編集後記『証スクリプトで学ぶ こどものための漢方メソッド』
医学領域専門書出版社の金芳堂です。
このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。
どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。
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■書誌情報
論理と実践の往復で漢方がわかる
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■編集後記
どうも。「麻婆豆腐はカレー」派のAです。何を言っているんだ?と思う方、ググりましょう。「麻婆豆腐はカレー」派が名だたるスパイス料理研究家を巻き込んで跳梁しているインターネットを発見すること間違いないです。
さて、大体カレー粉こと漢方薬の書籍を金芳堂はいくつか出版していますが、今春発売した髙村光幸先生著『証スクリプトで学ぶ こどものための漢方メソッド』を紹介します。
この本、まずは処方マニュアルなんですね(5章)。漢方薬がよく効く疾患、併用するといいような疾患がなにか、どう使えばいいか、非常にわかりやすく紹介しています。ですので「あ、この子の具合の悪さは柴胡桂枝湯、抑肝散加陳皮半夏」だ、みたいにすぐにわかります。
この手軽さ、明瞭さこそ日本漢方の方証相対(症候即処方みたいな考え方)です。こういうマニュアル的な使い方、当然できます。しかも通読することで、「あー、この症状のときには~」と索引や目次から探さなくても直感が働くようになります。なぜなら症例検討するためとは違う、疾患スクリプト「証スクリプト」が5章には付記されているからです。高村先生が古典を調べたり、中医学の弁証論知(症候から病理を推測して、適切な介入をはかる処方を選ぶ)で導いた処方ですが、方証相対ができるような口訣が存在しないものでも、処方の根拠となった症候が簡潔に記載されているので、同様なケースに出会ったときに「あれだ!」というゲシュタルトが形成されちゃうんですね。
そういう意味では、手に取った人が最初にみるべき章は5章です。使えそう、と思った先生はレジに行きましょう。
でもそれだけではありません。漢方を使えるようになるってことは応用できるってことじゃないですか。そこで東洋医学のロジック(3章)と中医学における方剤の分類(4章)です。
この2つの章で、漢方医がどのように治療しようとしているのか、という診療の流れが見えてくるはずです。
よくある漢方の専門書での分類だと、桂皮とか柴胡といった中核的な生薬で分類しますが、本書では組み合わせがどういう狙いなのか、処方そのものの狙いを書いているので、狙いは同じだけども組み合わせが少し違う処方との違いも見えてきます。つまり応用に至りやすい。
ぜひ本書を読み、漢方のある小児診療を始めてみてください。
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■序文
食わず嫌いという言葉があるが、一度食べたら大好物になる珍味というものも、この世には存在する。医者にとって漢方とは、そのようなものだと思う。聞きかじりはしていても、患者の治療に自信を持って使ったことのない漢方。そんな漢方の本当の魅力を私が知ったのは、自身のアレルギー性鼻炎に対して小青竜湯を服用した、わずか十数分後のことだった。口呼吸を強いられるほどのひどい鼻閉に苦しむ我が両鼻腔が、あっという間に数倍に拡がって、心地よい鼻呼吸ができるようになった時のあの感動は、今も忘れない。
私が関わる患者すべてにこの感動を提供できたなら、どんなに医者冥利に尽きることか。
やがて、私は漢方を専門(好物)とする医師になっていた。
大学医学科において漢方を学ぶ機会は、私が学生の頃に比べて格段に増えた。しかし、現代医学の教育ほどに十分学習できる体制が提供されているとは言えない。また、漢方の魅力を知り始めた中堅医師の多くも、日々の多忙さに煩わされて、漢方を深く学ぶ幸運に恵まれることは少ない。ましてや、小児科医が漢方を実践するには、まず患者よりも患者家族の抵抗に遭うことも少なくない。しかし、漢方が小児医療、ひいては小児の生活の質を高めるものと私は信じている。医者はみんな、お節介だ。患者によかれと思って診療を続けている。西洋医学が現代日本医療の標準ではあるが、患者が真の満足を得られるなら、手段に西洋も東洋もない。本書は、日々の西洋医学的臨床実践を、さらに強化する目的で漢方を使おうとする医師にとって必要な知識を伝えることを目標にしている。
心優しき、お節介小児科医たちが、子どもたちの苦痛を取り去るために漢方を使うことを手助けする本である。初学者向けの小児漢方入門書として執筆の機会を頂いたが、私は本書をあんちょこ本にはしたくなかった。なぜなら漢方医学は、長い歴史を持つ歴とした伝統医学なのである。学習し、実践するための知識と経験を得るには、相応の苦労が要る。でもその苦労が実を結んで、いつか誰かのためになるのなら、多少の努力は許容されよう。不肖著者の実力では、漢方医学の魅力をすべて網羅できたとは到底言えないが、自身への自彊不息の念も込めて、僭越ながら本書を世に上梓する。
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■目次
まえがき
Chapter1 小児科と漢方
Chapter2 基礎概念概説 気血津液(水)と病邪について
Chapter3 証・五臓・六腑
Chapter4 中医学の分類で学ぶ方剤学論
Chapter5 疾患タイプ別処方
Chapter6 漢方の好ましくない反応
コラム 知っておきたい漢方の歴史
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■サンプルページ
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■終わりに
今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。
是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。
それでは、次回の更新をお楽しみに!
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