またかよ入院日記 6
全身麻酔で意識を失うまではこちら。
術後すぐ
「森野さん、森野さん終わりましたよ」
遠くから誰かの声が聞こえます。
これ、いつも一緒だわ。全身麻酔から覚めるときってみんなでわたしを起こそうとするのだから。寝かしておいてくれていいのに。
……と思うのですが、そういうわけにはいきません。
全身麻酔というのは呼吸も止まってしまうので、麻酔科医が付いて人工呼吸をするのだそうです。もちろんそれは緊急時にAEDを使いながらやる心臓マッサージとは全然違う、口から気管に管を入れて行うものです。あれこれネット情報を読むと「意識が戻ってから挿管していたのを外す」みたいに書いてあるんですけど、今回も前回も、なんなら前々回も、意識が自覚できる前に挿管は外されていたので「意識が戻った時にゲホゲホ」ってことはなかったです。麻酔医の腕が良いのか?
あ、そうそう、前々回は意識が戻ってからノドにエヘン虫が居座ったような不快感があって気管挿管の名残かなあと思っていたのですが、前回と今回(つまりは同じ病院で同じ麻酔科で)は全然そんなこともなくて。
やはり麻酔科が名医なのかな? なんかこう、オタ話をすると永遠に乗ってきそうなお兄さんに見えたのですが(大失礼な印象。個人の感想であって根拠は何もありません)。
ええと、ですから話を戻すと、患者が麻酔から覚めた時はみんなで話しかけて意識を取り戻したことを確認しなきゃならないのかなあなんて思いました。ちゃんと生きて戻ってきたことを確かめると。
そしてわたしゃ今回もちゃんと生きて戻ってきたのでした。
(ここで殺されちゃう……ってのが某ミステリ小説にあったなあ。ネタバレだから題名とか作者とか言わないけど)
硬膜外麻酔の威力
とはいうものの意識は本当に切れ切れ。
ふと気がつくと看護師さん達がバタバタ何かをしていて、次にふと気がつくとベッドごとエレベーターに乗ってて、次に気がつくと病室にいる、みたいな。
あれ、病室にあるベッドを運んでいって、手術台からまだ意識朦朧の患者(わたしだ)を「よいしょ!」って移動させているのかなあ? ベッドを移った記憶は全然無いのですよ。なのに気づくと病室で寝ている。
手術後は常にそうですが、寝ていると言っても身体中にあれこれ管が繋がっています。まず点滴、それから導尿の管、それから心電図を取るコード、それからふくらはぎをモミモミする機械(血栓防止)。あとまだ何かあったかな。腹からドレーンってのは無い感触。ああでもいろいろ繋がってるって不快です。ひと晩なんだよね、手術予定表(そういうA4サイズの紙がもらえる。退院までの一般的な流れが書いてある)によると。こういう風に全身にいろいろ繋がってるの、不快でたまらないので早く取りたいな。
そこで気づきました。
あれ、お腹、そんなに痛くない?
そうなんです。ざっくり腹を切ったのに思ったほど痛くないのです。全然痛まないわけじゃないですが、切った割にビックリするくらい痛くない。腹腔鏡の時より痛くないです。全然うめく必要がありません。
うそーー?
これが、これが硬膜外麻酔の威力?
背中に刺さっているはずの管は仰向けに寝ていても全く気になりません。あることを忘れてしまうくらい。そして看護師さんは寝たきり状態のわたしにいいました。
「ここをカチッて押すと麻酔液が出るようになってますからね。痛かったら押して下さい。間隔が空かないと押せないしくみになってるので、麻酔を入れすぎることはありません」
うわーマジですか?!
自分で麻酔薬を投与するわけ?
自分で決めていいの?
痛かったら押しなさいって言われたぞ。
実際のところ、これは手術あとではなく、膀胱をなだめるために何度か使いました。導尿カテーテルが今回の場合かなり不快で(通常は何もしないで寝ていればあまり感じない。少なくともこれまではそうだった)、常におしっこが出たいような感覚が止まらないのですね。膀胱内のどこか本来は触らない場所に器具の先でも触れていたのではないでしょうか。とにかく不快。その不快さもこの硬膜外麻酔で多少弱まるので、もっぱらそちらでクリッククリックを繰り返しておりました。
水をくれ
さて、一番長い夜が始まりました。
手術直後の夜がいろいろと辛いんです。前回はここで突然、胃がキリキリ痛み出したのだけれど今回はそういうことはなさそうです。
しかし術後は翌朝まで絶飲食なのです。これ、絶食はあまり気にならないのだけれど、とにかく喉が渇くというか口がカラカラで気持ち悪い。それに術後の夜って眠れないんですよ。痛かったり不快だったりで。
初めて入院した頃はナースコールを押すのは勇気がいりました。こんなことで呼んでいいんだろうか、看護師さんたちは見るからにとても忙しい。この程度のことは我慢した方が……って、辛くても呼ばなかったんですよね。
でもそれって違うんじゃないかと入院のベテランになりつつある今は思います。もちろん大して辛くないのに手当たり次第に何でも呼びつけるのはよくありません。しかし本当に痛かったり、してほしいことがあれば呼べばいいんです。
というわけで、この夜は3回ほどナースコールをしました。口のカラカラがなんともしんどくて。水を飲むことは禁じられているんですが、水でうがいをすることは出来ます。ただしまだ身体を起こすことができないので看護師さんに手伝ってもらわないとうがいが出来ないのです。
夜勤の看護師さんは何度呼んでも嫌な顔ひとつせず、夜中なのにいつも笑顔であらわれてうがいの手伝いをしてくれました。本当に有難い。白衣の天使とはよく言ったものです。
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