13本目のリーチ棒・瀬戸熊直樹最強位誕生秘話(後編)
【ツモれば裏ドラはのる】
2021麻雀最強戦決勝で瀬戸熊直樹プロが最後にアガった倍満の待ちは5-8マンだった。
先にリーチを掛けていた一瀬由梨プロの待ちも同じだった。
こんな偶然というか、運命のいたずらがあるだろうか。
瀬戸熊さんは「リーチを掛けたということはツモったらアガりますよ。そう決めていました」と言った。だからアガリ牌をツモ切って放銃ということはあり得なかったのだが、では、もし状況が違っていたらどうだったか。
それは瀬戸熊さんに聞いてはいないが、たとえば醍醐大プロと宮内こずえプロが僅差の争いをしていたら、あのリーチを掛けていただろうか。
ちょっと手が替われば三暗刻がつく。先に一瀬さんがリーチしているが、自分が彼女に放銃さえしなければ、次局の条件が悪くなることはない。
なら、確定倍満になるまでヤミテンに構えたかもしれない。
あまりこういうことは言いたくないが、もし僅差でも醍醐さんが上だったら、瀬戸熊さんはリーチを掛けやすかったと思う。ツモって裏ドラがのらなかった場合の最強位は醍醐さんだからだ。
でも、逆だったら、瀬戸熊さんに邪念が生まれる可能性がある。ツモって裏ドラがのらなければ、優勝は宮内さんだ。
そうなると、心ないというか知性が足りない人が「連盟の選手を優勝させるために瀬戸熊が八百長アガリをした」などと言う。
試合中の瀬戸熊さんに、少しでもそういう発想が頭をよぎったら、もうダメだ。研ぎ澄まされた感性の刃に小さな錆がつく。
醍醐さんは最高位戦のプロで、宮内さんは瀬戸熊さんと同じプロ連盟の選手だ。
でも、麻雀最強戦に所属団体は関係ない。出場者それぞれが「自分が勝ちたい」としか思っていない。同じ団体の人に勝ってほしいという気持ちが対局中にみじんでもあれば、その人は絶対に負ける。そういう戦いの場である。
だが、詐欺師ほど相手を信用しないのと同じで、自分が八百長の発想を持っている人間ほど、他人のそういった動向を疑うものである。
残念な話だが、一定数そういう人は存在している。
しかし、実際は違った。誰もが宮内さんが最強位になるものだと思っていたし、瀬戸熊さんがツモアガって裏ドラがのらなかったとしても、全員が納得する状況になっていた。
裏ドラ、のっていると思いましたか?
私が聞いたら「ツモるということは、のっているんだと思っていました。でも正直、1枚だと思っていたので、めくった瞬間は『あ、のってない!』だったんですよ。でもすぐに『2枚の方だった!』と思いました」と言って瀬戸熊さんは笑った。
【勝たないと思った初めての最強戦】
「ツモるということは、のっているんだ」の意味を聞いた。
瀬戸熊さんは「誤解を恐れずに言うと」と、前置きをした。
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