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第4回 高齢者の入院後のマネジメントを意識した身体診察

総合内科流 一歩上を行くための内科病棟診療の極意(4)
森川暢 市立奈良病院
第4回 高齢者の入院後のマネジメントを意識した身体診察

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身体診察は、忙しい急性期病院ではどうしてもおざなりになりがちですが、もちろん、診断において極めて重要です。今回は、内科医として意識したい、病棟診療のマネジメントに直結する身体診察のありかたを考えていきます。

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■ 症例(病棟の極意・実践前)

89歳男性が、誤嚥性肺炎で入院した。ひとまず、いつも通り抗菌薬投与と輸液を行ったが、酸素化改善は不良で、入院後、誤嚥性肺炎を再発した。再発後、嚥下機能は著明に低下した。、血管内脱水と細胞内脱水に分けて考えるとわかりやすいでしょう。血管内脱水を示唆する所見として、起立性低血圧、および起立時の脈拍増加が挙げられます[1]。また、仰臥位で頭部を挙上しなくても頸静脈の同定が困難な場合も、血管内脱水の可能性があります。これらの所見があれば、細胞外液の投与を検討します。

一方で、腋窩の乾燥、口腔の乾燥、舌の乾燥、舌の縦の皺、窪んだ眼窩という所見は、細胞内脱水を示唆します[1] 。高齢者は、口腔内が乾燥することも多く、特異度は高くありませんが、口腔が湿潤であれば細胞内脱水の可能性は低くなります。細胞内脱水を示唆する所見があれば、維持液の投与を考慮します。もちろん、血管内脱水と細胞内脱水は合併し得ますし、輸液のメニューは腎機能や電解質も考慮して組み立てる必要があります。

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【極意】

① 脱水の診察

入院患者さんには輸液を行うことが多いですが、高齢者では、過剰な輸液による肺うっ血のリスクもあるため、脱水の評価が重要です。脱水は、血管内脱水と細胞内脱水に分けて考えるとわかりやすいでしょう。血管内脱水を示唆する所見として、起立性低血圧、および起立時の脈拍増加が挙げられます[1]。また、仰臥位で頭部を挙上しなくても頸静脈の同定が困難な場合も、血管内脱水の可能性があります。これらの所見があれば、細胞外液の投与を検討します。

一方で、腋窩の乾燥、口腔の乾燥、舌の乾燥、舌の縦の皺、窪んだ眼窩という所見は、細胞内脱水を示唆します[1] 。高齢者は、口腔内が乾燥することも多く、特異度は高くありませんが、口腔が湿潤であれば細胞内脱水の可能性は低くなります。細胞内脱水を示唆する所見があれば、維持液の投与を考慮します。もちろん、血管内脱水と細胞内脱水は合併し得ますし、輸液のメニューは腎機能や電解質も考慮して組み立てる必要があります。

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② 心不全の診察

心不全を示唆する所見がある場合も、輸液は慎重に行う必要がありますし、体液量が過剰ならば利尿薬を使用する必要があります。具体的には、心雑音、両肺底部のcrackles、Ⅲ音、Ⅳ音、心拡大、頸静脈怒張、腹部静脈逆流、下腿浮腫は心不全を示唆します[2]。特に、現状のvolume評価という意味では、脱水同様に頸静脈の診察が極めて重要になります。本来は内頸静脈を確認すべきですが、難しければまずは外頸静脈で良いです。45度ギャッチアップで頸静脈が明らかに張っている場合は、頸静脈怒張と考えます。

腹部静脈逆流も非常に有用な診察で、下大静脈を圧迫することで頸静脈圧を意図的に上昇させる手技です。腹部を10秒以上圧迫し、圧迫を解いた瞬間に頸静脈圧が4cm以上低下すれば頸静脈圧上昇と判断する方法で、簡便です。圧迫する場所は、右上腹部のIVCを意識して圧迫します。頸静脈怒張は心不全の治療効果判定にも有用で、静注利尿薬を、頸静脈をモニタリングしながら投与します。

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③ COPDの診察

COPDを示唆する所見として、樽状胸郭、打診での心濁音界縮小、心窩部の心尖拍動、胸鎖乳突筋肥厚、気管短縮などが知られています[3]。COPDの場合、打診は有用で、通常心臓があり濁音になるはずの場所で、気腫化を反映して鼓音となります。

また、気腫化を反映して樽状胸郭となり、心臓が下方に移動することで心窩部に心尖拍動が触れ、さらに甲状軟骨と胸骨の距離が狭くなって気管短縮となります。呼吸筋の使用を反映し、胸鎖乳突筋も肥厚します。これらの診察所見は否定には使えませんが、喫煙歴がありこれらの診察所見があれば、COPDの可能性が非常に高いと言えます。

疑わしい場合は、積極的に呼吸機能検査を行います。COPDと診断出来れば、吸入薬導入、呼吸器リハビリ、禁煙、ワクチン、栄養指導など、包括的な介入を検討します。

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④ パーキンソン病の診察

パーキンソン病も、高齢者では非常にコモンな疾患です。入院をきっかけに、未指摘のパーキンソン病が診断されることはそれほど珍しくありません。動作緩慢、振戦、小字症などが、パーキンソン病に気づくきっかけになります[4]。そうかもしれないと思ったら、静止時振戦、歯車様固縮、小刻み歩行などを確認しにいきます。個人的な印象ですが医師が「そうかもしれない」と疑い、自分の目で患者さんを見に行かなれば、見逃すことが多いです。

静止時振戦は計算などの負荷をかけることで顕在化しやすいとされています。病歴で静止時振戦を確認することが重要です。また、歯車様固縮も実際に患者さんの様子を見に行かなければ当然ですが気づくことは出来ません。特に、手首や足首など遠位に出現しやすいことに注意が必要です。出来るだけ患者さんにリラックスしてもらった状態で行いましょう。歩行を実際に確認することは重要で、小刻み歩行やすり足歩行だけでなく、すくみ足、方向転換が難しいなどの症状でパーキンソン病がわかります。リハビリの時に気づかれることも多いため、リハビリセラピストの情報も確認します。

疑わしければ、簡便にはL-DOPAを試してみてもよいです。L-DOPAを2錠分2程度で開始し、症状が改善するかを確認します。確認は、リハビリのセラピストにしてもらうと良いでしょう。もちろん、院内に神経内科医がいれば、神経内科にコンサルトしたほうが無難だと思われます。パーキンソン病は近年治療方法が進歩しているため、適切に診断することが重要です。

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⑤ 肝硬変の診察

肝硬変も、身体所見から存在を予測することが可能です。当然、腹水や浮腫は肝硬変を疑う契機になります。腹水に加えて、腹壁静脈怒張を認めれば、より肝硬変らしいと言えます[5]。

また、肝硬変ではエストロゲン高値を反映し、女性化乳房、体毛減少、精巣萎縮を呈します。さらに、末梢血管の拡張を認め、クモ状血管腫だけでなく、手掌紅斑、顔面毛細血管拡張をきたします[6]。特に、顔面毛細血管拡張は比較的感度が高いとされています。

これらの所見を認めれば、積極的に腹部エコーなどの精査を行う必要があります。肝硬変と診断がつけば、ラクツロース、分子鎖アミノ酸製剤、利尿薬などの導入を検討します。

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⑥ 口腔衛生

歯科に関する診察を医学部で学ぶ機会は乏しいため、歯の診察はどうしても軽視されがちです。しかし、誤嚥性肺炎予防において、歯科的な評価は必須です。高齢者ではルーチンに歯科的な診察を行う必要があります。OHAT(oral health assessment tool)は定量的に評価を行うツールで、藤田医科大学のホームページで公開されているので、一度目を通しておくとよいでしょう[6] 。

まずは、明らかな齲歯や口腔不衛生がないかをチェックしてください。それらがあれば、口腔ケアの徹底や歯科の介入を行うだけでも、誤嚥性肺炎の発症率は低下し得ます。

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⑦ 嚥下スクリーニング

入院時に、簡易で良いので嚥下機能の評価を行うと、食事形態のオーダーを安全に行えます。

簡易なスクリーニングとしては、空嚥下で唾を飲んでもらうことが有用です。まずは1回の空嚥下で十分に甲状軟骨が挙上するかを確認します。また、30秒間に何回空嚥下できるかという反復唾液嚥下テストを行い、30秒間で3回未満であれば、異常と判断します。

これらのスクリーニングで陽性になる場合は、水を飲んでもらいます。「改訂水飲みテスト」と呼ばれる手法で、3mlの冷水を使用します。嚥下を認めない場合、ムセがひどい場合、呼吸状態が悪化する場合は、異常と捉えます[7] 。

その場合は、急性期だけでも、食事形態はトロミ水やミキサー食などにしておいたほうが無難でしょう。詳細は第2回をご確認ください。これらのスクリーニングは、内科医が必ず行うべき身体所見の1つと考えています。

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⑧ 認知機能評価

認知機能低下があればせん妄のリスクがあるので、せん妄対策を強化する必要があります。認知症の評価にはMMSEや「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」(HDS-R)が有用ですが、スクリーニングとしてはやや煩雑です。

簡易な方法として筆者が好むのは、MMSEのうち「3語想起」と「計算(100から7を順に引いていく)」を行う方法です。このどちらかに異常があれば認知機能低下が示唆されます。その場合は、「早期にリハビリを行う」「余計なモニターや尿道カテーテル、夜間の不要な点滴を避ける」「不眠時指示は抗せん妄作用があるトラゾドンやラメルデオンにする」などの予防策を講じます。

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⑨ サルコペニア

サルコペニアは、骨粗鬆症の筋肉バージョンと考えればわかりやすく、筋肉量が減少した状態です。明らかな食事摂取量低下、体重減少の病歴があれば積極的に疑います。

サルコペニアの簡便なスクリーニングとして「指輪っかテスト」が挙げられます[8] 。身長に比較的比例している両手の母指と示指で「指輪っか」を作ります。「指輪っか」のサイズで下腿周囲の最大部分を囲った時に、隙間が出来ると、サルコペニアの可能性が高いとされています。このテストが陽性であれば、積極的な栄養療法とリハビリを併用するリハビリ栄養を検討する必要があります。

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■ 極意 ■

●volumeの評価や、心不全、COPD、パーキンソン病の診断など、身体診察の役割は大きい。
●内科医も口腔衛生の評価や嚥下評価を行えるようにしておく。

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■症例(病棟の極意・実践後)

89歳男性が、誤嚥性肺炎で入院した。入院時は血圧低めで、腋窩の乾燥、頸静脈虚脱も認めたため、脱水と判断して輸液を行った。「改訂水飲みテスト」でムセを認めたので、急性期の間の食事形態はトロミ水とミキサー食で対応した。MMSEの3語想起と計算問題は不正解であり、せん妄の予防を徹底した。口腔衛生も不良であり、口腔ケアを徹底した。樽状胸郭、心窩部の心尖拍動、胸鎖乳突筋肥厚、気管短縮を認め、COPDの合併を疑った。輸液に伴い頸静脈が徐々に張ってきて、腹部静脈逆流を認めるようになったため、輸液量を絞って対応した。COPDに伴う右心不全として、LAMA吸入とACE阻害薬を導入した。仮面用顔貌、および固縮と安静時振戦を認め、パーキンソン症候群の合併を疑った。L-DOPAを導入したところ固縮の改善を認めた。「指輪っかテスト」よりサルコペニアの合併を疑ったため、栄養療法に加えてリハビリを開始した。その後、状態は徐々に改善し、最終的には常食を食べられるようになり、退院となった。

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【参考文献】
1.McGee S, et al. The rational clinical examination. Is this patient hypovolemic? JAMA. 1999 Mar 17; 281(11): 1022-9.

2.Wang CS, et al. Does this dyspneic patient in the emergency department have congestive heart failure? JAMA.2005 Oct 19; 294(15): 1944-56

3.Holleman DR Jr, et al. Does the clinical examination predict airflow limitation? JAMA. 1995 Jan 25; 273(4): 313-9.

4.Rao G, et al. Does this patient have Parkinson disease? JAMA. 2003 Jan 15; 289(3): 347-53.

5.Udell JA, et al. Does this patient with liver disease have cirrhosis? JAMA. 2012 Feb 22; 307(8): 832-842.

6.藤田医科大学 医学部 歯科・口腔外科学講座 歯科部門OHAT http://dentistryfujita-hu.jp/content/files/OHAT%20160120.pdf

7.日本摂食嚥下リハビリテーション学会 医療検討委員会. 摂食嚥下障害の評価【簡易版】 2015. https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/assessment2015-announce.pdf

8.サルコペニア診療ガイドライン作成委員会,編.サルコペニア診療ガイドライン2017年版.ライフサイエンス社

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■著者略歴

森川暢(市立奈良病院)

2010年  兵庫医科大学卒業
2010年~ 住友病院にて初期研修
2012年~ 洛和会丸太町病院救急・総合診療科にて後期研修
2015年~ 東京城東病院総合診療科(当時・総合内科)、2016年からチーフを務める
2019年~ 市立奈良病院総合診療科

■専門
総合内科、誤嚥性肺炎、栄養学、高齢者医療、リハビリテーション、臨床推論

■著書
総合内科 ただいま診断中!-フレーム法で、もうコワくない-』(中外医学社)
監修:徳田安春/著:森川暢

■現在連載中
総合診療』(医学書院)指導医はスマホ!? 誰でも使えるIT-based Medicine 講座
J-COSMO』(中外医学社)総合内科まだまだ診断中!フレームワークで病歴聴取を極める


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