またかよ入院日記 4 ~控訴審で逆転敗訴~
前の回はこちらです。
さて、この手術は年末でした。クリスマス前に退院でき、正月もまったり過ごした後、正月明けにランランランと術後の診察に出かけることになりました。
入院中に点滴が取れた時点でシャワーは浴びて良かったんですが、森野は風呂とか温泉が大好きなんです。どっぷり肩まで浸からないと肩こりが治らない。いつから風呂に入っていいかとかちゃんと聞いてこなくてはね。
いつもの診察室に呼ばれると、いつもの米倉涼子(仮)医師がこちらを見ました。ええと、お顔全体を見ると多分似てはいないんだけど、マスクから出てる目だけ見ると「わたし失敗しませんから」って感じがするんですよね。
「森野さん、実は……病理検査の結果、境界悪性が出ちゃったんですよ」
はい?
「腫瘍って良性と、悪性があって、その中間が境界悪性」
涼子(仮)医師、紙にサラサラと書いて説明を始めます。
「悪性って言うのはガンのことです。良性はそうじゃない。境界悪性ってその中間なんです」
「はあ」
「でね、申し訳ないけど開腹で再手術させてください。子宮と、大網っていうお腹にぺろーんと下がっている膜を取ります」
いま 開腹 で 再手術 って言った?
再手術? もう一回やるの?
開腹? 腹切るの??
うぎゃあああああ
「ほんのちょっとなんですけどね。腹腔鏡手術のあと、お腹をジャブジャブ洗ってその洗い水まで検査して、そちらもなんともないんだけど、境界悪性が出ちゃうと(子宮)全摘、大網切除がスタンダードな治療なんです」
おおお、あの手術の時、腹ん中洗ったんかい。(そういうものらしい)
そりゃ米倉涼子(仮)先生を全面信頼してますから嫌とはいいませんよ。
しかしねえ、もう一度入院して腹を切るの?
マジで?
「おへその下を縦に」
縦切りかい!
お腹を切る手術では縦に切る場合と横に切る場合があり、横の方が傷は目立たないけど、縦の方が手術時の視野は良い(つまりは手術ミスの可能性がより少ない?)とのこと。
森野の場合、年齢も年齢だし腹腔鏡手術は2回もうけているし、前回もいろいろ癒着があって大変だったらしく、それで縦切りってことなんですね。
「あと、前回もあれこれ癒着してて危険だったので、今度は尿管ステントを入れて手術に臨みます。位置がわからないと傷つけてしまって大変になるので。で、術後に血尿が出ますけど直りますから」
けつにょう!
えーんお母さんわたしどうなっちゃうのと草葉の陰にいる母に心で問いかけてみたりしました。もちろん返事はありません。
しょうがないじゃないの、四の五の言わずに手術してきなさい、
と母なら言いますな。そういう人だったです。ドライで感傷的になったのを見たことがない。常に理性の人で。聞かなくても丸わかりだ。
涼子(仮)医師の言うとおり、境界悪性が出たら全部取る、というのがガイドラインのようです。ここでちゃんと調べたよ。そう書いてありますな。
境界悪性というのは「放っておくとガンになるかもしれない奴」かと思っていたのですが、違っていました。
ガンというのは浸潤と言ってどんどん周りに広がっていくものなのですが、境界悪性の場合は
「細胞の中に悪い顔(ガンみたい)をしたやつがいる」
「でも広がってない」
「だからガンとは言えない」
もののようです。そうかい。外から見ても(MRI)、中から見ても(血液で見る腫瘍マーカー)シロだったのにね。切ってみたら悪い顔の奴がいたのね。
腹腔鏡手術と言われたとき、「全面勝訴!」って喜んだのですが、これはまるで控訴審に行ったら逆転敗訴したようでした。
診察後はすぐ職場に戻る予定だったんですが、あまりのショックにそのまま街へ出て、ふらふらと三越のティールームに飛び込みました。
「ケーキセットください」
とりあえずの動揺を甘い物でなんとかしようとする森野。
落ち着け自分、余命三ヶ月と宣言されたわけじゃない(多分、余命宣告なんかない)。いま動転しているのは 開腹手術がイヤ っていうそこのところ。
しかしどうせ臓器をいろいろ取っちゃうんなら、腹腔鏡抜きにして最初から一発で全部とれれば良かったのに。そうしたら手術は一回で済んだのに。
ああああ、全面勝訴とか言って喜んでた過去の自分が悲しいです。
だけど卵巣嚢腫というのは外から見えないし検査でもハッキリはわからないので、切ってみて、病理検査してみないと本当にどうかはわからないのですよね。
それも理性では十分理解しています。
ただ単に 開腹手術がイヤ なのだよね。痛そうだし面倒だしまた入院しなきゃならないのがイヤなのよね。
だからケーキ食べてちょっと落ち着こう自分。
まあ、周囲に広がった上にあちこち転移したわけではない(らしい)ので、早く見つかって不幸中の幸いだと思いましょう。
再手術は2ヶ月後になりました。直近も開いた日があるよって勧められたのですが心の準備ができなくて。それまでせいぜい身体を鍛えることにいたします。
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