#2 いいものを、粛々と――流転の建築家・齊藤元彦
木の家だいすきの会のメンバーの、人となりを紹介していくこの企画。第2弾は、totomoni(トトモニ)の一級建築士・齊藤元彦さん。どこか超然として動じないそのスタイルは、人呼んで「ところてん式処世術」!?
就職氷河期世代の、建築家の卵
――齊藤さんは何年生まれですか?
齊藤 1976年です。就職氷河期世代ど真ん中です。
――アオリをくらいましたか。
齊藤 というより、就活しなかったですね(笑)。だめな学生なんですが、どこか世の中に対して斜に構えていたんでしょうね、バックパッカーとして東南アジアをめぐっていました。
――バックパッカー! 今のクールな佇まいからは想像できませんが。
齊藤 いろんな世界や人を見たかったんです。特にインドが好きでした。でも、そんなフラフラしている自分を心配してでしょう、母に、ある設計事務所がやっている見学会に連れて行かれました。そこには熱く語る瓦屋さんがいて、こういう熱い人達と仕事ができるのは面白そうだなと。家も素敵でしたが、それより建築を通した背景に興味が湧いたんです。
――では、そこでキャリアをスタートした?
齊藤 いえ、実はそこは縁がなくて(笑)。ただその設計事務所が設計士の養成塾を運営していて、働きながらそこに通いました。大学卒業後はまずは工務店で大工の見習いでした。設計事務所に移ったのは3年後で、寺子屋みたいな事務所で朝7時から薪割りして、雑巾がけして、と完全に丁稚ですね。
――設計士と大工、そのどちらでも腕を磨いていたんですね!
齊藤 結構珍しいかもしれませんね。ただ、設計がすぐにできないのならば、家づくりの現場を知っておきたかったんです。たぶん、その経験は今にすごく活きていると思います。大工さんの気持ちが分かるし、仕事以外でも木工が趣味で、最近では靴べらを作りましたよ。
下積み時代のリアルな懐事情
――若手の頃、そんなハードワークをしていて、ぶっちゃけ収入はどれくらいだったんですか?
齊藤 そうですね…設計事務所時代は、給料は月5万円と歩合制。1軒完成しても、師匠や先輩たちの分を抜いたら、残るのはわずか。正直生活はカツカツで、夜はアルバイトしていました。そんな生活が30歳前まで続いていましたね。そして、そんな時に結婚しまして。子供もすぐにできまして。
――おめでたい!ですが、勇気があるというか…。
齊藤 すぐに厳しい現実に直面して、転職を決意した次第です(笑)。転職先は断熱に強くてかなり学びがありました。ただ、リーマンショックの煽りでつぶれてしまったんです。
――波乱万丈ですね…。
齊藤 で、そこの会社にいた5人と設立したのが、このトトモニになります。
――転んでもただでは起きない感じですね! それが2009年ですね。
齊藤 そうですね、私は33歳でした。設計者と現場監督ではじめたものだから営業の仕方が分からない。コンビニでチラシをコピーしてポスティング、あれは仕事にならなかったなあ(笑)。幸運なことに縁あって一軒、家を建てさせていただいたのですが、それがきっかけでそこからはおかげさまで多くの住まいをつくらせてもらっています。
人生で身につけた「ところてん式処世術」
――いまでは施工例が多くのメディアに掲載されている人気ぶりです。家づくりで心がけていることはなんですか?
齊藤 当たり前のことですが、家は住まい手のもの。どんな家をつくりたいか、どんな暮らしをしたいのか、傾聴することを心がけています。ただやはり無垢材をはじめ、自然素材を活用し、いつか役目が終わる時に自然に戻っていく家であってほしいとは思っています。
――最近、totomoniさんは共同住宅も手がけられていますね。今後やりたいことなどはありますか?
齊藤 もちろん家づくりはずっとやっていきたいし、会社としてもチャレンジもしていきますが、自分自身のスタンスでいうと、 “上手に流されていきたい”。
――流される?(笑)
齊藤 これまでの人生、いろいろあって、否が応でも抗えない流れってあるんだと実感しています。押し流されるのはもうしょうがない! 出された時にどこに行くか? その見極めを大切にしています。押し出される訳ですからネガティブな感情があるわけです。でもそこでポジティブな芽が出てくるまで考え続ける。見つけたらもう全力でそっちへ流れていく。これ、私は「ところてん式処世術」と呼んでいるんですけどね(笑)。
――深いですね。ある種達観している齊藤さんだからこそ、施主さんの意見を傾聴して、いいものづくりに集中できるのかもしれませんね。ありがとうございました!
totomoni(トトモニ)
「豊かに住まう」を探求し続ける設計事務所で、自然素材への徹底的なこだわりが特徴的。設計士と現場監督が一体となった体制により、プランニングからディテールまで目の行き届いたものづくりを行う。近年は自然素材をふんだんに活用した集合住宅を手掛け、即満室になるなど人気を集めている。
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