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機能不全おじさんジャーナル

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おじさんのフィールドワークの記録と事件簿
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2023年12月の記事一覧

やっさんとの思い出

 高校を卒業して18歳で社会に出た。両親の教育方針もあり、そのまま家も追い出され一人で生きていかなければならなくなった。
 高校在学中にバイトもしていたのでその延長線であろう、とたかをくくっていたが想像していたよりも社会は子供じみていて気が抜けると同時に、どうしようもない袋小路に追い込まれた気になった。

 就職して私が配属されたのは営業課であった。営業とはいうものの主な業務は生産管理で一般的に思

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女子更衣室に飛び込もうとした男

「ドラえも~ん!!なにか道具だしてぇええええええ!」
 工場内に甲高い声が響きわたる。誰もその声に特に反応はしない。皆慣れているのだ。
 声の主は拓ちゃん(34)である。
 
 彼は自閉症スペクトラム障害をもっているものの、社長ならびに事務員が雇用時に手続きを面倒くさがって後回しにしていた結果、障害者雇用ではなく一般雇用されている。
 当初、正社員として働いていたがある事件を境にパート雇用へと変わ

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弟さん、拉致ってます。というDMがきた

 朝、目を覚ましてまずスマートフォンの通知を確認する。21時半には眠りにつくので寝る前に返したメッセージアプリの通知なんかがそこそこ溜まっている。続けてSNSを開いて大体夜のうちに更新されている保護猫ちゃんのアカウントを見て癒やされる。
 もし叶うのならばこういう心があたたまる美しいものだけを見て生きていたい。
 
 通知の中に「たこやきさんがあなたをフォローしました」という私の通知画面にはあまり

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ハイネケンおじさんの憂鬱

 ある休日、ダイナーですこし早めの昼食をとっていると隣のカウンターに一人の男が座った。
「ハイケネン一つとぉ!フィッシュ・アンド・チップスくださいっ!」
 彼の声が店内に響く。 店内には私と彼の二人がカウンターに座りテーブル席に一組、昼のピークの前で比較的静かであったが彼の声によりまた別の種類の静寂が店内に訪れた。
 店内に響いた声はお笑い芸人や学生時代のお調子者がするようなそれではなく、かっぴら

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