編集後記『ナースのための はじめての眼科』
医学領域専門書出版社の金芳堂です。
このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。
どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。
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■書誌情報
『ナースのための はじめての眼科』
著:石岡みさき(みさき眼科クリニック院長)
A5判・132頁 | 定価:本体2,000円+税
ISBN:978-4-7653-1875-4
取次店搬入日:2021年08月11日(水)
眼科の検査、診療で出合う疾患やちょっとした疑問など、実務上最低限おさえるべきポイントをまとめました!
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■編集後記
こんにちは。編集部のNです。
2021年8月11日に『ナースのためのはじめての眼科』を出版します。この本は看護師さん向けで、全体を読めば眼科勤務の概略がわかる内容です。
とくに注目は、各章のプロローグ部分。
新人看護師と医師との会話になっていて、思わず笑ってしまうエピソードばかりです。印象に残るため、それをきっかけに、内容が思い出せて、実務に活かせるのではないかと考えています。
ぜひ、手に取って、読んでみてください。
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■序文
「ようこそ眼科の世界へ!」
この書籍は眼科に初めて勤務する看護師のためのものです。医師は研修後に所属する科が決まるとほぼ一生その科の医師として勤務していきますが、看護師の場合、勤務先の病院の都合や、クリニックに転職する時などに、所属する科が変わることがあると思います。「眼科に勤務することが決まった」という時点で簡単に読めて眼科の全体像がわかる教科書のような書籍があるといいなあ、という思いで作りました。看護師以外のコメディカル、そして初期研修医の方にも役立つ内容のはずです。
眼科は当院のようなとても小さい規模のクリニック(手術もコンタクトレンズ処方も行っていません)から、コンタクトレンズ処方が主体のところ、開業医で日帰り白内障手術を多数行っているところ、病院クラスで入院が必要な病気も診ているところ、と規模や診療内容が様々です。本書では、どこの眼科でも出合うような病気、行っている検査を、実際の外来で出合うようなエピソードに絡めて説明しています。眼科勤務が始まったばかりの看護師が登場しますので、ぜひ一緒に眼科の世界に踏み込んでください。順番通りではなく、興味のある章から読み始めても大丈夫です。私は順に教科書を読むのが苦手です。眼の構造から始まる教科書では網膜10層あたりで挫折することが多いので、どこからでも読める「どこでもドア」らしい教科書のような書籍を目指しました。
この本を全部読んだ後で「あれ? これは何だろう?」ということが勤務中に出てきたら、それは次の教科書を買う時期が来た、ということです。入門書である本書はすべてをカバーしていませんので、卒業したら次のステップに行きましょう! ようこそ眼科の世界へ!!
2021年7月
石岡みさき
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■サンプルページ
① 検査いろいろ
POINT
・眼科の診察や検査は座って行うのが基本
・いろいろな検査機器を知っておこう
プロローグ:眼科回診は患者さんがやってくる
―ある日の病棟にて
○「おはようございまーす。あら、新人さん?」
★「はい! 眼科配属になった人見と申します。今日は回診につくことになっています。一緒に回る先輩がちょっと席を外していますが、よろしくお願いします !!」
○「こちらこそよろしくお願いします。本日の回診担当の石岡です。じゃあ、始めましょうか」
★「はい !!」
○「……」
★「……」
○「え?」
★「え?」
○「“え”って、早く患者さんを呼んでください」
★「ええー !! 病室に行くんじゃないんですか !?」
○「やだ、眼科回診はこの診察室に患者さんのほうが来るのよ~」
★「す、すみません、今まで内科病棟にいたものですから……」
○「まあ、そうよねえ。普通思い浮かべる“回診”は医者が大名行列のように病室を回っているわよね。最近では、そういう回診をやめた病院もあるらしいけど」
(注:〇医師、★新人看護師)
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1 │座っているのが原則
眼科の診察や検査は患者さんが座っているのが原則です。逆に言うと、座れない場合には、診療に限界があるということです。手術は仰臥位で行います。耳鼻科も歯科も、診察室に患者さんが来る回診が基本です。「機器や器具が必要」というのが大きな理由と考えられますし、どの科も患者さんが座っての診察だからでしょう。病院では、この 3 つの診療科の入院病棟が同じこともよくあり、他科の回診に迷いこんでくる患者さんも時々います。
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2 │検査機器
それでは以下、いろいろな検査機器を、主に姿勢の観点から説明していきましょう。検査を行う人を「検者」、検査を受ける人を「被検者」と呼びます。診療の場では被検者は全員患者さんです。一方、検者にはいくつかの職種がありますが、ここでは「検者」とまとめます。また、検査機器の原理は同じものの、メーカーにより多少操作が異なることがあります。実際に検査するときに説明書などで確認してください。
・細隙灯(さいげきとう)顕微鏡
「スリット」と呼ばれることが多く、眼科医が診察時に必ず使う基本の器械です。「細隙=スリット」状の光で眼を照らして診察するために、こう呼ばれています。この器械を使用するときは患者さんと検者(ほぼ医師)の双方が座っているのが原則です。患者さんの目を拡大して診察、処置を行うため、座っている安定した姿勢が必要です。
・レフラクトメーター、ケラトメーター、ノンコンタクトトノメーター
「レフラクトメーター」は遠視、近視、乱視などの屈折を計測し、「ケラトメーター」は角膜曲率半径(角膜のカーブ)を計測します。この 2 つは一体型となっていることがほとんどです。「レフケラ」と略称されます。「ノンコンタクトトノメーター」は非接触型の眼圧計で、スクリーニング検査としてレフケラと同時に計測することがよくあります。こちらは「ノンコン」と略称されます。患者さんは座り、検者は立って計測します。
・眼底カメラ、光干渉断層計(OCT)
散瞳(瞳孔を開くこと)しなくても眼底写真を撮れる眼底カメラがよく使われています。光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)は「眼底三次元画像解析装置」とも呼ばれ、網膜の層構造を検査でき、網膜疾患や緑内障の診断に使われます。患者さんは座り、検者はパネル操作式器械の場合は立って、ファインダーを覗く器械では座って撮影します。
・視野計
ハンフリー視野計( 図 1-4 )がよく使われています。患者さんは座り検者は立って行いますが、検査時間が長くなる場合には座る検者もいます。ゴールドマン視野計は、検者が器械の操作を行いながら記録していくために座っているのが通常です。
・視力表
遠くの視力(遠見視力)は 5 m か 3 m 離れた視標を見せ( 図 1-5a )、近くの視力(近見視力)は近見視力表を持ってもらい測ります( 図 1-5b )。検査用の枠にレンズを入れ替えるため、検者は立ち患者さんは座っています。1 m の距離で測れる視力表や、メガネ屋さんなどでは自動でレンズの入れ替えができる器械も使われています。
・単眼倒像鏡
散瞳後の眼底検査を検者が片方の眼を使って行うので、「単眼」検査です。患者さんの眼の中に光を入れ、目の前にレンズをかざして拡大した上下左右反転された「倒像」眼底を見ています。通常は患者さんも検者も座って行いますが、身長差があるときなどは検者が立って行うこともあります。仰臥位の患者さんでも検査できます。原則医師のみが行います。
・双眼倒像鏡
散瞳後の眼底検査を検者が両方の眼を使って行う「双眼」検査です。立体的に見え、倒像鏡は頭につけるために両手があくという利点があります。こちらも目の前にレンズをかざして上下左右反転された「倒像」眼底を見ています。基本的に患者さんは仰臥位のため検者は立っていますが、双方が座っていても検査することはできます。原則医師のみが行います。
・ハンドスリット(ランプ)
「手持ちスリット(ランプ)」、「手持ち細隙灯」、「ポータブルスリット(ランプ)」とも呼ばれます。座って細隙灯検査を行うことができない場合(乳幼児、寝たきりの方の往診など)に使われますが、見えるもの、できることが限られるため簡易検査にとどまります。 図 1-8 では乳児のため仰臥位で診察していますが、幼児の場合、座った保護者に抱きかかえてもらっての診察も行います。患者さんの位置によって検者は座っていたり、立っていたりといろいろです。原則医師のみが行います。
3 │眼科は 0 歳から
乳幼児の保護者から問い合わせをいただくことが多いのですが、眼科は、新生児から亡くなるまですべての年代の方の診療を、一般開業医でも行います。内科では原則子どもの診療を行わないため、「小児眼科」でないと子どもは診てもらえない、と思われるようですね。もちろん小児専門の眼科もありますが、それは一般眼科で診療が難しい場合の紹介先です。3 歳くらいになると、 図 1-10b のように膝立ちで検査や診察ができるようになりますが、それ以前は保護者に抱きかかえてもらったり、図 1-8 のようにタオルなどでくるんだりした状態で診察します。
4 │高さの調整
顔を載せて検査する機器は高さの調整が必要です。まずは患者さんに座ってもらい、身長(座高)に合わせて器械台の高さを変えましょう。椅子の高さを変えることもあります。そして顎を載せてもらい、額を前に押し当ててもらいます。 図 1-9a のように額が離れてしまうと検査も診察もできないため、 図 1-9b のようにしっかり押し当てます。顔の大きさは結構個人差が大きいので顎台の高さを変え調整します。ほとんどの器械の顎台の枠に、眼の高さに合わせた線が入っているのでそれが目安となります( 図 1-9a 、図 1-9b の点線丸囲み内。機器によっては赤い色のこともあります)。器械のほうにジョイスティックがある場合はそこでも高さ調整ができます。
機器の台を低くして椅子を上げても届かない場合、患者さんに立ってもらったり( 図 1-10a )、立っても届かないときには椅子の上に膝立ちで座ってもらいます( 図 1-10b )。
5 │スリット診察の介助
スリットでの通常診察時は、右手でジョイスティックを使い器械の位置を合わせ、左手で開瞼などの操作を行っていますが、 図 1-11a のように処置を行う場合には両手が必要となります。このとき、患者さんの額が離れてしまうと、ピントが合わなくなるだけでなく、時に鋭利な刃物による処置も行うので危険です。そのため患者さんの頭を押さえて額が離れないような介助が必要なことがあります( 図 1-11b )
6 │視覚障害者の誘導
眼科の中は暗室もあれば、仕切りのカーテン、そして椅子や器械のコード類が床にたくさんあります。普段は一人で行動できる、あるいは白杖(はくじょう)があれば歩ける方でも誘導が必要なことがあります。広い場所では白杖を持っていないほうの手で肘か肩を持ってもらい誘導します( 図 1-12ab )。狭い場所では両手を持っての誘導となります( 図 1-12c )。椅子などは触って確認してもらいます( 図 1-12d )。器械がすぐ近くにあることが多いのでそちらも手で確認してもらい、顔などがぶつからないよう、誘導している人が手で器械などをカバーすることもあります。
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■終わりに
今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。
是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。
それでは、次回の更新をお楽しみに!
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