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検査入院したらそこそこ面白かった話
2019年にnote掲載した「入院日記 インターミッション」を、2024年の創作大賞に応募するためリライトしました。
大腸検査で検査入院した記録です。シモ系の話もちょっと出ますので苦手な方はご注意下さい。
コロナよりかなり前のこと、胆石が詰まり救急車で入院しました。
その後、少し間を置いて胆嚢を摘出することになり、どうせならその前にと大腸検査をしておくことになりました。消化器系統、総ざらえです。まあ何でも初めては面白い体験なのですが、あなたは大腸検査したことがありますか。どうでしたか。
病院に行くまで
大腸も内視鏡で診ます。しかし胃の検査と違って前夜からの絶食程度で腸は空になりません。絶食した後、下剤を服用し、さらに腸の中をきれいに洗い流すための薬を飲まねばならないのです。わたしに課せられたのはニフレックという名の2リットルの液体でした。
これが苦行!
最初にその量を見ただけでうぇ~~~と思いました。でも病院の予約をしちゃってるし、もう後には引けないです。
検査の予約は朝10時。自宅で2リットル飲みきってトイレにも入ってから病院に移動しなければなりません。がんばって5時起きし、そこから「2時間で2リットル」を始めました。
飲んでみたら、腸だけに超まずい~~~~!
いや、親父ギャグを言っている場合ではありません。これは本当に完遂できるのか……というレベルのまずさです。しょっぱ苦い変な味のポカリスエットを、これでもかこれでもかと飲み下す感じ。
うぇ~~~~
うぇ~~うぇ~~と呻いていて、ふと、記憶に引っかかるものがありました。
そういえば高校の時、学校祭で劇をやりました。確か3年の時。といっても自分は出ないで周りをうろうろしていただけですけど。
演目は安部公房の「どれい狩り」。その中に「ウェー」という、なんだろう、新種の動物?という触れ込みの生き物(実はただの人間)が出てきたのです。
ああ、音が一致している、いまの気持ちと。
ていうか音しか一致してない。
ごくごくごく。うぇ~~~~超まずい。
あのときキャストだった友人は元気かなあ?
きっと元気に違いない、彼女なら。ネット上では連絡取れてないけど同窓会の時は元気だったし。
さあもうひと息、ごくごく。うぇ~~~~
こんなところで思い出してごめんね。
ごくごく、うぇ~~~~
最初の1リットルで胃がパンパンにふくれあがり、これ以上は1滴も飲めなくなりました。あまりに苦しく気持ち悪いので少し休みます。休まないと飲めないのです。
しばらくしてトイレに入れる気がしたので、今だ、それいけ!と駆け込みました。
ふぅ
というわけで多少スッキリ。
ほ~~っ、と思わず安堵のため息が出ました。胃もへこんで楽です。胃まで液体で圧迫されていたのが少し解消、そんな感じです。
さあそこから第2ラウンド。
再度、うぇ~~~と言いながらちびちび飲み続けて、ついに完食、じゃない完飲しました。めでたしめでたし。何度かトイレも往復。
後半はしんどくてちびちび小分けにして飲んでいたのですが、そうじゃなくてやはり後半も一気にガーッと飲んだ方が腸にたくさんの水分が一度に流れ、よりきれいに腸が洗い流されるようにも思いました。不幸にして次回も検査することになったら今度はそうした方がいいのかな。でも正直、胃がパンクしそうで気持ち悪く、一気に飲める気がしません。
まあいいや。その時になったら考えよう。
病院に着いてから
そんなこんなでドタバタした後、予約の10時前に病院にたどりつきました。車で移動する間にトイレに行きたくなったらどうしようと結構悩んでいたのですが、出きってしまったのか全然大丈夫でした。いよいよ検査です。
前回、入院中に「胃カメラ恐い!」と騒いだせいか、今回の大腸内視鏡でも既に鎮痛剤使用の承諾書にサインをしておりました。正直なところ、胃カメラはのどを通すのが極めて苦手なので気絶している間にやってほしいのですが、大腸は鎮痛剤はいらないんじゃないかと思っていたんです。経験者のオットも「大腸検査で鎮痛剤?」と怪訝な顔をしてましたから。
しかし結果的には服用させてもらって大正解でした。
検査が始まった直後、お尻からカメラが入っていくと腹がとても痛いのです。
お尻じゃないです。そっちは痔もあるはずなのに平気。おっかなびっくりだったけどまったく平気。
そうじゃなくて腹がとても痛い! 痛いよ!
どういう痛さかというと、ベ○ピの時にゴリゴリの堅いやつが腸壁にひっかかってキリキリ痛い、あの感じ。と言っても経験の無い人にはわかんないですよね。
わたしは幼少期より筋金入りのペ○ピ体質で、高校時代など道を歩いていて差し込みが入り、立っていられず電信柱に寄りかかって脂汗流してしばらく耐えた、とか、そういうエピソードに事欠きません。時代劇に出てくる「持病の癪が……」ってやつです(違うか)。トイレに行きたくなって痛い、というのではありません。純粋に腸がキリキリと痛くなるんです。
当時、お通じは週に1回か2回しかありませんでした。
あの、腸の内側から刃物で刺されるような激痛(ただのベ○ピですけど)を知っているから、出産なんか予想してたほど大変じゃなかったですもん。本当よ。
出産時はですね、ヒ、ヒ、フーとうなっておりましたから傍目には大変そうに見えましたが(オット談)、気持ち的には(10代の頃の強烈なベ○ピより痛くないわ)って感じでした。
出産時の痛みって、痛いというより巨大な生理痛というか、子宮が思い切り収縮する痛み,という感じなんです。実際そうなんでしょうけど。
それは酷い便秘の病的な痛さとは質が違いました。健康なんだけど生理的にけっこう痛い、と表現したらいいのか。意識のどこかで(ああ病気とは違う)と、安堵している自分がいました。あのお産のヒーヒーフーの時に。
便秘の激しい痛みはそうじゃないです。あ、これは病的だ、普通じゃない、って身体でわかる感じ。今回の大腸検診は、若い頃の最悪な便秘ほど酷くはないんですが、痛みの種類としては同一でしだ。だから(あ~ん、不健康で病的な痛みに似てるわー)と思ったわけです。
「痛いです~~痛い痛い」
というと、技師さん(検査技師の先生も助手の方も女性でした)が、
「ええ~? まだ多くの人が痛みを感じる部分まで行ってませんよ。まだS状結腸ですよ」
と答えます。そうかー、S状結腸でこんなに痛いのは、自分は内臓感覚が敏感すぎるのかなあ、なんて少しげんなり。痛いと騒いだので鎮痛剤もさらに増量。
おっと、心臓が思い切りドキドキしてきました。頭に血が上って苦しい感じ。あれあれ、やばいかも!?
ただ、そこを過ぎたら普通に進みましたのでまあよかったとしましょう。鎮痛剤増量はやっぱヤバかったのかな。心臓・循環器系の病が発見される前でしたが、この頃から何かあったのかもしれません。ともあれ、あとは何事もなく通過。S状結腸を過ぎちゃったら全然痛くないです。
ところで、あとでネットで調べたら多くの病院サイトに
「S状結腸は検査時に皆さんが痛みを感じやすい部分」
と書いてあるじゃないですか。
ええええ? 技師さん、「みんな痛くない部分」なんて、どうして言ったの?
1.知識が足りない人だった
2.患者を励まそうとした
3.実際に、ネットに書いてあるほどS状結腸で痛い人は多くない
4.その他
1~4のどれなんでしょう?
ポリープ発見
結局、検査技師先生の発言は謎のままでしたが、とりあえず無事、内視鏡が腸の最奥部までたどり着きました。ここから帰りながら(抜きながら)腸壁を見ていきます。
と、ものの30秒もしない間に
「あ~~、ポリープありました。残念でした。取るので今日は入院ですね」
という声が聞こえました。この病院では大腸検査をした時、ポリープが見つかれば取り、取ったら念のため一泊入院となるのです。
ま、それも想定内。ポリープの一つや二つはあるだろうと思っていましたから。
何を隠そう、わたしは20代の頃から実父によく「おまえは大腸ガン!」と言われていたのです。文字通り、このままの言葉です。
これを普通の日本語に翻訳すると、
「あなたは、幼少期からの食生活やうちの体質なんかを考えると、歳をとった時に大腸ガンになりやすいと考えられる」
という意味です。ああわかりにくい!
思いつきではなく、一応エビデンスなんかも知っていてそういう推測をたてているだけなんですが、知らない人がいきなり聞いたらぎょっとしますよね。こんなことを普通にすぐ言うんです。なんの悪気もなく。ええ、本当に何の悪気もなく。
子どもの頃から慣れっこで当たり前のようにふーんと聞いていますが、初めてこの種の発言を聞いた時はオットが仰天しておりました。だいたいこの父は、オットがその昔、「お嬢さんと結婚させて下さい」と言いに実家に来た時、
「あのなあ、この子は婆さん(祖母のこと)が二人とも百貫デブでな、将来太るよ」
と言ったのですよ。
そんなことそこで言われてもねえ。オット超困惑。確かにぽっちゃりですけど。
だいたい「百貫デブ」って差別用語じゃないのかな? 昭和の昔の子どもの罵り言葉といったら「で〜ぶ、で〜ぶ、百貫で〜ぶ、おまえの母ちゃんでーべーそー!」でした。それを兄弟げんかで言い合ったりしてた。母ちゃん、怒っていいです。
ともあれ、わたしは面と向かってものすごくひどいことを言われてもあんまり気がつかなくて、3日くらいたってから「もしかしてあれってすごく失礼な話だったんじゃ?」という蛍光灯な反応をしてしまうのですが、それはこの父に鍛えられたのだと思います。
閑話休題。
その場でブチッとポリープを切除し、あとは特に何事もなく大腸検査が終わりました。S状結腸はやっぱり帰りも痛いよ! 痛い部分なのよここは!!
院内の愉快な皆さん
さあ、一晩の入院です。前回,救急車で入院した時と同じ病棟の、違う部屋に通されました。
移動は車いす。
車いすって楽ですね。何にもしなくても座ってるだけで他人がツーーっと押してくれて目的地に行けちゃう。慣れたらこれに依存して怠惰な人間になりそうです。
前回の入院時は自分も痛くて参っていたし、同部屋の方々もあまり体調が良くない風でほとんど話をしなかったのですが、今回の部屋は違いました。
とーーーーーーってもお話好きの患者さんがいたのです。
検査に鎮痛剤を使っていたので、わたしは朦朧としているわけですよ。看護師さんがベッドまわりのカーテンを閉めてくれたのをいいことにゴーゴーと寝ておりました。それはもう、打ち上げられたマグロのように。
しかし同室のおしゃべりは絶える間がありません。薬のせいでうつらうつらしていると、しょっちゅう話し声や笑い声で目が覚めます。
まあ昼間ですからね。
いいんですけど。
いいんですけど、カーテンしか仕切りのない4人部屋ですし、話してる内容も丸聞こえ。
うーん、知らない人の病歴や家族のことや仕事のことを特に聞きたいわけではないぞ。てか、それ、同室の人のあれやこれやを根掘り葉掘り聞いてるんじゃない? わたしもおしゃべりは嫌いじゃないけれど、プライベートを洗いざらい尋ねてくる感じのお話はちょっと苦手です。
でも、きっと、そんなこと考えてないんだろうなあ。もちろん悪気なんてこれっぽちもなくて、ただ「仲良くなろう」とか、「一人で寂しそう」とか、むしろ気を遣って下さるタイプの方とお見受けしました。いやわたしは大腸検査が終わったばかりで寂しくないぞ。全然寂しくないから!
むむむ。
まあ一晩だけの入院でしたので、ここは失礼を決め込んでずーっとカーテンを閉めっぱなしでいることにしました。ひそかに「おしゃべりさん」と心で呼んで。
それでも、トイレに行く瞬間を狙って「何の病気で入院してるのか」「いつ退院できそうなのか」などはしっかり情報収集されました(汗)。
ええと、それから、今回は身体が痛いわけじゃなかったので鎮痛剤が切れてからは動き回ることができたんです。病棟のラウンジに出かけていったら、わたしにとってはとても不思議な患者さんと出会いました。
入院しているのにフル化粧でびっちりつけまつげをつけている患者さんでした。
ひそかに「つけまさん」と心で呼びました。
話したわけじゃないし、どういうご事情かはわからないのですが、退院する日じゃないのに完璧に化粧をして、あきらかにつけたとわかる長いつけまつげをビシッとつけてるってのが、もうわたしにとってはすごい謎なのでした。だって着てるのは病院パジャマだし。
もしかすると化粧品屋さんとか水商売の方で、びっちり化粧してないと裸で路上を歩いているような気になるのかもしれません。そういう気持ちはわからないでもありません。まあその人から見たら、入院でもなく単に「病院の外来に行く」ってだけで、朝からすっぴんで往来を歩くわたしの方が意味不明でしょう。
そんなこんなで、おしゃべり攻撃を受けつつかわし、つけまを鑑賞し、病院ごはんも再び堪能して(学校の給食よりおいしくないと思う)、翌日、早々に退院して参りました。もともと検査入院ですから短いに越したことはありません。後日、結果を聞きに行ったら、横行結腸にあったポリープは良性で何てことのないものでした。良かった良かった。
というわけで大腸検査は滞りなく終了しました。結果も良好。
次は胆嚢摘出です。
外科で手術なので主治医が変わります。これまでは内科だったのです。例の美人の先生とはここでお別れになりました。前回の入院時、美人美人と叫んでいたので各方面からどんな人なんだと画像を所望されていたのですがお忙しそうで写真も撮れず。まあ撮れなくて良かったですね。プライバシー侵害になっちゃう。
さて、外科はどんな先生なのでしょう?