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演劇脚本「眠れる”ガキ”を取り戻せ!」
2024年9月1日に劇団がらくたトースターの公演「ぼくらのがらくたvol.1」にて上演した脚本です。
(https://youtu.be/VEvng6_ub80?si=5QNAzWsA-uFRGUKQ)
あらすじ
しがない営業マン山野は、いつもの帰り道で幼馴染の明星と再会するも、彼女は気を失ってしまう。かつての幼馴染たちが集まり、倒れた明星を囲って思い出話に花が咲いて…?
・舞台
真ん中に箱が二つ。
・山野の部屋。下手側が玄関
・竹藪
・登場人物
明星:活発ないたずら女子。幼馴染たちを呼び寄せるも、竹藪で気を失う。
山野:くたびれ営業マン。かつては明星と肩を並べるいたずら小僧だった。
谷川:アホ男子。介護職員。元軽音部。
海原:おとなしそうに見えて意外といたずらもする女子だった。大学進学後教師に。
男:近所のおっさん。生徒指導の五十嵐先生。
【OP】
山野 お先に失礼します…
下手からスーツ姿、鞄を持った山野
山野 明日も残業だな……。…ご飯どうしよう…
電車に乗り込み、吊革につかまる
電車を降りる山野
山野 社会に出てもう三年も経つのか…。はぁ…
山野、上手へ歩き始める
鈴のSE
明星、下手から登場
明星 ずいぶんくたびれてるじゃないか~
山野 …え?
振り返る山野
明星 ヤ~マちゃん
山野 ホシ…?!
明星 …久しぶり~!
山野 …お前、ホシじゃないか! 久しぶりって…この前も…あれ?
明星 君たちに見せたいものがあるんだ~。ついてきてよ。
山野 え…? ちょ、おい!
明星、下手に退場
山野、明星を追うように退場
二人、上手入り
山野 はぁ…はぁ…おい、ホシ…待てって…
明星 ヤマちゃん~、体力落ちた~?
山野 そりゃな…普通の社会人はこんなに走る機会なんてほぼねえんだ。ホシが衰え知らずなだけだろ…そもそも、こんなとこに何の用があんだよ
明星 だから言ってるだろ? 見せたいものがあるって
山野 なんだよ見せたいものって
明星 ……この竹藪、みんなでよく走り回ってたよね、ウミちゃんとタニと四人でさ
山野 そうだっけ? そんな昔のこと。
明星 ……やっぱりそうなんだね
山野 ? なんか、言った?
明星 いいや! なんでもないよ!
山野 早く出ようよ、こんなとこ入ったら通報されちゃうよ。それに神隠しにあうって昔から…
明星 チッチッチ…。ヤマちゃん、人間様が足を踏み入れちゃいけない場所なんてないんだよ。月だって歩いてんだから。
山野 人間の悪いところが出てる…
明星 確かこの辺に…
山野 万一にもなんかあったらどうすんのさ…
明星 万一なんて考えるから起こるのさ! あ、あった…!?
明星、何かを見つけるも手に取ると倒れる
山野 ホシ? おい、おい大丈夫か!? しっかりしろ!!!
明星に駆けよる山野
暗転
【シーン➀ 再会…?】
明転
明星、箱の上に横になっている
山野、スマホで見ている
谷川下手から登場
谷川 あ、引くのか。ヤマちゃん!
山野 タニ!? どうして?
谷川 ホシちゃんから連絡があってさ
山野 ホシから?
谷川 て、あれ? ホシちゃん?!
山野 ああ…急に倒れてさ
谷川 そ、そうか…それにしても…綺麗な顔してるな…。これ…死んでるんだぜ
山野 死んでねえよ! 心臓動いてるから!
谷川 確かに特に傷もないな…。でも流石に救急車とか呼んだ方がいいんじゃ?
山野 それが…
スマホを見せる山野。
山野 何回やってもかからないんだ
谷川 え、ヤマちゃんチ圏外なの? 不便な家~
山野 そんなわけないだろ。今までなかったよ
谷川 それにしても、急に呼び出すなんて何の用だったんだろう…
山野 「君たちに見せたい物がある」って言ってたよ。
谷川 見せたい物…?
山野 ウミちゃんにも連絡したいんだけどなぜか繋がらねえからな…。ホシが連絡してんのか…?
谷川 ウミちゃん…?
海原、下手登場
海原 お邪魔します
山野 ウミちゃん!
海原 ヤマちゃん!
山野 やっぱりホシから連絡が?
海原 そうなの、ヤマちゃんも? あれ?
山野 ああ。タニもホシから連絡が来たって
海原 タニ?
谷川 …あ~、ウミちゃん? 久しぶり、へへ…
山野 なんでそんな感じなのよ。え、まさか覚えてないの?
海原 は、はは………はぁ…
山野 完全な愛想笑いだ。え? ウミちゃんも覚えてない?
海原 いやいやいや、そんなそんなまさか…
海原、言いながら玄関に後ずさり
山野 言ってることとやってることが一致してないよ。危ない奴じゃないから。中学からの、いや小学校からの幼馴染の仲良し四人組だろう俺たち?
谷川・海原、悩んだ格好で固まっている
山野 うんともすんとも言わなくなったか?
谷川 …うん
山野 じゃあせめて「すん」と言ってほしかった
海原、下手で玄関をガチャガチャ
山野 何してんの何してんの何してんの。玄関の開け方も忘れたか?
山野、玄関を開けようとする
山野 あ、違う本当に開かない! え、なんで? 鍵は!?
その間に中央で谷川と海原がにらみ合う
山野 おい何してんだ、逆に仲良いだろお前ら。覚えてるだろ
なぜか走り回り始める二人
山野 人の家で走り回るなぁ! やめなさいホコリが舞う! 人が寝てる周りを走り回るな!
谷川、海原、顔を見合わせ止まる
谷海 ホシちゃん!
山野 お前は一回見ただろタニ
海原 綺麗な顔してる…
谷川 ああ、そうだね
海原 これ…
谷海 ……死んでるん…
山野 だから死んでないからぁ! 忘れてなんかないんだろ?
谷川 ああ、まあね、へへ…
海原 へへ…
山野 本当に忘れてたの…?
海原 倒れてどれくらい経つの?
山野 もう一時間くらい
海原 目覚ますといいけど…
山野 うん…。
谷川 ホシちゃんのことだし、きっと得意のいたずらだよ。気づいたら復活してるんじゃない?
山野 だといいんだけど
海原 確かに、こんないたずらばっかりしてたんだから
山野 そうだっけ?
海原 そうだよ! あれってヤマちゃんが先にしかけてたんだっけ?
谷川 あ~ヤマちゃんがホシちゃんを転ばせた時か
回想
明星、箱から落ちて中央に倒れる
山野、それと同時に足払い
山野 うりゃあ! やりぃ!
海原 大丈夫!?
海原、明星に駆けよる
山野 ハッハー! こないだのお返しだぁ!
谷川 またぁ? 今度はなにされたのさ
山野 授業中居眠りしてた俺の肘をちょっとずつずらして机から落としやがった! よりにもよってあの五十嵐の授業でだ!
谷川 じゃあ、ヤマちゃんが悪いんじゃ?
山野 やかましゃあ! だが、これでようやく俺の方が一枚上手だと証明できた! なあホシ?
明星 ……。
山野 ん? ホシ?
海原 ホシちゃ~ん?
谷川 当たり所悪かったんじゃない? 躍起になって加減を忘れるから…
山野 バカ野郎、俺がそんなお前みたいなヘマするわけねえだろ! お、おい、ホシ、ホシ?
明星 バァァ!(山野を脅かす)
山野 だぁぁ!?(腰を抜かす)
明星 一回転ばせた程度であたしに勝った気になってるようじゃまだまだだよ~? ヤマちゃん
山野 このやろぉ!
海原 やめときなよ。同じいたずらっ子でもより悪名高いのはホシちゃんの方なんだから
山野 くそぉ、俺だって悪名轟かせているのにぃ!
谷川 なんで悪名で対抗するのさ…
明星 そんなヤマちゃんに朗報です。あたし、また良いいたずら思いついちゃったんだ~
山野 なに!? 聞かせてくれ!
海原 ライバル視してるわりに従順すぎるよね
谷川 悪だくみには目がないからね。ま、僕らもだけどさ
山野 おお! 聞いただけでわくわくしてきたぜ!
明星 でしょ? そうと決まれば
山野 早速準備だ! 行くぞタニ!
谷川 おう!
明星 ウミちゃんもね!
海原 もう、また怒られるのはごめんだよ~?
箱の周りを走る四人
照明フェードで戻る
四人、回想前の位置に戻る
【シーン② 今と昔】
山野 あ~そういえばそんなこともあったかな
谷川 なんなら毎日こんな感じじゃなかった? 放課後はいつも四人でいたずら三昧、もちろん首謀者はホシちゃんでさ
海原 ノリノリでいたずらしてたくせに覚えてないの~?
山野 いやまさか、思い出してきたよ
海原 楽しかったなぁ、あの頃は
谷川 そうだね。ただその瞬間を楽しむことに全力だったな
山野 …今は楽しくないの?
海原 うん…そりゃ、あの頃と比べちゃったらね
山野 何の仕事してんだっけ?
海原 もう、前も言ったじゃん。学校の先生だよ
谷川 へー、楽しそうだけどね、子どもたちに囲まれてさ
海原 確かに楽しいことも多いけど、それ以上に業務も多くてさ。残業だらけだし
山野 なんかよく聞くな、教員も人手不足だとか。
海原 新しい学校に赴任したんだけどね。そこでどうにも馴染めなくて
山野 馴染めないって、クラスに?
海原 うん…。やっぱり何か雰囲気っていうか、空気っていうか…
山野 学校変わると生徒も変わるもんねぇ
海原 そうそう、そうなの。クラスの子たちの話についていけないし、職員室でも他の先生たちと話せてなくて
山野 あ~あるよね、新人に気を遣う余裕もないみたいな
谷川 でもあのウミちゃんが仲良くなれないとは…
山野 確かに。友達多いイメージある
海原 そうかなぁ、でも最近どうやって人と仲良くなってたか、わかんなくなっちゃって
二人 あ~~~~
海原 わかる?
二人 わかる~~~
谷川 社会人になってからわかんなくなっちゃったな
山野 やっぱ職場だと、どこまで仲良くしていいのかもわかんないよね
海原 なんか不思議だよね、子どものころ当たり前にできてたことなのに、大人になったらできなくなっちゃうの
山野 気にすることが増えちゃったよね。視野が広くなったってことかも
谷川 大人になったね~、ヤマちゃんなんかまさに無鉄砲だったのに
山野 俺が?
谷川 そうだよ~。思えばホシちゃんたちと最初に会った時もそのせいだったし
山野 いや、それは覚えてるぞ。あれタニ、お前のどんくささがきっかけだ
谷川 そうだっけ?
山野 ああ、あれはある日の学校の帰り道…
回想
明星起き上がり、箱の裏へ
海原も箱の裏へ
下手から声
男声)コラ―――!!! またお前たちかぁぁ!!!
谷川 げげ! あのおっさんまだ追ってきてる!! なんでバレてんだ!?
山野 お前がずっこけてでかい音鳴らすからだろうが! おっさんの庭のみかんをいただくだけだったのによぉ!
谷川 いただくっていうか、盗みに入ったんだけどね
山野 だからこうして逃げてんだろうがぁ!! どこか隠れる場所は…
明星 ヘイ! こっち!!
山谷 うわぁ!
山野・谷川、箱の裏に引っ張られる
男 あの悪ガキども、どこに行った? 今日だけで二回も庭に入られとる! いったいこの町の教育はどこまで落ちぶれとるんだ!
ぶつくさ言う声が小さくなる
谷川たち箱から顔を出す
谷川 た、助かったぁ…
山野 ありがとう! 命の恩人だよ!
明星 あそこのおっさん家のみかん盗むなんていい度胸してんじゃん。友達になろうよ
海原 ちょっとホシちゃん
明星 いいじゃんウミちゃん、友達は多い方が楽しいんだよ
山野 あんたら名前は?
明星 あたしは明星。ホシって呼んでよ。あのみかんの盗み方の必勝法教えてやろうか?
谷川 何!? 必勝法があるのか!?
山野 そんなもん自分で見つけるからいい。俺は山野、こっちのアホは谷川
谷川 誰がアホだって?!
山野 その通りだろ! だいたいさっきも…
明星 へえ~、あたしからしたら二人ともアホで間抜けだけど
山谷 なにぃ!!
三人 ああん!?
海原 あ~、ちょっと~?
三人 ああん!?(海原に)
海原 そろそろここから離れた方が…
上手側から声
男声)見つけたぞガキどもぉぉお!!!!
山谷 げげぇ!?
明星 必勝法、それは! おっさんより速く走って逃げ切ることだぁ!!!
山野 必勝法でもなんでもねえじゃねえかぁ!!!
箱の周りを走る四人
照明フェードで戻る
四人、回想前の位置に戻る
谷川 きっかけ僕かなぁ? ヤマちゃんじゃない?
山野 些細なこと気にしてると将来禿げるぞ。しかしまあ、今思えばどうしようもない出会いだな
谷川 禿げてたまるか
海原 ホシちゃんが私たちを繋げてくれたんだね
山野 あの上から目線な感じ、イライラしてきたぜ
谷川 ヤマちゃんもホシちゃんと出会ってから目の輝きが変わったもんね
山野 そうか?
海原 二人が目を合わせたらいたずらの合図、怒られた回数で競い合ってたっけねぇ
谷川 まさに理想のライバルって感じ?
山野 もういいってこの話! そういうタニはどうなのさ
谷川 なにがよ
山野 最近、楽しくやれてるの?
谷川 ああ、まあぼちぼちってとこかな。今、介護系の仕事してるんだけどね
山野 へ~あのできそこないのタニが?
海原 あの木偶の坊のタニくんが?
谷川 酷い言われようなんですけど…
山野 まあ、割と向いてると思うよ?
谷川 取り返せてないよ?
海原 介護って老人ホームとか?
谷川 まあ、そんな感じだね。資格の勉強もしなきゃで大変だわ
山野 勉強はタニに一番向いてない行為だからなぁ
谷川 学生時代とは違うって! コツコツ頑張ってるんだから!
海原 でも介護って大変そう…言うこと聞いてくれないとか
谷川 確かにそういう時もあるけど、自分の倍以上生きて、いろんな経験してきた人たちの話は、聞いていて退屈しないよ。そういう面では、長生きするのも悪くないかもって思えるっていうか
海原 いつも生徒相手にしてるから想像つかないなぁ
谷川 確かに真逆かもね。職場で馴染めてないのは似てるかも
山野 え、タニも?
谷川 うん…まあね。でも仕事自体は好きだよ。みんな優しいし、それこそ、爪の垢煎じて飲ませてやりたいくらいだよ、どっかの体罰教師にさ
海原 うわ、中学の時の五十嵐先生でしょそれ
谷川 そうそう生徒指導の
山野 確かに、あいつひどかったもんな
海原 教師になってみてわかったけど、女子の体に平気で触ってきて、男子にも言葉より先に拳が出てた五十嵐はマジで教師失格だわ。教師どころか人間失格だわ
山野 そうだな、思い出すなぁ憎き五十嵐との攻防…。何度拳骨を喰らわされたことか…
谷川 学校中の生徒からの反感を買ってたもんな
海原 だからこそあの日、私たちが立ち上がったんでしょ!
山野 あの日?
海原 そう! 学校中の生徒たちが一丸となって五十嵐への復讐を成し遂げた、あの日!
回想
明星立ち上がり、他三人は箱の裏へ
上手から男登場
男 騒がしいから来てみれば、またお前か明星! 他の連中は一緒じゃないのか?
明星 …
男 お前たちのようなバカは、学校の邪魔なんだ。先生たちと優秀な生徒たちにとって邪魔なんだ。バカに使う時間はないんだ。それに性懲りもなくまた竹藪に入ろうとしたらしいな? 何度も言うがあの竹藪はな…
明星 今だ!!!
男 はぁ?
三人 おりゃあ!
山野が男を羽交い絞め
谷川、男のヅラを取る
三人でカツラをパス回し
男 な、何すんだてめえら!
明星 ヅラだって噂は本当だったんですね、五十嵐先生~
男 明星ィ~
三人 だーはっはっはーい!
明星 これまであたしたち生徒が受けてきた雪辱を果たしてやる! へいパス!
明星にヅラをパス
明星 校舎十周の刑だ! これでもまだ甘い方だよ、そぉーれ!!!
明星、下手にヅラをぶん投げる
男 覚えていやがれええ!
男、下手へ退場
四人 ナイストラ~イ!
箱の周りを走る四人
照明フェードで戻る
四人、回想前の位置に戻る
海原 私たちの手を離れたカツラは生徒たちの見事なパス回しで本当に校舎を十周したと
か
山野 相当恨まれてたんだろうな五十嵐。
谷川 あれは正直スカッとしたな
海原 いいや、まだ足りないくらいだよ
山野 どこまで恨みが深いんだ
海原 若い芽を摘むのは許されない…
谷川 まああれ以降で五十嵐も丸くなったし? 十分効いてたでしょ
山野 そういえば、あれもホシの発案だったな。尊敬しちゃうな、行動力と人を動かす力。海原 珍しい、ホシちゃんのこと素直に認めるなんて
山野 うるせえ、俺にもいろいろあるんだよ
谷川 ヤマちゃんは仕事どうなの?
山野 俺は…なんてことないサラリーマンだよ。毎月営業のノルマに追われて、お客様にも
上司にも怒られて、毎日帰ることと飯を食うことだけを楽しみにしてる。それなのに残業三昧、冷食三昧だよ
谷川 そっか…。
山野 なんだかね。子どもの頃って大人って自由で羨ましいって思ってたけど、大人の方が縛られてるものが多くってやんなっちゃうな
【シーン③ 復活と曖昧な思い出】
ホシ、起き上がる
山野 あの頃、楽しかったな
谷川 …うん、とってもね
海原 みんなといたら、ずっと幸せだった
山野 あの頃も怒られてばっかりだったけど、それでも毎日に希望が溢れてた。きっとこれからも幸せが待ってる、楽しみが無限に続く、そんな漠然とした感情を信じられてたよな…
三人 ……
明星 なんだよみんな、すっかり「大人」になっちゃってさ~
三人 え?! ホシちゃん!?
明星 へへ~! どう驚いた?
山野 ホシ、大丈夫なのか!?
海原 全然起きないから心配したんだよぉ?
谷川 ほんとだよビビったわ~
山野 お前ら真っ先に死んだことにしてなかったか?
谷海 いやぁ~?
明星 この私が死ぬわけないじゃないか~! いたずらだよ、いたずら。まったくみんなで話してるってのにしんみりした空気になっちゃってさ~。「昔はよかった」「あの頃は幸せだった」じゃないんだよ! 今をどう楽しむかでしょ!
海原 ホシちゃん、流石だなぁ、超前向き! あの頃と変わらないね!
明星 それほどでも~? そんなことより、ヤマちゃん!
山野 なんだよ…
明星 なんだその顔は、その目は、その考えは~! あの頃の輝きはどこへ行ったんだよ!
山野 そう言われても…
明星 中学の時だけじゃない、楽しみはいつでもあっただろ! 思い出せ、高校の文化祭!
回想
バンドの音響
山野 高校の文化祭?
明星 そうさ、みんなで楽しく見に行ったじゃないか。タニのバンドのライブ!
谷川、バンドのマイム
海原、音楽にノる観客の動き
山野 タニがバンド…?
明星 最初はびっくりしたよな、バンドだってのに一人で出てきたからさ
山野 いや無理があるだろって…!
谷川、音響に合わせてドラム叩きながらギター弾きながら歌うような動き
明星 頑張ってたなあ、タニ
山野 どうやって成り立たせてるのそれは!
明星 フーーー!!!
音響終わる
タニ、演奏し終わる
谷川 今日は軽音のライブきてくれてありがとう
海原 いえーーーい!!
谷川 バンドのメンバー紹介します!!
山野 しなくていいだろ
谷川 ギター!! ベース!! ドラム!! そしてボーカル!!!(それぞれにSE)
山野 わかったって全部タニだから
海原 フーーーー!!!
谷川、拍手を受けて礼をし箱の裏へ。海原も箱の裏へ
照明、明星と山野だけを照らす
明星 感動したなああのライブ…
山野 ありえないことだらけだったって。そもそもタニのバンドなんて…
明星 まだ楽しくないって言うのかい??
山野 いやそうは言ってないけど!
明星 それならこれはどうだ? 同窓会での五十嵐のスピーチを邪魔したとき!
山野 同窓会?
明星 続いては、五十嵐先生よりご挨拶です
拍手SE
上手も照らされ、男入場
男 ご紹介に預かりました五十嵐でございます。数学の授業で、または生徒指導にて関わった生徒のみなさんもいるかもしれません。
明星 もっぱらアタシらは生徒指導だったな
山野 大概お前のせいだろ
男 さて、スピーチとスカートは短い方がいいなんて思っているんですが、
山野 最低の滑り出しだ、コンプラのかけらもない
明星 なあ、五十嵐が丸くなったって話本当だと思うか?
山野 はあ?
男 この学年の皆さんには大変に感謝しているんです。私の考えを変えるきっかけになる出来事がありました。
山野 お?
明星 まさか…?
男 ある日いつものように生徒指導をしている際、生徒たちから仕返しをされたことがありました。
箱の裏の二人、ざわざわする
男 あの時初めて実感したのです。生徒はやり返してこないストレス発散の道具ではなく、一人の人間であると。だからこそ、やり返されないいいラインで嫌がらせをしなければならないと。
山野 おい、誰が丸くなったって?
明星 アタシも同感。リバイバル公演、行くよ!
照明、明星の合図で通常の回想のものに
谷川・海原が男にとびかかる
男 フン!
回避する男。転ぶ谷川・海原
谷海 わぁ!
山野 なに!?
明星 奴も伊達に歳を食ったわけじゃなさそうだな!
男 明星!?
明星 うりゃ!
男 ぬわ…!?
明星、男のカツラを奪う
明星 ふっふ~ん
男 何を勝ち誇っているんだ?
男、カツラの下にも髪の毛が
明星 何ぃ!?
山野 対策済みだと!?
男 同じ手がそう何度も効くと思うな! 私は生徒指導部長、鬼の五十嵐だぁ!
四人 うりゃあ!
四人とびかかり、男と組み合いになる
途中、なぜか谷川がタコ殴りに
男はカツラを回収し上手へ
谷川 いや本物あっち!
男、高笑い
谷海 待てー!
谷川・海原、上手に逃げる男を追ってハケる
山野も追おうとするが中央で止まる
山野 いや待てよ、これ同窓会でやったのか? 俺らが?
照明フェードで切り替わり、中央のみが照らされる
明星 どうよ、楽しいでしょ?
山野 楽しい…、いや確かに楽しい、楽しい記憶だよ。でも、なんかおかしいよ。これって本当にあったことなのか?
明星 何より! アタシたちはあの時誓ったじゃないか
山野 あの時?
明星 ああ、中学を卒業する時、それぞれの夢を叶えるって!
回想
明星は後ろを向いている
中央に山野、上手側下手側にそれぞれ谷川、海原入場
谷川と海原が喋るが、照明は山野にのみ当たる
谷川 俺、介護士になるために勉強頑張るよ
海原 私は先生になって子どもたちを笑顔にしたい
山野 …違う
砂嵐のSEフェードインし、じわじわ大きくなる
谷川 俺、介護士になるために勉強頑張るよ
海原 私は先生になって子どもたちを笑顔にしたい
山野 …違う、こんなんじゃない…
谷川 俺、将来は、高校ではバンドを、勉強の介護をやろうと絶対に有名になるからおもってるんだ
海原 私はこどもたち、先生になって、やりたいな。演劇を自分じゃない誰かを笑顔が演じてみたい
山野 …俺の記憶は…
砂嵐のような効果音が消える
鈴のSE
照明が三人に当たる
谷川 俺、高校ではバンドやろうと思ってるんだ。絶対有名になるからさ
海原 私は演劇をやりたいな。自分じゃない誰かを演じてみたい
山野 …俺には…俺には夢がない。でも…ホシの分まで生きたい…!
明星、倒れる。
照明戻る
海原 ホシちゃん!
谷川 どういうことだよ、ヤマちゃん。
山野 中学の卒業式に、ホシはいなかった…あいつはいつからいなかった…?
谷川 な、何言ってんのさ
山野 二人も何となく気づいてたんだろ? この違和感に
谷川 それは…
山野 みんなとずっと一緒に過ごしてたはずなのに、知らない思い出がある。知らないだけじゃない、まるでついさっき作られたようなハリボテみたいな感覚…。小学校からずっと仲良くて、いつも一緒にいたのに、そんな親友のバンドも、同窓会も行かなかったわけがない。空いた穴を無理やりふさがれてるみたいだ
海原 確かに…
谷川 ウミちゃんのことも忘れかけてた…
三人 …
海原 じゃあ今まで喋ってたホシちゃんは…?
山野 あいつは…
谷川 ホシちゃんが見せたい物があるって言ってたんだろう!? 何か、心当たりは?
海原 そうだよ! そもそもホシちゃんはどこで倒れたの?
山野 ………竹藪だ
谷川 竹藪!? あの立ち入り禁止の?
海原 どうしてそんな危ないとこ…
山野 ……そうだ! だって俺たちあんな悪ガキだったんだ。入るなって言われてる場所におとなしく入らないはず…ないじゃないか…!
玄関の鍵が開く音
三人 !?
山野 竹藪に答えがあるんだな? ホシ、そうなんだな
海原 ヤマちゃん、行こう
谷川 思い出の答え合わせだ
山野頷く
三人、下手に退場
明星 …。
明星、起き上がり上手に退場
照明、フェードアウトで暗転
【シーン④ 竹藪の真実】
明転
上手から三人登場
谷川 どのあたりだった? ヤマちゃん
山野 確かこのあたりだ…ん?
箱の裏のタイムカプセルを拾う
海原 これって…
山野 ホシの手紙だ……読むよ
谷海 (頷く)
山野 「十年後の悪友たちへ。これを読んでるということは、私はもうこの世にはいないのかな。私の余命が残り少ないって、伝えた時のみんなの顔忘れられないな。こんなに悲しんでもらえるなんて…」
谷川 ちょ、ちょっと待ってよ。ホシちゃんの余命って…。じゃあやっぱり、さっきまで一緒にいたホシちゃんは…
山野 それは…
明星 見つけてくれたんだね
三人 !?
鈴のSE
明星下手登場
山野 ホシ…
明星 十年ぶりだね、みんな。ごめんね。回りくどい再会の仕方、しちゃったね。
谷川 十年ぶりって…
山野 お前が謝るなんて珍しいじゃないか。
海原 ヤマちゃん
山野 教えてくれ。十年前、俺たちに何があった?
明星 …あの日は、いつものようにみんなで集まって、この竹藪で走り回ってた。走り疲れて、みんなでジュースを飲んでる時に、アタシが言ったんだ。もうすぐ、アタシが死ぬってこと。
回想
海原 え…?
谷川 何言ってるのホシちゃん?
山野 おいホシ…お前にしては面白くない冗談だな
明星 本当なんだ。きっと中学卒業まで生きられない。みんなと一緒に走り回るのも、もう最後になるかも。
山野、明星に掴みかかろうとする
谷川止める
谷川 ヤマちゃん!!
山野 ふざけんなてめえ、冗談だと言え! 死ぬなんて許さねえ、勝ち逃げなんて、許さねえぞ…!
海原 ヤマちゃん、一番つらいのは、ホシちゃんだよ…
山野 なんでそんなこと隠してたんだ…! いつも一緒にいるのに気付けなかった自分も許せねえ…!
明星にのみ照明
明星 まさか自分の告白でここまで親友たちが感情を動かしてくれると思ってなかったから、すごく嬉しかったんだ。アタシの中でのみんなみたいに、皆の中でもアタシの存在が大きくなっていたんだって。ウミちゃんの提案でその場でタイムカプセルを埋めることにしたんだ。
海原 みんな、書けた?
谷川 急に言われても書ききれないよ…
山野 ホシは?
明星 うん。書けた。
山野 じゃあ、埋めよう
箱の裏に隠して埋める
明星 みんなありがとう
谷川 開けるのは十年後、かな
海原 うん。二十五歳だね
明星 アタシ、生きてるかな
山野 絶対生きてる…ホシが死ぬわけ…ない
明星 そうだね…、そんなのアタシが一番そう思いたいよ…。もっとみんなと一緒に遊びたいよ、一緒に高校に行って、大人になって、同窓会出て、やりたいこといっぱいあるのに。どうしてアタシは生きられないの? みんなとずっと生きていたいよ…!
鈴のSE
明星のみに照明
明星 その時、何かに共鳴するようにあたりが光ったと思うと、アタシは一人で立っていたんだ。向こうからスーツで歩いてくるヤマちゃんが見えて、自分が何をするべきなのか分かった気がした
回想終わり
照明戻る
谷川 つまり、十年前のあの日から…?
海原 でも私たちの記憶が曖昧なのは?
明星 それもこれもきっと竹藪の主のいたずらじゃないかな?
山野 神隠し、か
明星 でもみんなあの頃とすっかり変わっててびっくりしちゃった。ウキウキでいたずら三昧だったときの輝きがすっかりさ
山野 大人は考えることが多いんだよ。
明星 ヤマちゃん、だからこそさ…
明星、ハコに飛び乗る
明星 眠れる悪ガキ魂を取り戻せ! つまらない毎日に押しつぶされるんじゃなく、あの頃のアタシたちみたいに、つまらないなら自分からぶっ壊して、楽しくしちゃえ!
山野 …そうだな…、それでこそ俺たちだな
明星 みんなならきっとできるはずだよ
谷川 ホシちゃんに言われると自信出てくるな
海原 ホシちゃんにはいつも励まされてばっかりだね
明星 へへ…
鈴のSE
照明不安定になる
明星 そろそろ時間みたい
谷川 え…?
海原 ホシちゃん…
明星 最期の瞬間をまたみんなと過ごせて幸せだな、アタシは。竹藪の主に感謝しなきゃ。
山野 まさか、ホシ!
明星 …もう少し、生きてたかったな…。みんな、大人になったね
鈴のSE
暗転
ホシ退場
山野 ホシ…ありがとう…!
フェードで暗転
【ED】
フェードで明転(夕焼け)
谷川 …未だに信じられないな、ホシちゃんがこの世にいないなんて
海原 うん…
山野 十年前のあの日、俺たちはホシと最後の日を過ごしてたんだ、あの竹藪で
谷川 確かに記憶が曖昧になってたけど、あんな大事なこと忘れちゃってたなんて…
山野 ホシも言ってただろ。忘れてたんじゃない、竹藪の主のいたずらだって。
海原 …なんか幸せないたずらかも。ホシちゃんみたい
谷川 でもさぁ、せっかく楽しかった青春の思い出がなかったって言われるのは悲しいよホシちゃんと過ごした青春が本当はなかったなんて
山野 …確かに俺たちはホシとの思い出を失った。でも、これでやっとホシの死を受け入れられたんじゃないかな。十年も前に俺たちのことを一番大切に思ってくれてた親友の死を。ホシ自身も…
海原 …うん、きっとそうだよ。だってホシちゃん、とっても楽しそうだった
谷川 つまらない毎日をぶっ壊すか…。ぶっ壊そうよ! 僕らで!
海原 どうやって?
谷川 バンド組むなんてどう?
山野 堅実な壊し方だなぁ
海原 いいね、やってみたかったんだ~
谷川 何やりたい? 俺はどれでも担当できるよ~
海原 私ボーカルやってみたい!
谷川 いいじゃん! ヤマちゃんは?
山野 俺は…
海原 何よ、やりたくないの?
山野 いや、やりたいよ、でも…現実的に、難しくないか?
谷川 それは…
山野 やりたいのはやまやまだけど、毎日仕事で時間がないし、休みは大概ヘトヘトだよ。それに俺らで休みを合わせるのだって…
海原 確かに…。
三人 …。
谷川 いや! だからこそだよ!
ED曲流れ始める
山野 え?
谷川 そんな時間がないから、疲れてるからってなにもしなかったら、何もできないまま時間だけが過ぎちゃうよ! 何より…ホシちゃんになんて言われるか
海原 化けて出るかもよ~
山野 よせよ…。でもそうだな、ホシに怒られちゃうな…前向かなきゃ。
谷川 そうこなくっちゃ!
海原 みんなお休みいつなの? 来週の土日はどう?
谷川 さっそくだねぇ、でもちょっとシフトがな
山野 俺も、接待のゴルフがあるな…
海原 そっか…
谷川 再来週ならたぶん行けるな、希望休も出せるし
山海 いやいやいや
山野 申し訳ないよ、だったら俺が二人の合うとこで有給取るよ
谷海 いやいやいや…
三人手帳などを見ながら退場
終