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編集後記『性的マイノリティのための診療空間のつくりかた』

医学領域専門書出版社の金芳堂です。

このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。

どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。

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■書誌情報

『性的マイノリティのための診療空間のつくりかた』
編著:井戸田一朗(しらかば診療所院長)
A5判・216頁 | 定価:3,520円(本体3,200円+税)
ISBN:978-4-7653-1936-2
取次店搬入日:2023年02月20日(月)

性的マイノリティかもしれない患者さんが来院したときにどのようにアプローチし、どんな診療やコミュニケーションの工夫をすればよいのか? しらかば診療所の診察風景より紐解く。

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■編集後記

Aです。

ついに『性的マイノリティのための診療空間のつくりかた』発売です。

医療者の皆様、本書はふつうに性的マイノリティを診療するための、実際的なふつうの医学書です。「人権とは~」「ひとりひとりのセクシャリティーが尊重される社会の実現のために~」ということよりも、あなたの目の前にいる医学的処置が必要で困っている、性的マイノリティとカミングアウトしたりしてなかったりする人をちゃんと診療するためのマニュアルです。

 

ごめんなさい。

 

嘘つきました。方針について嘘はないんですが、「ふつうの医学書」は違います。性的マイノリティとかLGBTとかよくわからない人のために、飛び道具にしては程があるだろ!という、歌川たいじさんのむちゃくちゃ面白い漫画が載っています。

最初編者の井戸田先生から「友達の歌川さんに漫画とかイラスト描いてもらおう」と提案していただいたとき、軽い気持ちでOKだしましたが、お名前調べて驚愕、コラムにあわせて描いていただいた漫画にノックアウト。やばい。初版5万部・重版確定クラスの漫画だ。医学書編集者に取り扱えるのかこれ。。

歌川さんにはくつおうの帯イラストも描いていただきました。最高だ。

もちろん本編・コラムも充実です。性的マイノリティのかたの感染症診療や内分泌疾患、メンタルヘルス、医療面接での対応について、しらかば診療所の15年間をみっちりと詰め込みました。執筆陣はしらかば診療所の現メンバーと非常勤で働いていたり働いたことのある方々です。

本書を読めば、性的マイノリティに優しい診療空間というのは、そもそもどのような患者にとってもプライバシーが守られ、他科との連携がうまくとれ、診療能力の高い場所でもあることがわかります。というわけで病院・クリニックの経営陣のみなさまもぜひお読みください。

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■序文

当院でよくある診察風景です。

男性患者A:先生、1ヵ月前から喉の違和感がなんとなくあるのですが、最近、喉の性感染症もあるって聞いて。

私:最後のエッチはいつ頃ですか?相手は女性、男性、両方?

Aさん:男です、最後は2週間くらい前です。

私:一応、喉のクラミジア、淋菌の検査しておきましょう。最後にHIV検査したのはいつ頃ですか?

Aさん:2年前、いや3年前くらいかも?

私:今、梅毒も流行っているから、一緒に検査しておきませんか?健康保険でできますからね。

Aさん:トホホ、ちょっと怖いけど分かりました・・・。

2015年3月、渋谷区で「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(通称「同性パートナーシップ条例」)が可決されて以来、様々な自治体で同様の取り組みが始まり、「LGBT」という言葉をメディアで目にするようになりました。また、2015年に米国の連邦最高裁がすべての州における同性婚を認めたのも、記憶に新しいところです。

LGBTとは何のことでしょうか? 「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー」のことです。日本語でいうと、女性同性愛者、男性同性愛者、両性愛者、生まれたときの性にとらわれない性別のあり方を持つ人となります。最近では、LGBTに”Questioning”(自身のセクシュアリティが、特定の枠に収まらないと思う人、あるいはわからない人)を加えてLGBTQとよぶこともあります。

私が院長を務める「しらかば診療所」はLGBTを含む、異性愛以外のセクシュアリティを持つ人(性的マイノリティ)を主な対象とする診療所として、2007年に東京都内に開院しました。当時、性的マイノリティの存在が注目されることはそれほど多くありませんでした。しかしこの十数年の間に、社会情勢の大きな変化が訪れ、様々な場面で取り上げられる機会が増えるに従い、多くの関連書籍・出版物が発行されるようになりました。一方、医学教育において性的マイノリティをカリキュラムに含む大学は現在も限られ、性的マイノリティへの対応を求められても、実臨床においてどのように接すればよいのか、教わる機会は乏しく指針となる書籍はほとんど見当たりません。皆さんが医療現場における具体的な性的マイノリティへの接し方について、詳しくなくても当然なのです。

本書は、広く医療従事者の方々を対象としています。当院に勤務する、性的マイノリティ当事者・非当事者の医師たちが実際の症例を通して得た経験や学びを、個人情報に配慮したエピソードの形で提供していただきました。本書では、指針やスタンダードの提示のみではなく、症例エピソードを通じて、読者のみなさんが性的マイノリティに接することの楽しさ、面白さ、奥深さを感じながら、実臨床における問診や診察の工夫を共有していただき、効果的なコミュニケーションについて考えるヒントをたくさんご用意したつもりです。

性的マイノリティかもしれない患者さんが来院したときに、どのようにアプローチし、どんな診療やコミュニケーションの工夫をすればよいのか、各医療機関の状況に合った内容で実践していただく上でお役に立てれば幸いです。性的マイノリティに対して行う配慮や工夫は、他の社会的マイノリティにはもちろん、時にはマジョリティにとっても役立つことでしょう。なお本書では、各章の内容によって、性的マイノリティ、LGBTQの両方の用語を用いていますが、両方とも指す内容は同じです。

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■目次

まえがき

1 性的マイノリティに優しい診療空間とは

医療における性的マイノリティの従来の位置づけ
しらかば診療所の成り立ち
しらかば診療所での診療の工夫
性的マイノリティ特有の健康課題(主に身体面において)
LGBTQはなぜ生きづらいのか
真夜中は別の顔…?
キーパーソンって?

2 感染症の診療

直腸炎とセックス -問診・診察編-
直腸炎とセックス -検査・治療編-
赤痢アメーバ感染症とセックスの問診
何か変なもの食べたかな?感染の様式と性行動
梅毒の性器外病変
梅毒の再感染
梅毒とパンデミック
ゲイとC型肝炎

3 性的マイノリティとワクチン

備えあれば患い無し
この病気、正直にいわなきゃダメですか?
男性におけるHPVワクチン

4 性的マイノリティの診療:非感染症

性的マイノリティのための医療機関の試み
曙橋の小さな精神科診察室 -LGBTQのさまざまな心の風景-
トランスジェンダーへのホルモン療法
お尻は多くを語ってくれる
ゲイと糖尿病
「美意識」のかたちはそれぞれ
繰り返す軟部組織感染症

5 性的マイノリティのライフスタイル

性的マイノリティ当事者に向けたメッセージ
膀胱再建後のアナルセックス

おわりに

Column

3本指の手
もし医師がHIVに感染したら
多様性に慣れる
しらかば診療所での勤務の思い出
いろいろ支えられて
サル痘について

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■サンプルページ

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■終わりに

今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。

是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。

それでは、次回の更新をお楽しみに!

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