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文化が継承されるということ
note友人の、み・カミーノさんがベトナムを旅した。身軽な一人旅で楽しそうだ。
それでしみじみ思い出されたことがある。
わたしはそれほど外国旅行の経験はないが、ベトナムには行ったことがある。10年以上前のことだ。仕事だったけれどスケジュールは厳しくなく、偉い人は別にいたので責任も軽かった。つまりまあ、割に気楽な出張であった。
その時フエを観光する機会に恵まれた。フエは南北に長いベトナムの真ん中へんにある古い街である。現地の若い方が案内してくださり、たぶん、グエン朝時代のフエ王宮を見たのだと思う。たぶん、というのは記憶が怪しくて覚えていないのだ。出張であって観光できる時間があると思っていなかったからカメラなど持たずに行った。そのせいで写真もない。お互い母語でない英語のやりとりだったので会話内容も忘却の彼方だ。
でもはっきり覚えていることがある。
ところで、フエにあるグエン朝王宮は世界遺産となっている。
上のページによると、グエン朝は1945年まで143年間続いたベトナム最後の王朝で、何代もの皇帝が王宮を建てたり改修したりしている。
案内された王宮あとは昔の栄華を感じさせながら、同時にベトナム戦争の過酷な爪痕もくっきりと残していた。豪奢な建物が建っていたはずのあたりは風が吹き抜ける草地となっていたようだ。戦争で多くが破壊されたという。砲撃を受けた痕が残る場所も見せてもらった。広々とした草地を見ていると、ここにあった歴史的な建物たちがあとかたもなく爆撃で破壊されたのかと思いなんとも言えない気持ちになった。ただし行ったのが10年以上前なので今では修復されているのかもしれない。
広いし、全部を見て回ったわけではない。説明の英語も完全には理解していない。しかし、残っていた大きな回廊らしき所を歩いていた時、等間隔に漢詩の額が飾られているのが目に付いた。
漢詩だからもちろん読めない。
しかし使われている漢字は、今の中国の簡体字ではなく日本人にも想像が付くようなものが多かった。異国で、漢字ばかり並んだ額を見て、それでもなんとなく意味が想像できることにわたしは感激した。
中のひとつに、9月(秋)になり月が美しい、といったような漢字が並んでいるものがあった。わたしは案内してくれた若い方に、
「秋の月が美しいといった内容なんでしょうか?」
とたずねてみた。
「わからないです。そんなことが書いてあるのですか?」
え?
だってここ、ベトナムの古い王宮ですよね?
ベトナム人のあなたにわからないのですか?
「私たち漢字は読めません。教育もされません。ベトナム語はアルファベットを使いますから」
なんということだろう。
この若い人は自国の古い王宮にある詩は読めず、初めて来た異国のわたしがなんとなく内容を理解してしまっているのだ。
ベトナムの歴史はほとんど知らない。けれどベトナム人はインドネシアともタイとも違って、東アジア人、つまり日本や韓国や中国の人に似ている。中国系の文化の流入も多かっただろう。その上にフランスが植民地にしていたからバインミーなんておいしいものも出現したけれど、なくなってしまった文化もたくさんあるに違いない。
漢字を捨てたのだろうか。それとも自然に使われなくなっていったのだろうか。相当大昔に初対面の韓国の方と会った時、お名前を聞いて「漢字ではどう書くのですか?」とたずねたら答えてはくれたけれど、「今ではハングルを使うので……」というような会話を交わした記憶がある。世につれて使う文字も変わるのだなとその時思った。そのことも思い出して、一度はあった文化が継承されないで異なものとして忘れられていくことが、きっと世界中にたくさんあるのだなあと、フエの王宮でしみじみした。
文化がすべて継承されればよいと考えているわけではない。
でもなくなってしまうのも、もったいないような気がする。
日本語や日本の文化も社会の変化でどんどん変わっていくのだろうか。それはちょっと面白そうで、同時にちょっと淋しい気持ちもする。
あと20年たったらどうなっているんだろう。わたしたちはまだ日本語を話し、盆や正月を祝っているんだろうか。
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