父さんの来世は、ネコのヒゲ。
お父さんは、死んだら、ネコのヒゲとマグロの尻尾になることにしました。
死んだらどうなるの?と幼いころの娘に聞かれ、すぐに答えることが出来ず、ちょっと考えてみるね、と時間をもらいました。
死んだら天国に行く、悪いことをした人は地獄という怖いところにいく。そんな答えでは、幼いころの自分でもしっくり来ないはず。
死んだらどうなるのだろうか。
ある日、夕食のアジの塩焼きを見て、ふと死んでいるこの「アジ」はこのあと「私」になるんだよなあ、と思いました。私の体の中で消化されて、私となる。この大根も、米も、死んで、私になる。
では、私はどうだろう。私は死んだら何になるのだろう。脳梗塞で死んだ父は何になったのだろう。
アジのように食べられたのなら、食べたそのものになるのは分かる。
では、食べられずに焼かれるとどうなる?
骨になる。
骨、以外は? 骨以外は、何になるのか?
水蒸気になって空に上る。
エネルギーになって釜を暖め、そして、周りの空気を暖める。
空に上った、水蒸気は、風に乗り、やがて一部は雨となり地に落ち、時には何かの生命の一部となる。
骨壷に収まった骨も、長い長い時間をかけて、やがて土に帰り、こちらも時には微生物に食べられる。
世界に薄まり、やがて世界になっていく父。それは穏やかで暖かなイメージでした。
翌日、娘に「パパも君も、死んだら全部になるんだよ」と答えました。イメージした世界に溶け込んでいくさまを、ゆっくりと説明したところ、なんとなくは分かってもらえたようです。
ハタチを超えた今なら、より理解してもらえているでしょうか。
ー死んだら全部になる。
お父さんは少し欲が出て、死んだら、ネコのヒゲとマグロの尻尾になることにしました。
風に揺れ、波を撫で、世界を楽しむ予定です。
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