そうだ、ネイル、行こう。
春の始まりは、1年で最も複雑な季節だ。
卒業式ではしゃぐ大学生の表情には、新しい生活への希望が満ち溢れている。
一方で、私はこの1年、何か成果を出せたのだろうか、、、と自問するようになって何年も経つ。
ふと顔を上げると、街行く人たちも、コートを脱いで、パステルカラーの空気を纏っている。
自分だけが冬に取り残されているような気分になって、春に追いつこうと心が焦った。
そうだ、ネイル、行こう。
***
ネイルサロンに来るのは1年振りだった。
ネイリストさんに、慣れた手つきで丁寧にケアしてもらうと、それだけで爪が生き返って、深呼吸をしたように見えた。
選ぶ色やデザインには、その時の気分が顕著に反映される。
疲れている時は落ち着いた色を選んだり、楽しいイベントの前は明るい色にして、ラメやストーンを使ってみたりもする。
今回は、ラベンダーのグラデーションに、左右2本ずつラメを散りばめたデザインを選んだ。
女はお金がかかるというけれど、飲み会1回分の料金で、自分の体の1%にも満たない面積を磨くだけで 、3週間のご機嫌が手に入るなんて、なんて単純で経済的な生き物だろう、と思う。
店を出て、手をかざすと、ラベンダーが夕暮れの空の色に重なった。
春は、こんな身近なところにあったんだ、と思った。
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