【日記】終電待ちのソルティライチ【7月15日】
テレビ業界に転職してから、早くも三か月が経った。この業界の常識が通用しない難しさをこの三か月だけで数え切れないほど経験したが、最も苦しかったのは休みが脅かされることだった。
日曜と月曜が私にとっての安寧だった。だが、一ADの休みなど番組制作には考慮されるはずがない。月曜が休みだろうが番組の収録が重なれば当然ADは働かねばならない。
その日、私は苛立っていた。
月曜に出勤させられたことに対してだけではない。収録のためのロケハンがあることも、収録の日付も、収録のために準備する物も、収録当日のスケジュールも、何もかもの情報が前日、酷い時は当日に共有され、少しも計画的に動けないことに対して苛立っていた。今思えば、振り回されて疲れ果てていただけなのかもしれない。7月の予定はこれのせいでほとんど何も立てることができなかった。(正確に言えば元々立てていた友人たちとの予定を頭を下げて延期してもらった。)
収録の前日準備が完了したのに一向に帰ろうとしない先輩たちにまた苛立ちながら退勤し、なんとか終電に乗り込む。彼らにしてみれば始発で来ても間に合わないため会社に泊まってしまうのが合理的で効率的な手段なのだろうが、泊まる気もなく明日に備えて早く寝たい後輩の気持ちを少しは汲んでくれてもいいのではないだろうか。
まあ文句を言っていても仕方ない。乗り換えのために階段を上り改札を通る。終電近くになるとやはり電車の本数も少なくなり、たった一駅乗れば最寄りに着くというのに10分も20分も待たされることになる。
絶対にもっと早く帰れたなと頭の中で止まらない愚痴をどうにか止めようとした時、猛烈にのどが渇いているのに気付いた。思えば朝からまともに水分も、なんなら飯も食っていなかった。
ふらふらと自販機に近寄りソルティライチを購入した。普段なら160円もする飲み物は買わないが、今日ばかりは自分へのご褒美だ。
さっそく喉に流し込む。…うまい。喉が潤う。疲れている体の隅々までソルティライチが駆け巡る。ここまでソルティライチをうまいと思ったのは初めてだ。
電車が来ない。しれっと遅延している。勘弁していただきたい。私は早く帰りたいんだ。
ようやく来た電車に乗り込んだが、遅延したことへの謝罪のアナウンス等は一切なかった。
まあ、そんなもんか。