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【日記】摩天楼【2024年5月1日】

摩天楼。
 先端が天をも摩るかのような高層建築を指す言葉だ。英語の「skyscraper」を和訳した言葉だとされる。

 それは今朝のことだった。
 仕事の準備のため機材を大量に詰め込んだタクシーに一人乗り込み、目的地に向かっていた。まだ転職して一月しか経っていない私にとって、それが当たり前だとは信じたくなかったがどうやら現実はそうも甘くないらしい。
 そんな仕事にうんざりし、目をそむけようとふと外を見ると、そこには東京の摩天楼が広がっていた。地平線など最初からなかったかのように溢れかえっているビル群。それはあまりにも当たり前な光景だが、今朝の私にはそうは映らなかった。
 今の今まで忘れていたのだ。この二十数年間生きてきた、この東京には摩天楼があり、おびただしい数の人間たちが蠢いている、そんな当たり前な現実を。あのビル一つ一つに何十もの企業が入っており、そこには何百という大人たちが今日も働いている。そして、私もまたそんな「東京」で働いているのだと。あの照明の数だけ理不尽に他人を押し潰す輩どもと、自らの価値に悩む仲間たちがいるはずだ。
 私は、こんなにも身近であるはずの「社会」をここまで遠くに感じてしまっていたのか。いや、もはや自分が社会の一員であるという意識すら消えかかっていたのかもしれない。その事実に恐ろしささえ覚えたのだ。
 自らが何者なのか。自分の居場所はどこなのか。難しく、答えの出ない問いだが、自分の属するコミュニティの一つ外側を意識できると、何か楽になれるのかもしれない。

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