プロ麻雀界近代史 日本オープン設立と決勝進出
【猫をもらった話】
2002年だったと思う。
作家の群ようこさんから電話があった。
当時、群さんとはよく麻雀を打っていたのだが、その時の電話は麻雀のお誘いではなく「黒木くん、猫飼わない?」という話だった。
群さんは一緒に卓を囲んだだけではなく、私の厚かましいお願いを何度も聞いてくださった。「モンド21(現MONDOTV)」の対局番組のゲスト解説や、麻雀大会に出てもらうなど、様々な場面で助けていただいた。一方的にお世話になっている上に、私と滝沢和典にTシャツをプレゼントしてくださったこともあった。
麻雀を打っている時も群さんは本当にマナーが良い。誰でもツイていない時はアガれないのだが、それが続くと辛そうな表情が出たり、ちょっとマナーの悪い人だと愚痴を言ったりもする。中には、あからさまに態度が悪くなる人もいるのだが、群さんは常にニコニコしていた。半荘1回、丸々アガれなくても誰かが三色やチンイツをツモったら「わあ、綺麗な手」と言って小さく手を叩く。そしてご自身がアガれたり、トップを取ると素直に喜ばれるのだが、その姿が本当に嬉しそうで、なぜか私まで「群さんがトップでよかった」という気持ちになった。
年下の私がこんなことを言うのは失礼かもしれないが、とにかく可愛らしい人なのである。
その群さんから「猫を飼いませんか」と言われた。
実家にも猫はいたし、ある程度、扱いには慣れている。
犬と違って手はかからないのだが、それでも命のあるものを預かるわけで、少し悩んだ。
一人暮らしで仕事は忙しく、家には寝るために帰るようなもので、朝は遅いが夜も遅いという生活だった。不規則で、昼も夜も盆も正月もないという状況だった。
そんな自分が猫など飼っていいものだろうか。
その猫は怪我をしていたところを、女優のもたいまさこさんに保護され、病院に連れていかれた子だった。群さんの作品を読んでいる方はご存じだと思うが、もたいさんと群さんはお友達で隣に住んでいて、それぞれ猫を飼われていた。だからもたいさんも群さんも「この子を飼おう」というのは難しかった。
猫を多頭飼いすることは珍しくはないのだが、相性が合わなければダメだ。もとからいる子を優先するのは当然で、そこに合わない子が来て両方が病気になったりしたら大変である。
しかもその猫はすでに大人で、体もそこそこ大きいから、私が断った場合、引き取り手が見つからない可能性もあった。だったら、私のような「あまり良くない飼い主」が手をあげてもいいのではないかと考えて、群さんに「猫、ほしいです」と連絡した。
さっそく、群さんともたいさんが猫を連れてきてくださった。
住宅街で保護された茶色のハチワレのオス猫が、超有名な作家さんと女優さんを従え、もたいさんの事務所の方が運転する高級車に乗ってやってきた。たどり着いた先は名もない貧乏な麻雀プロが住むマンションの一室である。
その状況が、なんだかおかしかった。
もたいさんは猫の顔を見た時に、直感的に「トンちゃん」と名付けたという。もたいさんは麻雀をやらない方なのだが、後から「トン」は麻雀の「東」であり「親」を表すということを知って「飼われるべきところに飼われたのだね」と、群さんと話されたのだそうだ。
トンちゃんはしばらく私の部屋を調査するようにうろうろしていたが、群さんともたいさんが帰られた後、2人きりなのが怖くなったのか、ベッドの下に隠れてしまった。
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