#3 木造建築の“頼れる兄貴”――笹森得夫
木の家だいすきの会のメンバーの、人となりを紹介していくこの企画。第3弾は、笹森工務店の笹森得夫さん。業界では知る人ぞ知る木造建築の名手は、朴訥とした人柄の中に強いパッションをほとばしらせていました。
進むはずじゃなかった建築業界
――笹森さんは、お父さんが大工さんだったそうですね。
笹森 はい、父が笹森工務店を設立して、私が二代目です。今は弟や妹も含めて家族経営しています。
――やはり、父の背中を見て、自分も大工になろうと?
笹森 それがまったくで(笑)。確かに高校で建築科には行ったんですが、それも親に「合格したらオーディオを買ってあげる」と言われて行ったんです。見事にエサに飛びついてしまいました。
――お父さんの戦略がズバリはまったんですね(笑)。
笹森 ただ、父は私に大工ではなく大工のまとめ役になってほしいようだったんですね。おそらく、父自身が、家の部分をつくるだけでは飽き足りず、一棟をまとめてプロデュースしたかったんだと思います。それで、現場監督としてとある建設会社に入社しました。ところが、そこが面白くなくて……。
――なぜでしょう?
笹森 単純にきつかったですね。ずっと休みもないし、下っ端だから先輩の靴磨きをしたりとか。思えば、中学も高校もずっと体育会系の文化のなかにいましたが、学生時のように先輩は卒業するわけでもないですしね(笑)。まあ鍛えられました。
Noは言わずに無言実行
――その体育会系の文化は、笹森工務店にもあるんですか?
笹森 そんなことはないと思うけど…ただ、すぐにあきらめるのはNGですね。口だけの人は苦手です。どんなオーダーに対しても対応できるように意識はしています。
――結果的に体育会系の匂いを感じます(笑)。周囲の設計士や大工さんから、「笹森さんがいると安心感がある」とよく聞きますが。
笹森 いやいや、そんなこともないでしょうけど、あまり喋らないからうるさく思わないんじゃないですかね(笑)。あと、業界も長いんでリスクヘッジみたいなところには気をつけています。
――無言実行という、昔ながらの職人さんという感じがします。
笹森 まあ、話をすることが苦手なだけなんですが。ただ、もちろん仕事としてはやるべきことをやるのは当たり前という思いでやっています。
――笹森工務店が担当した築350年以上の古民家のリノベーションは、本で紹介されるなど業界で話題になりましたね。
笹森 やはり昔の建物ですから、設計図もないし、寸法もその場その場で図っていく。そういう難しさはありますけど、「おお、こうしてつくっていたんだ」という発見もありますよ。
――昔ながらの工法にこだわりはあるのですか?
笹森 昔の手法を受け継いでいる大工はどんどん少なくなっています。設計はできても、実現ができなくなる。そうすると日本の建築が失われていく。それは避けたいですよね。
なにより、木の家って何回つくっても落ち着くし、いいものですから。
――この仕事をしていて、どんなときにやりがいを覚えますか?
笹森 建物ができあがって、そこに明かりが灯ったとき。そこで始まる暮らしをイメージして、しみじみと「よかったなぁ」と思います。
――すごく仕事にまっすぐに向き合っている印象ですが、どうやってストレス解消をしていますか?
笹森 お酒ですね(笑)。それと、立場上いろいろな方とコミュニケーションを取るので、プライベートでは人のいない所へ行きたくなります。自然があって、温泉があって、うまいものを食う。ああ、そんな場所に行きたくなっちゃったな(笑)。
笹森工務店
埼玉県富士見市の工務店。木の家造りを得意とし、武蔵野地域で多くの住まいを手掛ける。伝統的工法を受け継いだ技術と、安心感のある現場監督が評価され、多くの設計士と仕事をともにしている。
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