#5 私たちはなぜ木の家を美しいと思うのか――建築家・勝見紀子
木の家だいすきの会のメンバーの、人となりを紹介していくこの企画。第5弾は、アトリエ・ヌック建築事務所の勝見紀子さん。「なぜ、私たちは木の家を美しく感じるのか」という問いに対して根源的な部分から言葉を紡いでくれました。
見せることで、磨かれる。
――勝見さんは夫婦で建築事務所を営んでいるんですよね。
勝見 そうですね、99年に設立したのでもう20年一緒にやっていますね。
――素朴な疑問なんですが、公私ともに一緒にいると窮屈になったりしないですか?
勝見 仕事ではよくバチバチにやりあっていますよ(笑)。どちらも建築士で、スタイルの違いもありますしね。よく知っている工務店の方とかは、私たちが議論しだすと、「また始まった」的に笑われています。ただ、夫が構造や法的チェック・契約関係など、私がプランニングや現場監理などが中心と、役割分担はされています。
――建て主さんも漫才のように捉えてほしいですね(笑)。そんな勝見さんのキャリアのスタートを教えてください。
勝見 学校を出て、建築家の吉田桂二さんに師事しました。そこでは、主に個人住宅の設計を行っていましたね。
――吉田桂二さんといえば木造建築の第一人者ですね! となると、最初から自然素材に意識が向いていたのでしょうか。
勝見 もともとそういう部分もありましたが、やはり会社で仕事をするうちに、木造建築の素晴らしさにどんどん気付いていった感じですね。
――木造建築のどのような点に魅了されましたか?
勝見 ひとことで言うと、構造と空間が一体化している。日本建築と聞くと、むき出しの柱や梁をイメージしやすいと思うのですが、つまり構造体が“見られるべきもの”として捉えられているんですね。骨組み自体がデザインというか。空間の中に木の存在感が立ち現れる、その強さや美しさに惹かれ続けています。
――今はそうした新築住宅は少なくなってしまいましたね。
勝見 “見せることで磨かれる”ということはあると思います。隠すことはかんたんだけど、それによって細部のこだわりや大工さんの技術が消えていくのは悲しいことですね。
――少なくとも、勝見さんは伝統的な木の家にこだわっていきたいと。
勝見 基本的にはそうですね。金物に依存しない伝統的な木組みの家や、
伝統工法そのものというより、日本が培ってきた木の文化は本当にすごいので、その良さを引き継いで、国産材の積極活用を続けていきたいですね。そこにはもちろん、凄腕の職人さんたちとの協働が欠かせないのですが。おかげさまで「木の家だいすきの会」のメンバーには、自然素材の扱いに長けた大工さんが多いので助かっています。
気持ちのよい生き方を追い求め続けて
――建築以外で、インスピレーションを受けることはありますか?
勝見 そうですね…。建築とリンクしていますが、やはり家々や景観の美しい町並みを見ると、建築家としての責任を感じます。それと、これは趣味でもあるんですが、バードウォッチング。
――バードウォッチング!? その醍醐味はどこにありますか?
勝見 もちろん鳥が可愛いってこともあるんですが、自然の中を歩いて、植物に季節を感じられるのが好きなんです。日光野鳥研究会というグループに所属しているのですが、メンバーのみなさんの自然に対する造詣が深くて、それも勉強になっています。
――ちなみに勝見さんのフェイバリットバードは?
勝見 ヤマガラ! 人懐こくて、赤茶色のお腹と白黒の頭のグラデーションがとても可憐です。
――(勝見さんに見せていただき)確かに可愛いですね! 他に趣味はありますか?
勝見 料理です。それも素材から作る保存食づくりが好きで、味噌やみりん、ジャムをつくっています。
――木の家だけでなく、自然そのものに対して敬意がある感じがします。
勝見 人は、気持ちよく生きること・暮らすことが大事だと思っています。住まいは暮らしの器。日本人はずっと木の家に住んでいたので、木に気持ちよさを感じる。だから、ずっと木の家をつくっているのかもしれませんね。
アトリエ・ヌック建築事務所
埼玉県戸田市に居を構える建築事務所。「安心して暮らせる家づくり」を掲げ、個人住宅の新築やリノベーションを主に手掛ける。家族の生活を分断しない広がりのある間取りや、光や風の最大限の活用、自然素材を重宝するなどの特色を持つ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?