント&プラン
入院時に問題になる新規のプロブレムリストを挙げて、プロブレムリストごとにアセスメント&プランについて記載します。
ここでは、プロブレムリストの肝についてお話しします。
例えば、どこからどう見ても誤嚥性肺炎である場合は、プロブレムリストは「#誤嚥性肺炎」としても良いでしょう。しかし、発熱の原因が不明であれば、安易に「#肺炎疑い」というプロブレムは用いず、「#発熱」とだけしておきます。記載するとしても、「#発熱 s/o肺炎 r/o感染性心内膜炎、薬剤熱」などといった具合に、疑わしい疾患を「s/o」、その他疑わしく除外すべき疾患を「r/o」としてプロブレムの横に書くのが良いでしょう。これは、「#肺炎疑い」とすることで、そのプロブレムが独り歩きしてしまい、診断エラーに繋がる可能性があるからです。
アセスメントは、「診断アセスメント」と「治療アセスメント」の2つを記載します。プランに関しても、今後の「診断プラン」と「治療プラン」の2つに分けて記載すると良いでしょう。
⑪ 退院時サマリーを入院時に書けるか
入院時サマリーの時点でゴール設定をしておくことを、筆者は強く勧めます。まず、解決すべきプロブレムとそれを解決するのに要する日数を考えます。例えば、市中肺炎であれば抗菌薬投与は長くても7日前後になることがほとんどでしょう。ここで高齢者では、入院前のADLを含めた生活歴を入院時から積極的に聴取することが重要になります。
例えば、重度の敗血症を呈しておりADLの著名な低下が予想される症例で、介護保険を全く利用しておらず、老老介護で、他にキーパーソンがいない場合はどうなるでしょうか。敗血症の治療期間自体は2週間で終了するかもしれませんが、治療終了時にADLが著明に低下していることが予想されます。その状況で直接自宅退院は極めて難しいため、まずは地域包括ケア病棟に転院することがゴールになる可能性が高いと考えます。
もちろん、自宅退院か転院か迷うケースもありますが、その場合は、その旨をサマリーに記載しておきます。そうすることで多職種との情報共有も円滑になります。また、入院時からソーシャルワーカーの介入を検討してもいいでしょう。
つまり、予測能力が入院時サマリーの質を決めると言っても過言ではありません。極論を言えば、入院時から退院時サマリーを書けることを目指すべきですし、さらに退院後のマネジメントも決定できることを目指すべきです。仮に予測が外れた場合は、なぜ、外れたかを考えると、より成長することが可能になります。
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■ 極意 ■
●入院時サマリーは情報をまとめつつ、適切なアセスメント・プランに繋げるためのツールである。
●入院時から退院時のことを見据えたアクションプランを行い、今後を予想することが重要であり、入院時から退院時サマリーを書けるような心づもりをしておく。
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症例(病棟の極意・実践後)
78歳男性が、肺炎で入院した。肝障害もあり、これについて詳細に問診したところ、アルコール性肝障害であったことが判明した。さらに焼酎500mL/日を服用しつつ、不眠に対してトリアゾラム0.5㎎/dayを内服していたことが判明した。家族から病歴を聴取したところ、不眠に対していつもよりアルコールを摂取し、さらにトリアゾラムを通常の2倍量内服し、その後嘔吐してから咳嗽と喀痰が増加したことがわかった。以上より、アルコール多飲とベンゾジアゼピン過量内服による傾眠傾向と、それに伴う誤嚥性肺臓炎であるとアセスメントした。また、1日40本の喫煙を40年間継続していることから、COPDのリスクが高いと考えた。
アルコール離脱予防にセルシン®の予防内服を行いつつ、肺炎の治療を行った。その後、セルシン®は漸減を行った。介護サービスは未申請であり、アルコール依存症への対応も含めてソーシャルワーカーに介入を依頼した。呼吸機能検査からはCOPDと診断し、禁煙指導の上、吸入薬を処方した。元々、トイレ歩行は伝い歩きで歩行が限界のレベルで常食を摂取していたため、常食摂取と伝い歩きを目標としたリハビリも開始した。その後、介護サービスと在宅酸素を導入し、退院後は禁酒外来を受診する方向づけをして、自宅退院となった。
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【参考文献】
[1] 亀田メディカルセンター. 亀田総合病院 呼吸器内科【呼吸器道場】http://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/20packyears20copd.html
[2] Bhatt SP, et al. Smoking duration alone provides stronger risk estimates of chronic obstructive pulmonary disease than pack-years. Thorax. 2018 May;73(5):414-421.
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■著者略歴
森川暢(市立奈良病院)
2010年 兵庫医科大学卒業
2010年~ 住友病院にて初期研修
2012年~ 洛和会丸太町病院救急・総合診療科にて後期研修
2015年~ 東京城東病院総合診療科(当時・総合内科)、2016年からチーフを務める
2019年~ 市立奈良病院総合診療科
■専門
総合内科、誤嚥性肺炎、栄養学、高齢者医療、リハビリテーション、臨床推論
■著書
『総合内科 ただいま診断中!-フレーム法で、もうコワくない-』(中外医学社)
監修:徳田安春/著:森川暢
■現在連載中
『J-COSMO』(中外医学社)総合内科まだまだ診断中!フレームワークで病歴聴取を極める