編集後記『ステロイドの虎』
医学領域専門書出版社の金芳堂です。
このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。
どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。
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■書誌情報
虎だ 虎だ ステロイド処方の虎になるのだ!
「酒は飲んでも飲まれるな」「ステロイドは飲ませても飲まれるな」って、言わない。
どうも、こんにちは。上の文章、漫才師に言ってもらえるなら誰がいいでしょうか。募集します。Aです。
酔っぱらいのことを大虎と言うのはあまり言わなくなってしまった表現ですし、本書は経口ステロイドパルス実践本ではありません。ステロイド処方に苦手意識があるけれども挑戦したい・勉強したいという人向けのステロイド処方の入門書です。
「はじめに」と「あとがき」に國松先生が書いておられますが、本書はあんちょこ本として企画をスタートしたので、『虎の巻』だと普通の書名かなと思います。でも違うんです。「虎」なんですよ。虎。本書。その点、編集目線でコメントしたいと思います。
内容はというと、よくある疾患・状況については使いやすい具体的な処方例(Rp:レシピ)が充実&トラブルシューティングもたくさん掲載している(part 6)ので、当然あんちょこ本として使えます。しかも本書は副作用対策や処方方針についての実際的な総論的知識をビシバシ詰め込み(part 1-3)、製剤の特徴を解説し(part 4)、読者に型稽古(part 5)をつけるのです。
やば。
つまり、「本書を読めばすぐにステロイド処方に強くなるじゃないか。これはもう虎の巻ではなく、臨床医養成施設ステロイドの虎の穴! 四次元殺法活法が四角い診察室で大暴れだ!!」(実況 古舘伊知郎)みたいな入門書です。
ちなみに営業のHさんにこの話をしたところ
「古舘伊知郎のプロレス実況とタイガーマスクネタは40代でも厳しくない??」
というもっともな指摘を受けてしまいました。ふたりともジャストな世代(1981年放送時小中学生)ではないのになぜ通じたのかは謎です。
「いえいえ。タイガーマスクW(2016)ていうアニメが若いプロレスファンの間でも大人気なんですよ? あの棚橋選手も出演していますし! GWMはGlucocorticoid Wired Medicineなんですよ!」
といったいい加減な反論自体は20~30代のプロレス人気を知らないのでしていません。
ともかく虎の穴出身のレスラーは虎(タイガーマスクとかタイガーマスクブラック)になるのですね。臨床医というのは独りで決めなければならないことも多いというのも単独性の強い虎の生態に重なるし丁度いい。虎の巻と虎の穴、両方兼ね備えた一冊が本書なんです。だから「虎」です。
そういえば國松先生にも製作中「虎っていうだけで面白くなりますよね」みたいなお言葉いただきましたが、本書は帯からなにやら、いろいろとネタが渋滞しています。各Partの扉に某クエストなゆるイラストにも虎が大活躍している『ステロイドの虎』ぜひお買い求めください!
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■序文
「ステロイドを使えるようになりたい」
このような気持ちは、初学者でなくても日頃ステロイドを処方し慣れていない臨床医なら、誰しも持っていると思います。ところが、「ステロイドの使い方」というのはいくら教わっても本を読んでもいまいち掴めた気にならないという人が多いようです。
その理由を考えてみました。それは、「総論が頼りない」からだと思います。医師は割と、「キチッとした総論」を体系基盤にしてそれを拠り所にしたい人が多いと思います。ステロイドに関しても、総論や原理・原則をきっちり理解すればその先に、応用があると信じているのでしょう。しかし実際には、いくら勉強しても盤石な理論とは程遠い総論記述がそこにあることがわかり、結局実地臨床では、臨床家の“さじ加減”に委ねられることに不安を覚えることになります。
実際、ステロイドの作用・効果には謎が多く、その使い方はただの慣習が普及してしまっている部分も多いです。にもかかわらず、あたかもそれなりの根拠があるかのように語れることも多いです。理論で攻めても結局は、詰めて行けばいくほど、つまりきちんと誠実に書けば書くほどエビデンスが示せないことがわかり、最後の核心的なところになって ご ま か し た 形 になったりします。
すると残るは実践派の実践内容を知りたいところです。しかし、ちゃんとしている先生ほど、「根拠を示せないから」「なんとなくでやっているからとても公表などできない」などと言い、明るみになってきません。施設ごとの格差も大きいと聞きます。
ただ実地の臨床諸家たちは、言うほど盤石な理論を望んではいません。ステロイドの処方が頭をかすめたときに、すぐにとりあえずの解が欲しいものです。それは忙しいからです。臨床家はいつでも忙しいです。それなりのロジックは欲しいけれども、困っているまさに今、それなりの解が欲しいのです。あの人 or この施設ではこうやって使ってるのか、じゃあ私たちもこうしてみようみたいなサンプルを求めているのだと思います。ちゃんと伝えたいからこそ無難なことしか書けない著者(という立場の者。多くが専門家)と実地の臨床諸家たちとの間に、こうしてすれ違いが生まれるのです。
そこで本書です。というか、そこで國松です。私はこれまでそこかしこで、単著で本を書くというのは公衆の面前で全裸になるくらいの行為であり、単著を仕上げるには「いったん正気を失う」必要があると説いてきました。臨床ステロイド界隈のそうした“モヤっと感”を本などで著せるのはまあ自分かなという 全裸になれる勇気 謎の使命感が湧いてきたのです。これが本書執筆の初期衝動でした。
本書『ステロイドの虎』(ステトラ)では、それなりの理論も記述しました。これは私見も多く含みますが、ちゃんと分けて記述したつもりです。「真理!」のようなものではなく、しなやかなロジックを心がけました。
また、ある程度は「あんちょこ本」のように使えるようにも記述を工夫しました。具体的な処方箋を示し、その解説をしました。理論の部分が理屈っぽくて鬱陶しく感じる人は「あんちょこマーカー」なるものを國松自ら施しました。時間のない人、手を抜きたい人、とにかく大事なところだけ読みたい人、などは、見出しや囲みの他は、この「あんちょこマーカー」のところだけ読んでください。ロジックや情報も書きましたが、「安直」な利用の仕方で構わないと著者は思っています。ぜひぜひ、安直にこの本を使ってみて欲しいです。
この本「売り」をもうひとつ。ステロイドの処方というくらいだから重症例、つまり入院患者を想定していると思うかもしれませんが、外来患者さんにも十分利用できるという点です。かなり色々な診療科でステロイドは処方されます。大病院でも、クリニックでも。特に実地医家という“種族”は、(自分もそうだからわかりますが)何でも自分でやれたらいいなと思うものです。外来でステロイドを自分でうまく処方できたら、世界が広がります。
この本は、「エビデンスなんていいから、処方や処方の仕方を教えて欲しい」という読者に寄り添いたいと思って書き始めましたが、かなりの文献読んでいるうち、ちゃんとした解説をすることも大事だなと思い始め、その結果「あんちょこ本」にはなりませんでした。ただ、この本を読んでいただければ、ステロイドってこうやって使うんだという一例を垣間見ることはできるはずです。かつてまったくステロイドの使い方を教わらなかった先生、あるいは今は使っていないが自分でも使ってみたい臨床諸家のすべての先生にお役に立てるものと思っています。
医療法人社団永生会南多摩病院
國松淳和
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■目次
Part 1 ステロイドは何のためにどう使う?
ステロイドの色々な用途
「てきとうに」がわからない
「てきとうに」は教えられるか
「てきとうに」を「適当に」に変える
ステロイドが使えたら、大きな武器が1つ増える
Part 2 総論:処方せんを作るための考えかた、処方の決めかた
優先順位の決定
炎症を抑えたいのか、免疫を抑えたいのか
何をどう処方するか!
期間の決め方
用量の決め方
種類・製剤の決め方
経口か点滴か
ステロイド処方をためらう理由
Part 3 ステロイドの副作用とその対策
「予防」は言い訳
予防可能性の観点でのグループ分け
時系列でとらえるステロイド副作用
予防薬・対策薬のデメリット
Part 4 各ステロイド製剤の攻略法
各項目のみかた
経口剤
注射剤
Part 5 ステロイド処方の「型👊」
CASE 1 ステロイドパルス!
CASE 2 ひとまず単回点滴投与したい!
CASE 3 外来でプレドニン®!
CASE 4 外来でとんぷくステロイド!
CASE 5 さぁ、免役抑制かけます!
CASE 6 副腎不全かも!(ステロイドカバーをしよう)
Part 6 マニュアル編
とっさのとき
疾患・病態別:知っていると外来診療で役に立つ病態
パルスや大量ステロイドはちょっとためらう病態
トラブルシューティング
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■サンプルページ
Part 6 マニュアル編
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■終わりに
今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。
是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。
それでは、次回の更新をお楽しみに!
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