#8馬上の建築家が考える“自然とのつながり”とは
木の家だいすきの会のメンバーの、人となりを紹介していくこの企画。第8弾は、会の立ち上がりから行動をともにしてきた建築家の中村展子さん(アトリエ海所属)。公共建築から茶室まで、さまざまな建築を手掛ける彼女は、自然をこよなく愛し、愛するがゆえに常に建築でも自然とのつながりを考えてきました。
乗馬から出会った持続可能性のかたち
――早速ですが、乗馬の写真、すごくサマになっていますね。
中村 ありがとうございます(笑)。馬に乗って山を走るのが今の楽しみです。
――どこで乗馬しているんですか?
中村 北海道の帯広です。年に数回、訪ねています。乗馬はもちろん楽しいのですが、そこでは馬と林業を結びつける取り組みも行われているんです。
――どのような取り組みでしょう?
中村 森から伐採した木を集材所に運ぶ際、馬を使うというものなんです。現在では、ほとんど車両が使われていますが、実は昔は馬がその役割を担っていました。細い道でも馬なら進めますし、新たに道をつくる必要もなく、環境にやさしい。サステナビリティやSDGsが謳われる今、この試みをとても興味深く感じています。
――なるほど。昔から行われていることが、持続可能性に貢献しているということは多くありますよね。
中村 フランスのヴィンヤードでは馬が土を耕していたりしますよね。あれも、環境に良いから、というだけでなくてその方が品質に貢献するという面もあるようです。
――中村さんが木の家づくりを行っているのも、サステナブルな意識ゆえ、ですか?
中村 もちろん、森と木、そして暮らしの循環は大切に考えています。でも、個人的にはシンプルに自然や木の家が感覚的に好き、ということが大きいでしょうね。家にいても「自然とつながっている」と感じられる家づくりを意識しています。
宮城で最初の、オープンスペース型小学校
設計を担当した鳴瀬小学校(撮影=飯田鉄)
――中村さんは早稲田大学の建築学科卒。いわゆるエリートコースかと思うのですが……。
中村 とんでもないですよ(笑)。当時は建築ブームだったんですが、就職にもとても苦労しました。幸運にも、文化会館など大掛かりな仕事を手掛ける設計事務所に入れましたが、5年ほど務めて大学時代の同期と「アトリエ海」を設立したんです。
――これまでジャンルを問わずいくつもの建築を手掛けてきたと思いますが、印象に残っている仕事はなんでしょうか。
中村 もちろんどれも思い入れはありますが、「長い付き合いになったな」と感慨深いのは、宮城県加美町の鳴瀬小学校(1988年落成)ですね。当時流行していたオープンスペースを活かした建築で、廊下もなくして。建築自体もそうですが、いろいろな方と関わって町に貢献できたのが、嬉しかったです。
小学校の食堂の風景(撮影=飯田鉄)
――東北建築賞も受賞されました。
中村 この前、トイレの改修で小学校に行きましたが、当時の小学生たちがいまはPTA。つくづく、時の流れを感じますね。そうしたことは一般の住宅でも増えてきて、かつての施主さんのお子さんから依頼されたり。
――二世代にわたって依頼される、その信頼の理由はなんでしょうか?
中村 うーん…。それはわかりませんが、実は自分のスタイルというものがあまりなくて。施主さんが建てたい家や建築を、どれだけいいかたちで建てられるかというところに力点を置いています。ただ、やはり自然とのつながりは意識しますね。
設計を担当した茶室。素材だけでなく、光を巧みに取り入れて自然とのつながりを表現
――本当に自然が好きなんですね。
中村 そうですね。なにも大自然の田舎の家というわけではなく、どう自然を感じられるかという工夫が大事だと考えています。以前、都内の家で茶室を担当したことがあるのですが、茶道では至るところに自然を感じる仕掛けがあるんですね。季節によって花や掛け軸を変えたり、雨の音も効果的に活かしたり。そういう知恵は、とても学びになりました。
木材の土地性を最大限活かす
――自然を感じる建築、と聞いてすぐ頭に浮かぶのは、やはり木ですよね。
中村 はい、木の家だいすきの会とご一緒させてもらうようになってから、木や木材の勉強をはじめました。実は、昔は大学では木造建築について学ぶことは少なかったんです。それは現在よりも、木造には法律的な制約が多かったということもあると思うのですが。
――制約が多かったとは!?
中村 大規模な公共建築は、ですけどね。防災の観点から多くの制約がありました。平成22年の「公共建築物等木材利用促進法」によって、ようやく活用できるようになったんです。
――知りませんでした。
中村 もちろん、民間では木造家屋をつくってもよかったのですが、それでもRCがメインで木材は内装材に取り入れる程度、といった時代でした。ただ、学び出すとすごく面白くて、特に気候・風土との関係に関心を持ったんです。
――気候や風土と木にはどのような関係が……。
中村 当たり前ですが、日本の風土には国産の木材が合っている、ということですね。例えば海外の木は、強いとされるものでも日本の高温多湿な環境には弱かったりします。その土地で育ったものが一番適当で、それは地域においても同じです。それぞれに、その土地らしさがあります。九州の木はよく育つ分柔らかい、とか。
――そうした地域ごとの木の特性を考えながら設計しているんですね。
中村 大工さんたちに教わりながらですけどね(笑)。私は、埼玉県ときがわ町の、ときがわ材をよく活用しています。その質ももちろんですが、信頼できる林業家や製材所があるんです。森や木、建築、住む人まで、関わるみんなが幸せになる家づくりをこれからもしていきたいですね。
アトリエ海
http://atelier-umi.in.coocan.jp/
1982年に開設した一級建築士事務所。主宰者の塩脇裕さんと中村展子さんは、早稲田大学の同窓。早稲田大学小野梓記念館や鳴瀬小学校、国際サーカス村の資料館など公共建築から一般住宅まで、手掛ける幅は広い。
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