人生初の山下達郎は新宿・歌舞伎町で〜Specialアコースティックライブレポート
1月18日、真冬の夜。歌舞伎町を汗だくで駆けぬけたのは、当方30代の女。コワイ人に脅されたのでも、終電が近いわけでもなかった。生まれて初めて聞いたナマの山下達郎にすっかり”あてられ”、興奮と衝動を抑えきれなかったのだ。
確率55倍という狭き関門をくぐり抜け、やっと手にした「山下達郎 Special Acoustic Live 2019」のチケット。年明けから縁起良し。新宿ロフトの小さなスクリーンにシュガーベイブ時代の映像が流れ、山下達郎と”長年の相棒”難波弘之(Key)、伊藤広規(Ba)が舞台に登場。
割れんばかりの拍手の中「ターナーの汽罐車」が始まると思わず息を飲んでしまった。ずっと聞いてみたかった声がリアルに鼓膜を突き抜ける快感。続く「甘く危険な香り」「夏への扉」も幼い頃から父のカーステレオを通じて馴染み深いはずの曲なのに、ソレとは別物といっても過言ではなかった。
「あれ?なんだか今日はみんなカタいんじゃない?緊張してる?」
当然である。200人強しか入らないライブハウス、目と鼻の先で山下達郎が歌っているのだ。初見の私はもちろん、古くからのファンだって”歌の仙人”から発せられる波動に身動きが取れなくなるのは当然だろうと思う。
1曲1曲が夢か幻みたいな時間の中、実は一番嬉しく心躍ったのは「DOWN TOWN」が始まった瞬間だったりする。信じられるだろうか、この洒落たポップな音楽が40年前のここ日本で生まれたことを。本人がMCで「ロックやポップスが発展していく過渡期に僕らが出て来た」と語っていたが、まさにJ-POPの土台を作る歴史に触れた気になる。
そんな中で、まだ17歳だという会場のファンに山下達郎がこう反応した。「戦後すぐ生まれた僕らには年配の歌手なんてほぼ皆無。戦争は文化を断絶してしまうから。17歳が66歳になる僕のライブに来たというのは、この数十年間が平和だった証拠だね」豊かな時代の音楽先進国に生まれた幸福に、思わず心で手を合わせる。
後半、ラジカセをお供にカラオケ&アカペラというライブハウスならではの”お遊び”も。KinKi Kidsに提供した「硝子の少年」では「僕の曲より盛り上がってない?」と不服そうに笑うほどの大歓声。さらにはマイクなしでのアカペラはいい意味”鳥肌”の一言。
そして終盤は鉄板の「RIDE ON TIME」「いつか」「クリスマス・イブ」とキタコレ!のオンパレード。アンコールの最後は再び生声アカペラ「Your Eyes」で幻のような2時間半が終了。チケット当選の瞬間より、終演後に「本当にラッキーだったのだ」と分かる貴重なライブであった。