隣の住人
マンションの隣に住む住人が夜の8時半にチャイムを鳴らしてきた。
「ちょっと話があるんですけど」
努めて無愛想に返す。
「なんですか」
この隣の住人は、長年マンションの大規模修繕工事などで理事会と激しく対立してきた人で、一部の住人とは名誉毀損などで裁判沙汰になりかけているらしい。
彼は80歳の老人で、日常ほとんど笑顔を見せない。
隣の住人と揉めたい人なんていない。ずっと住む家だ、なるべくなら仲良くやりたい。なので変な噂は聞きつつも、これまでははそれなりに平和にやっていた。
だが、
マンションの理事会に選ばれてしまった。
彼と敵対する勢力の中に放り込まれてしまった。
理事会の間の2年間はありとあらゆる工夫を凝らして、隣の住人と顔を合わさないようにしてきた。
僕は揉め事と炊き込みご飯が大嫌いなのだ。
伊賀忍者もびっくりの隠れ身の術で日常を過ごし、1年以上彼と顔合わすことなく過ごしてきた。
それなのにピンポンである。鳴らすなよと。
伊賀忍者の家に訪ねてくるんじゃないよ。
マキビシまくぞ。
玄関を開けると、隣の住人は硬い表情で睨んでいる。
「あなたに話があるんです」
僕は警戒しながら答える。
「どうされたんですか。こんな時間に」
隣の住人は硬い表情を崩さずに言う。
「声に関してのことです」
声に関してのこと?
もしかして!!!
風呂場で歌ってるスワロウテイルバタフライあいのうたの歌の練習に対してのクレーム?
恥ずいんですけど!!
妻からも何度もうるさすぎると注意を受けていたけど、気持ちよく歌っていた。
CHARAて。
40すぎのゴリラみたいな男がCHARA歌って怒られるって!
もっと男らしい歌にしとけばよかった!!!
と思ったら。
ぜんぜん話は違くて。
隣の住人の奥さんが認知症で、夜中に奇声を上げたりするようになったので、迷惑をかけるかもしれない、という挨拶であった。
その後風呂に入って
赤いスイトピー歌いました。