編集後記『サッとわかる! 栄養療法のトリセツ』
医学領域専門書出版社の金芳堂です。
このマガジンでは、新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介し、その本のサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしていきたいと考えております。
どの本も、著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。
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■書誌情報
『サッとわかる! 栄養療法のトリセツ』
編著:吉村芳弘(熊本リハビリテーション病院 リハビリテーション科 副部長)/著:熊本リハビリテーション病院栄養サポートチーム
A5判・216頁 | 定価:3,520円(本体3,200円+税)
ISBN:978-4-7653-1878-5
取次店搬入日:2021年10月01日(金)
臨床現場で必要な「栄養」のすべてがわかる1冊
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■編集後記
こんにちは。ヒッヒッと鳴く渡来直後のジョウビタキが気になり始めた編集部のFです。
「栄養管理ができていない医師は主治医になる資格はない」
これは本書の編著者である吉村先生が、外科のレジデント時代に、実際にNST(栄養サポートチーム)のチェアマンから掛けられた言葉だそうです(詳しくは「序文」をご覧ください)。
「栄養管理の視点をもって業務に取り組むことの重要性」という観点から見れば、これは医師に限らず、今日すべての医療従事者に当てはまる言葉といえるかもしれません。
「栄養療法は医療の土台です」
実際、研修医として入院患者の食事のオーダーを前にして初めて「栄養療法」を意識するという方もいるでしょうし、編著者のエピソードのように不幸にして患者さんが低栄養に陥って初めて「栄養管理・栄養療法」の重要性を理解するということもあると思います。
超高齢社会においてはフレイル・サルコペニア等の概念も浸透してきて、栄養療法を意識した診療とケアを行える医師および医療従事者も多くなってきているとは思いますが、たとえその重要性がわかっていたとしても「実際にどういう点に気をつけたら良いのかわからない」といった方も多いのではないでしょうか?
また、栄養療法に関する情報が多くなってきている分、常に忙しく時間に追われている医療従事者にとって「これだけは覚えておくべき・押さえておくべき」本当に大切なポイントがサッとわかって、いざというときサッと参照できる、簡便かつ網羅的なハンドブックこそ必要となってくるはずです。
本書は「トリセツ」という名前のとおり、臨床現場で栄養療法を実践するために必要な基本事項についてスッキリまとめつつ、よくある疑問や病態・症例への対応方法(現場でぶち当たる低栄養の問題とその攻略法)についても収載した、すべての医療従事者を対象としたテキスト兼リファレンスです。
執筆陣は「熊本リハビリテーション病院 栄養サポートチーム」のメンバーであり、医師である吉村先生のほか「管理栄養士・看護師・歯科医師・歯科衛生士・理学療法士・言語聴覚士・薬剤師・臨床検査技師」といった各専門職の視点で書かれた実践的な知識と対処法が盛り込まれています。
これから栄養療法を学ぼうという方はもちろん、学び初めて間もない方、キホンを改めて押さえておきたいという方、とにかく栄養療法で1冊持っておきたいという方、本書はそうしたすべての方に開かれた「栄養療法・臨床栄養・低栄養の予防と対策に役立つ実践的入門書」としてオススメします。
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■序文
「主治医は誰だ!?」
私が外科のレジデントだった頃に、胃がんの胃全摘術のKさんを担当したときのことです。手術は無事に終了し、術後補助化学療法を行い、転移や再発などがないかを経過観察するために外来フォローしていました。手術から2年ほど何事もなく経過したある日、Kさんは若い娘さんが押す車椅子で私の外来にあらわれました。娘さんいわく、「先生、お父さん栄養失調じゃないですか?家ではほとんど寝ています。というか、どうやらうまく動けないんです」。娘さんの鬼の形相に私は言葉を失いました。急いでKさんに体重計に乗ってもらうと、目盛りは42kgを示していました。BMIで14.9kg/m2の重度の低体重です。カルテを確認すると2年前の術前体重は70kg超でした。Kさんに正面から向き合うと、手足はやせ細り、頬はげっそりとこけていました。
私は一生懸命に胃がんの診療を行っていたつもりでした。しかし、私が外来でKさんを通して診ていたのは「胃がん」であり、患者さんとしての「Kさん」ではなかったのです。
この症例はすぐに外科のカンファレンスで提示され、NSTチェアマンであった外科部長から胃がん術後の栄養管理について厳しい指導を受けました。「主治医は誰だ?栄養管理ができない医師は主治医になる資格はない」とはっきり言われたのを今でも鮮明に覚えています。
栄養療法は医療の土台です。万病に効く薬はありませんが、栄養療法は万病に効く可能性があります。本書はKさんのような不幸な転機を迎える患者さんを一人でも救いたいという切実な願いから企画したものです。臨床栄養や病態別の栄養管理を専門的に解説する書籍は多いですが、本書のように「臨床でよく遭遇する疑問や病態、症例」に焦点を当てた書籍は多くありません。また、初学者から上級者のすべての医療従事者を対象にした、いつでもすぐに参照できる、そして、そもそもどんな患者に栄養療法が必要かを明確に示した点は他書にはないものだと思います。私自身、「こんな書籍がほしかった」という思いをそのまま具現化できたと嬉しく思っています。
本書の読者対象は臨床栄養に従事している、あるいはこれから従事するすべての医療従事者を念頭に置きました。各専門領域の最前線で活躍している仲間に疾患別やセッティング別に低栄養の病態の基礎をできるだけわかりやすく解説してもらいました。まさに「サッとわかる!」栄養療法の解説書です。一部のコラムなどには上級者向けの記述もありますが、繰り返し読むことで十分に理解が深まると思います。病態の理解なくして本質的な栄養療法はありえません。
どうか臨床現場における低栄養の予防と対策に本書が少しでも貢献できたら、と執筆者一同心より願っています。
2021年8月吉日
吉村芳弘
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■目次
Chapter0 はじめに
0-1 どうして栄養管理が必要なのか:栄養は医療の屋台骨
0-2 適切な「食事のオーダー」出せますか?:すべての治療のベースは食事
Chapter1 栄養管理のキホン
1-1 エネルギー代謝:代謝を知らないと栄養管理は始まらない
1-2 3大栄養素:あなたのカラダは食べたものでできている
1-3 運動と代謝:ニートは肥満と関連する!?
1-4 疾患と代謝:どうして病気をするとやせるのか
1-5 加齢と代謝:年を取れば代謝が落ちる?
Chapter2 栄養ケアの基本
2-1 栄養スクリーニング:アルブミンを過信しない!
2-2 栄養アセスメント(特にGLIM基準):世界基準の栄養診断とは
2-3 栄養プランニング:栄養管理はオーダーメイドで
2-4 栄養モニタリング・評価:多角的なモニタリングで患者や多職種と信頼関係を
2-5 栄養評価に必要な臨床検査:データを駆使して栄養管理に強くなろう
Chapter3 栄養アクセスのキホン
3-1 栄養アクセスの選択:使えるルートは3 つだけ
3-2 経腸栄養:腸が動いていれば積極的に腸を使おう
3-3 静脈栄養:病態に応じて配合調整できるスグレモノ
3-4 複数の栄養アクセス併用:栄養の選択肢は多い方がいい
Chapter4 栄養療法の進め方
4-1 脳卒中:栄養療法が予後を改善する
4-2 整形外科疾患:栄養障害は転倒、骨折を引き起こす
4-3 消化器疾患:病態や消化機能に応じた栄養療法の選択を
4-4 肝疾患(特に肝硬変):肝臓は栄養代謝の要
4-5 心疾患(特に心不全 ):心負荷の軽減を目指す栄養療法
4-6 呼吸器疾患(特にCOPD):体重減少を制御するためには
4-7 腎疾患:栄養療法が予後を改善する
4-8 糖尿病:カロリー制限は時代遅れ!糖尿病は個別化対応の時代へ
4-9 周術期(特に消化管手術):感染症予防と回復促進のための栄養管理
4-10 サルコペニア:筋肉は新しい栄養指標
4-11 摂食嚥下障害:食べられないことは負の低栄養スパイラルの主要因
4-12 褥創・熱傷:微量元素の管理が創傷治癒を左右する
4-13 認知機能障害、食欲低下と摂食障害(高齢者、がん):元気なうちからACPを
Chapter5 栄養サポート-多職種での関わり方-
5-1 栄養サポートチーム(NST):栄養管理は医療の基盤、NSTは病院の柱
5-2 医科歯科連携:口腔から医療レベルがみえる
5-3 薬剤管理とポリファーマシー:ポリファーマシーはフレイルのリスク
5-4 チームビルディング(多職種との協働):チームの質は医療の質、患者アウトカムに直結する
5-5 栄養管理のなぜ? を臨床研究へ
コラム
01 身長や体重が計測できない場合はどうしますか?
02 医学部で臨床栄養の講義はないのですか?
03 「代謝がいい」「代謝がわるい」とはどういう意味ですか?
04 微量栄養素ってなんですか?
05 ダイエットに筋トレは効果がありますか?
06 疾患の「重症度」はどのように判断しますか?
07 老化の原因は何ですか?
08 地域で栄養スクリーニングするにはどうしたらいいですか?
09 四肢切断の患者の必要エネルギー量はどのように見積もりますか?
10 筋肉量を正確に測る方法にはどのようなものがありますか?
11 アルブミンは栄養指標ではないのですか?
12 経腸栄養ポンプはどのような患者に用いますか?
13 経腸栄養時の下痢がひどいです。どうしたらよいですか?
14 静脈栄養の脂肪乳剤は、毎日投与する必要がありますか?
15 末梢静脈栄養のエネルギー投与量を増やすためにはどうしたらいいですか?
16 脳卒中関連サルコペニアとは何ですか?
17 整形外科の手術部位による食事の提供の工夫はありますか?
18 胃切除術後に体重減少が進むのはどうしてですか?
19 肝硬変患者にはどのようなLESがおすすめですか?
20 心不全治療における体重増加は望ましくないことですか?
21 気管挿管中の経口摂取は禁忌ですか?
22 サルコペニアの慢性腎臓病患者に対するたんぱく質制限はどうしたらよいですか?
23 サルコペニアの糖尿病患者に対するエネルギー制限はどう考えたら良いですか?
24 周術期の静脈栄養で高血糖に困っています。どう対処したらいいですか?
25 メタボからフレイルのギアチェンジってなんですか?
26 増粘剤(とろみ剤)を用いる際の工夫はありますか?
27 完全側臥位法とはなんですか?褥瘡術後の除圧目的でも有効ですか?
28 認知症で経口摂取を拒否される患者に対してどのような対応が望ましいでしょうか?
30 担当医がNSTに非協力的です。どうしたらよいですか?
29 がん患者では栄養は控えた方がいいといわれました。本当でしょうか?
31 当院に歯科がありません。どうしたらよいですか?
32 血液サラサラの薬を飲んでいます」と言われました。食事で注意することは?
33 病棟での他職種との連携のコツを教えてください。
34 もっと積極的に栄養の勉強をしたいです。どのような方法がありますか。
付録:栄養管理に役立つリファレンス
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■サンプルページ
本書のプロローグである「Chapter 0:はじめに」の1頁目です。まずは、この「はじめに」だけでも読んでみてください。読んでみて「むむっ!これは!」と思った方は本書との相性◎。これからの医療者人生に「栄養」という確かな視座・土台を作ることのできるチャンスです。
「はじめに」の全文は弊社ホームページから「立ち読みする」で閲覧可能です。
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よくある疑問に対しては「コラム」で取り上げて回答・解説しています。
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トリセツとして必要な図表も豊富に掲載しています。
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さらに臨床栄養・栄養療法について詳しく知りたい方・学びたい方のために、巻末付録として「参考図書」「関連学会」「ウェブサイト」「学術論文」なども紹介しています。
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■終わりに
今回の「編集後記」、いかがでしたでしょうか。このマガジンでは、金芳堂から発売されている新刊・好評書を中心に、弊社編集担当が本の概要と見どころ、裏話をご紹介していきます。
是非ともマガジンをフォローいただき、少しでも医学書を身近に感じていただければ嬉しいです。
それでは、次回の更新をお楽しみに!
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