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第8回 タイムマネジメント

総合内科流 一歩上を行くための内科病棟診療の極意(8)
森川暢 市立奈良病院
第8回 タイムマネジメント

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今回は、症例を使わずに解説していきましょう。少し視点を変えて、病棟でのタイムマネジメントについて考えていきます。タイムマネジメントの原則として、緊急度と重要度に分けて仕事を整理することから始めます。今回は、図1に沿って、4つの段階に分けて解説をしていきます。

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図1.タイムマネジメントの4つの段階(文献[1]より引用改変)

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① 重要度:大 緊急度:大

当然ですが、仕事の重要度が大きく緊急度も大きい場合、その仕事を最優先に行います。

例えば、病棟の患者さんが突然片麻痺になり脳梗塞が疑われるという場合はどうでしょうか?この場合は、緊急で画像検査や神経内科のコンサルトを行うべきですし、他の何よりも優先されるべきです。

病棟診療で重要度が大きく緊急度も大きいケースは…予想外の急変であることが多いため、可能な限り急変を起こさないように努力することが原則になります。具体的には緊急度を小さくする努力が必要になります。

例えば、高齢者が食事を全く食べなくなり衰弱するというのは急変のハイリスク群です。そのようなハイリスク群では、家族との面談を早急に行い、急変時のリスクと急変時にどのようにするかを話し合う必要があります。

他には、心不全を繰り返している患者さんの場合、人工呼吸器を使用するか検討することも例として挙げられます。これを怠るといざ急変したときに慌ててしまい、緊急事態となってしまいます。あらかじめ予想していれば、たとえ急変したとしても緊急の度合いを小さくすることが出来るため、結果的には費やす時間は短くて済みます。そのため、常にどのような経過を辿るかを先回りして考える癖をつけることが重要になります。

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② 重要度:大 緊急度:小

病棟診療の多くの問題は、この②の段階、重要度が大きく緊急度が小さいケースに当てはまります。

臨床上の失敗の多くは、この②の段階に当てはまる問題を重要ではないと誤解して、重要度も緊急度も小さい④の段階だと考えてしまうことから生じます。その結果、重要な問題を先送りにしてしまうのです。

当然ですが、入院時の主病名が肺炎であれば、それに関連した抗菌薬治療は重要であることは周知の事実です。

しかし、肺炎で入院した高齢者の食欲不振はどうでしょうか? 入院時主病名と関係がないため、緊急性もなく重要度も低いように感じます。しかし、主病名以外の問題、肝機能障害、電解質異常などを抱えていることもあります。この主病名以外の問題を検討せず対応を怠ると、後でこの主病名以外の病気が悪化してしまい緊急度が高くなるかもしれません。

高齢者では、食欲低下、低栄養、痛み、廃用症候群、嚥下障害、せん妄、便秘、抑うつなど多種多様な問題が発生します。主病名以外の病気で、一見小さな問題だと感じても、先回りして検討し対処することで、結果的に、緊急度を小さくして時間を確保することが可能になります。

一方、社会的に問題がある場合は、ソーシャルワーカーやリハビリセラピストと、患者さんの入院後、可能な限り早く連絡を取ることで入院期間の短縮に繋がります。これらの社会的な問題は多岐にわたるため、慣れないうちは、病棟の患者一覧をプリントアウトして「To do list」として、やるべきこととして書き込み、1日の業務は、To do listを消していくことに注力していきましょう。

少し話は変わりますが、慣れるまでは、検査結果が届く日や点滴・内服薬などが切れる日、そして検査結果や点滴・内服薬が届かない場合も、カルテに記載しておくと良いでしょう。

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③ 重要度:小 緊急度:大

この③の段階に当てはまる事柄として、院外の原稿執筆や研究、および、院内の書類作成の仕事が挙げられます。

当然、医師の仕事として臨床が最優先ですが、これらの仕事も疎かには出来ません。これは、筆者の反省も込めて…になりますが、本来は、重要度も緊急度が小さい④の仕事であるはずなのに、締め切りが近くなると緊急度が高くなり、この③の段階になるという性質を持っています。

理想的な対応は、締め切り前に余裕を持って行うことと言えるでしょうが、締め切りが近づかないと出来ないという先生も少なくはないのではないでしょうか?

ここでもTo do listが重要になります。原稿執筆や研究に関しては、GoogleのTo do listを筆者は愛用しています。クラウド型なのでパソコンとスマートフォンで同期できること、さらにGmailと連動しているため、メールの内容をそのままTo do listに紐づけることが可能になります。このTo do listで締め切り日がいつかを意識することが重要です。

また、「院内の単純な書類作成の仕事」と「原稿執筆や研究などの創造的な仕事」をする場合、それらの作業をする時間帯を変えるべきであると考えています。

例えば、原稿執筆や研究を行うときは、頭が冴えていないと難しい側面があると思います。よって朝早くや家族が寝静まった後など、最も自分が集中できる時間と場所を選択します。個人的には喫茶店など、普段の業務と隔絶された場所は好みです。少なくとも自分が最も集中できる場所と時間を把握しておくことが重要です。

一方で、院内の単純な書類仕事などは当直中や当直明けなど疲れがピークになっている状態であえてやることも考えるべきです。特に、レセプトの病名付けなどは単純作業なので頭が冴えている時間帯にやることは、もったいないと感じます。

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④ 重要度:小 緊急度:小

締め切り前の書類作成、原稿執筆や研究がここにあたります。これらを締め切り前に出来ると、のちのち楽になります。

締め切り前に、これらの仕事を早く終わらせるコツは、一言で言えば、「やる気スイッチ」が入るかどうかです。また、やる気スイッチが入るためには、2つの条件が必要であると考えます。

1つ目は、他に緊急でやるべき案件がないということ。

2つ目は、その原稿執筆や研究に自分の興味がフォーカスされる状況であるということ。

原稿に関して言えば、最も興味がフォーカスされる状況は締め切り前ですが、その次は依頼直後と言えます。よって、すぐに完成できる原稿などは依頼直後にやってしまうことが最も効率的です。目安としては、1時間程度で完成できる原稿などはこれにあたります。この④の段階でいかに早く終わらせるかで、のちのち楽になるかが決まります。

自分が原稿執筆に最も集中できる時間と場所を把握し、意識的にその状況を作り出せるかが重要です。

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■ 極意 ■

,●予測能力を身につけ先回りすることで緊急事態を避ける。
緊急性がなさそうな臨床上の問題を先送りせずに解決する。
創造的な仕事は、頭が冴えている時間に行う。

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■著者略歴

森川暢(市立奈良病院)

2010年  兵庫医科大学卒業
2010年~ 住友病院にて初期研修
2012年~ 洛和会丸太町病院救急・総合診療科にて後期研修
2015年~ 東京城東病院総合診療科(当時・総合内科)、2016年からチーフを務める
2019年~ 市立奈良病院総合診療科

■専門
総合内科、誤嚥性肺炎、栄養学、高齢者医療、リハビリテーション、臨床推論

■著書
『総合内科 ただいま診断中!-フレーム法で、もうコワくない-』(中外医学社)
監修:徳田安春/著:森川暢

■現在連載中
『J-COSMO』(中外医学社)総合内科まだまだ診断中!フレームワークで病歴聴取を極める


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