プロ雀士スーパースター列伝 近藤誠一 編(中編)
【酷評】
2012年、第37期最高位になった近藤誠一は西川口へ向かっていた。
CSの「MONDOTV」の麻雀対局番組「第7回モンド名人戦」に出場するためだった。
第6回大会は飯田正人が制した。緒戦にラスを引いた飯田だったが、2戦目にトップをとった。しかも、1回戦トップの土田浩翔をラスに沈めての大逆転劇だった。
収録から3カ月たたない内に飯田は亡くなった。
制作スタッフたちは、飯田の体調が思わしくないことは分かっていた。それでも、本人が「出たい」と言うからには、その意思を尊重するということで出場オファーを出した。万が一のことがあったら、その時はその時でどうにかする。そう覚悟を決めてスタッフたちも臨んだ。
第7回大会のキャスティング会議で、飯田の代わりに誰を入れるかが話し合われたが「飯田さんの跡を継ぐのは近藤さんしかいない」と、すぐに決まった。
近藤は、久しぶりに手足が震える思いで電車に乗っていた。対戦相手は、小島武夫、森山茂和、荒正義、新津潔、金子正輝、前原雄大、土田浩翔の7人である。圧倒的に自分が年下で、しかも、自分はまだ49歳だった。「モンド名人戦」の番組説明には「50歳以上」とある。いいのか? 放送が開始されてもまだ誕生日はこない。それでいいのか。
近藤は不安でドキドキしながらスタジオに入っていった。
「本当、大丈夫なんですか? と、何回も確認しましたよ。まだ50歳になってないのにって」
新宿の焼肉屋でランチをしながらの取材だったが、近藤は2杯目のビールを飲みながらそう言った。
番組の年齢についての決まりは一応あるが、そんなものよりも優先されたのが「飯田さんの跡を継ぐのは近藤さんしかいない」という制作側の思いだ。
私がそう説明すると、近藤は「その時はまだテレビに慣れていなかったし、なんか不正な感じで出させてもらっているのかと思ったんですよ」と、笑った。笑いながらも、制作の人たちの気持ちを知った近藤の目は充血していた。
よく泣くオジサンである。
【挫折】
スタジオに入った近藤は、金子、土田の最高位戦の先輩2人以外の、日本プロ麻雀連盟の4人に名刺を配って挨拶した。
最初に憧れたプロ雀士である金子。自団体の代表を務める新津。最高位戦では後輩にあたるが圧倒的先輩の土田。ミスター麻雀・小島。プロ連盟の会長である森山。副会長の荒。数多のタイトルを獲得してきたモンスター・前原。
こんな面子の中で、飯田の名代として戦わなければならない。プレッシャーを感じながら戦った近藤に、さらなる「追い打ち」がかかった。
小島と森山から、解説で酷評されたのである。
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