第9回 一歩進んだ入院指示
総合内科流 一歩上を行くための内科病棟診療の極意(9)
森川暢 市立奈良病院
第9回 一歩進んだ入院指示
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指示簿は入院時セットでオーダーして終わりになってはいませんか?入院時セットは確かに有効ですが、特に高齢者では潜在的に有害な指示がセットになっていることもあります。
また、指示簿は一度入れて終わりではなく、常に吟味する必要があります。看護師にとって医師指示は基本的に絶対的なものであり、医師が思っているよりも絶大な影響力があります。改めて医師指示について考えていきましょう。
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■症例(病棟の極意・実践前)
82歳の認知症、糖尿病のある要介護3の女性が尿路感染症で入院した。入院時、ショック状態であったため、床上安静で、モニター管理、尿道カテーテル挿入、血糖測定を行った。不眠時指示にブロチゾラムを使用した。発熱時指示としてジクロフェナクナトリウム坐剤を使用していたが、入院後腎機能が徐々に悪化していった。抗菌薬で感染症は徐々に改善したが、不眠の訴えが出現した。ブロチゾラムを使用したところ、その晩に興奮し不穏状態となった。不穏時指示のハロペリドールの点滴を使用したところ、不穏は改善した。その後、連日ハロペリドールの点滴を使用していたが、認知機能がさらに悪化し覚醒も不良になった。腎不全もさらに悪化し、予後不良であり、看取り目的で療養病院に転院になった。
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【極意】
① 発熱時
発熱時指示に皆さんは何を使っているのでしょうか?
基本的に筆者は、ロキソプロフェンなどのNSAIDsは発熱時指示に使用しません。特に高齢者では避けるべきです。理由は、発熱時指示にNSAIDsを使うべき根拠が乏しいことが一つです。アセトアミノフェンで基本的には十分です。もう一つは、頓服であっても高齢者ではNSAIDsの副作用が問題となるからです。具体的には胃十二指腸潰瘍、心不全、腎不全などです。筆者の感覚としては、高齢者にとってNSAIDsは「劇薬」です。整形外科領域などではよく使用されていますが、そのような意識で使用することが肝要になります。
もちろんアセトアミノフェンも肝障害が問題になりますが、頓服で使用する場合は基本的には安全です。
なお、高齢者で経口摂取が難しい場合にはアセトアミノフェンの座薬を使用します。アセトアミノフェンの座薬は小児で使用するイメージかもしれませんが、高齢者でも非常に有用です。
結論としては、発熱時指示にNSAIDsは、ルーチンで使用すべきではないと言えます。
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② 疼痛時
疼痛時指示はどうでしょうか? こちらも発熱時指示と同様に、高齢者ではアセトアミノフェンが優先されます。経口摂取が出来ない場合は発熱時同様に、座薬を選択します。
ただし、疼痛コントロールおよび抗炎症作用に関してはNSAIDsが優れています。これは、偽痛風でNSAIDsを使用したとたんに解熱し関節炎が改善するという臨床経過からも明らかです。そのことからもNSAIDsは出来るだけ短期間の使用に留めるべき「劇薬」と言えます。
実際、アセトアミノフェンで痛みのコントロールが出来ず、NSAIDsが必要になる症例はあります。よって、第2選択の鎮痛薬はNSAIDsになることが多いです。ただし、腎不全がある場合や心不全がある場合など、リスクがある場合はごく少量の投与に留めておいたほうが無難でしょう。
なお、メチロン®は点滴のNSAIDsですが、ショックなどの重篤な副作用があるため原則使用すべきではない薬です。経口投与が難しいならば、座薬のNSAIDsを使用すれば良いだけです。今でもルーチン指示に残っていることがありますが、その場合はルーチン指示の変更を考えるべきでしょう。
また、一歩進んだ疼痛時指示として、悪性腫瘍のターミナルなど痛みが悪化しうる状況で、すぐに痛みに対処しないといけない場合は、疼痛時指示が極めて重要になります。緩和ケアにおける鎮痛薬使用の原則である“by the ladder”に基づき、疼痛時指示を個別に作り込みます。
例えば、アセトアミノフェンの内服のみを使っている状況であれば、次の一手はNSAIDsの頓服になります。しかし、既にアセトアミノフェン、NSAIDs、さらにトラマール®(弱オピオイド)まで使用しているのであれば、次の一手は原則としてモルヒネなどの強オピオイドを使用するしかありません。まずは頓服であらかじめオプソ®などの短期間持続型の強オピオイドを処方して痛みに備える必要があります。
“by mouth”の原則に基づき、経口が可能であれば原則経口投与を行います。ただし終末期になると、経口投与が難しくなる場合も多いです。その場合は、あらかじめモルヒネなどの持続皮下点滴の指示を具体的に指示簿に残しておくことが大切です。そして看護師に「痛みが出たら躊躇なく使ってください」と申し添えておくことも重要です。常に、2手~3手先まで読んでおくことが重要になります。
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③ 不眠時
不眠時指示も極めて重要です。特に高齢者の不眠は原則として、軽度せん妄、もしくはせん妄の前段階と考えておく必要があります。よって、抗せん妄作用がある睡眠薬を睡眠時指示としておくことがリーズナブルです。
具体的にはラメルテオン、トラゾドンが挙げられます[1][2]。一方で、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、それ自体がせん妄を惹起するため、高齢者の不眠時指示として使用すべきではないと思われます。
例外的にベンゾジアゼピンを積極的に使用する状況としては、アルコール多飲歴があり、アルコール離脱のリスクが高い場合になります。とはいえ、基本的には不眠時指示としてベンゾジアゼピン系は避けるほうが無難と言えます。
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④ 不穏時
高齢者で認知症がある場合など、「せん妄リスク」が高い症例においては不穏時指示が必要になります。
具体的にはリスペリドンやハロペリドールなどの、せん妄の治療薬になります。せん妄を発症したときは病棟看護師の負担が極端に大きくなるため、これらの指示はやむを得ない側面があります。ただし、もともと認知症がない症例や若年者では、不穏時指示は使用しないほうが良いです。なぜなら、せん妄リスクが低い症例で不穏を起こす場合は、せん妄を起こしたと考えるよりも、何か重篤な疾患が発症したことで興奮していると考えるほうが自然だからです。リスペリドンなどを使用することで、重篤な疾患の診断が遅れるリスクが高くなります。
仮にせん妄であったとしても、不穏時のリスペリドンを使用する前に、看護師にバイタルが正常であることを確認してもらうことが理想的です。
また、QT延長がある症例で抗精神病薬、特にハロペリドールを使用する場合は、不整脈のリスクが高くなるため注意が必要です。ハロペリドールの点滴製剤はよく使用されますが、錐体外路症状が特に出やすいため、リスペリドンを使用しても改善しない症例に、やむなく使用するというスタンスが望ましいです。
なお、不穏時の頓服として使用する場合は、内用液製剤のリスペリドンが即効性もあり望ましいです。一方で、クエチアピンは不穏時頓服としては使いにくく、糖尿病では禁忌ですが、錐体外路症状が出にくいこと、睡眠薬としての効果もあることから定時使用が向いています。
いずれにせよ、不穏時指示を使ったということは、せん妄を発症したと捉えるべきであり、せん妄の原因検索と介入が必須になります。漫然と毎日、不穏時指示を使うという事態はご法度と考えてください。
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⑤ 安静度
入院時指示で最も抜けがちなのは安静度と言っても過言ではありません。
具体的には入院時に床上安静の指示が入ったまま、それが入院後も継続されることが散見されます。本当は看護師が離床をさせたくても、床上安静の指示があることで離床出来なくなります。
そもそも、入院時に絶対に床上安静ではないといけない病態は何でしょうか?急性期脳梗塞や急性心筋梗塞、重篤な心不全などの超急性期では、確かに床上安静が望ましいでしょう。しかし、それらの病態でも状態が安定した後は、むしろ離床を促さないと寝たきりになってしまいます。そして、肺炎や尿路感染などの通常の急性期疾患では、実は床上安静を行う意味は皆無であると言っても過言ではありません。
ただ、高熱が出ていて全身状態が悪い場合は離床が出来ないのではないかという意見は当然あります。確かにその通りなのですが、それくらい状態が悪ければ看護師もわざわざ離床させません。むしろ、経験的には床上安静が「入れっぱなし」になることによる廃用、寝たきり、せん妄のリスクのほうが高いです。
特にADLが低下した高齢者では、意識的に病棟で車椅子座位保持の時間を長くする必要があるため、あえて指示簿に「トイレを促してください」「車椅子座位を促してください」などの指示を入れておくことも有効です。
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⑥ 入浴
入浴も安静度と同様に入院時に「ベッド上清拭のみ」という指示がそのままになることがあります。シャワーを使えないことは患者さんにとっては非常に不快ですので、気を付ける必要があります。
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⑦ 血糖測定
糖尿病がある症例やステロイドを使用している症例などでは血糖測定を行います。ただ、こちらも入院時になんとなくオーダーした血糖測定指示がそのまま継続されることがあります。看護師の負担が増えるだけになることもあり、本当に血糖測定が必要かを常に吟味し続ける必要があります。特に頻回の血糖測定や夜間の血糖測定は、せん妄の発症リスクになり得ます。
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⑧ バイタルサイン・モニター管理
心不全、不整脈、脳梗塞、ショックバイタルなどではモニター管理が必要になり、バイタルサイン測定も頻回に行うことになります。ただし、モニター管理はそれ自体がせん妄のリスクになり、さらに離床の阻害要因となります。また頻回のバイタルサイン測定は看護師の負担になることも事実です。超急性期の不安定な時期では仕方ありませんが、状態が安定しても漫然とモニター管理や頻回なバイタルサイン測定をしていないかを吟味しておく必要があります。
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⑨ 尿量測定
心不全や腎不全、敗血症では正確な尿量測定が重要になります。その場合は尿道カテーテルも必要になります。ただし、こちらも漫然とオーダーすることは慎むべきです。
そもそも尿道カテーテルは、せん妄の誘因となります。認知症の高齢者でせん妄リスクが高い場合は、あえて尿道カテーテルを使用せずにオムツなどによる尿量測定を許容することがあります。尿量は正確ではないかもしれませんが、せん妄のリスクを優先すべき状況があります。
また当初は尿道カテーテルが必要であっても、安定したらすぐに尿道カテーテルを抜去する必要があります。これは、せん妄だけではなく尿道カテーテル関連の尿路感染予防においても重要です。尿量が本当に必要かどうかも常に吟味する必要があります。
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⑩ 体重測定
体重測定は、心不全の治療において極めて重要な治療効果判定の指標です。また低栄養の指標としても有用で、低栄養におけるモニタリング項目としても重要です。患者さんにとって副作用が少ないことは有用ですが、看護師の負担が増加することは事実です。体重測定もまた、その目的を明確にする必要があります。
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⑪ 便秘時
便秘時指示は基本的に頓用での使用になるので、センノシドやピコスルファートナトリウムなどの腸管刺激系の下剤が好まれます。
ただし、便秘時指示を使っている時点で便秘への対応が必要になります。離床や、酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤の定時使用を考慮します。
なお、グリセリン浣腸に関しては便秘時指示として、特に高齢者ではルーチンで使用すべきではありません。グリセリン浣腸は直腸穿孔のリスクが報告されており、実は危険な手技であると心得る必要があると筆者は考えます[3]。刺激系下剤の内服で難しい場合は、まずは浸透圧性下剤を追加しつつ、摘便やレシカルボンの座薬などの対応を優先します。それでも難しい場合、慎重にグリセリン浣腸を使用するほうが安全だと考えます。
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■ 極意 ■
●指示簿は常に吟味して、見直すべし
●せん妄を発症させない指示簿を作るべし
●潜在的に高齢者に害のある指示は避けるべし
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■症例(病棟の極意・実践後)
82歳の認知症、糖尿病のある要介護3の女性が尿路感染症で入院した。入院時、ショック状態であったため、床上安静で、モニター管理、尿道カテーテル挿入、血糖測定を行った。発熱時はアセトアミノフェン坐剤を用いた。その後、抗菌薬が著効し感染症は改善し、食事摂取も可能になった。腎不全の悪化も認めなかった。せん妄のリスクが高いと判断し、早期に病棟内フリーとして車椅子座位保持を促し、モニターおよび尿道カテーテルを抜去した。血糖も安定していたため血糖測定もいったん朝のみに変更した。不眠の訴えがあったので、不眠時にトラゾドンを使用した。トラゾドン使用後も軽度の興奮を認めたため、リスペリドン頓服を使用したところ熟睡した。リハビリでさらに離床を促し、短期間だけ定時内服としてクエチアピンを追加したところ、せん妄は認めなくなった。その後、経過良好であったがADL低下が著しかったため、自宅復帰のためのリハビリおよびサービス調整目的で、地域包括ケア病棟に転院となった。
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【参考文献】
Hatta K, et al. Preventive effects of ramelteon on delirium: a randomized placebo-controlled trial. JAMA Psychiatry. 2014 Apr; 71(4): 397-403.
Winkelman JW. CLINICAL PRACTICE. Insomnia Disorder. N Engl J Med. 2015 Oct 8; 373(15): 1437-1444.
大川 尚臣, 他. 保存的に軽快したグリセリン浣腸による直腸穿孔の2例. 日本臨床外科学会雑誌. 2017; 78(5): 1041-1049.
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■著者略歴
森川暢(市立奈良病院)
2010年 兵庫医科大学卒業
2010年~ 住友病院にて初期研修
2012年~ 洛和会丸太町病院救急・総合診療科にて後期研修
2015年~ 東京城東病院総合診療科(当時・総合内科)、2016年からチーフを務める
2019年~ 市立奈良病院総合診療科
■専門
総合内科、誤嚥性肺炎、栄養学、高齢者医療、リハビリテーション、臨床推論
■著書
『総合内科 ただいま診断中!-フレーム法で、もうコワくない-』(中外医学社)
監修:徳田安春/著:森川暢
■現在連載中
『J-COSMO』(中外医学社)総合内科まだまだ診断中!フレームワークで病歴聴取を極める