若手プロに知ってもらいたいこと② 魅せる麻雀とは何か(文・黒木真生)
【古田敦也氏のプロ論】
次は「プロ麻雀界近代史」シリーズの①を書こうと思っていたのですが、二階堂瑠美プロのことが話題になっている内にこのテーマをやることにしました。
「魅せる麻雀」とは、2018年5月28日に亡くなったミスター麻雀こと小島武夫プロにつけられたキャッチフレーズです。
もちろん、小島さんが自分で言ったのではなくて、誰かが付けたものです。おそらくですが、雑誌編集者かライターさんだと思います。
阿佐田哲也さんが「麻雀新撰組」を作った当時のことを書いた文章に「見せる麻雀を打てる連中、麻雀を読ませることのできる連中を育てようとした」という一文があります。この当時から、そういう言葉があったのか、阿佐田さんのオリジナルなのか分かりませんが、とにかく、未だに「魅せる麻雀」の是非について議論が続いています。
本題に行く前に、ちょっと寄り道をさせてください。
元ヤクルトスワローズの名捕手・古田敦也氏のYouTubeチャンネルを見ていて「やっぱりそうか」と思わされたことがありました。
「ホームランはギリギリフェンス超えてもホームランだし、思い切り振って150メートル飛ばしても同じホームラン。でも、遠くに飛ばせる能力ある人が、確実性を求めてフルスイングするのをやめてほしくない。遠くに飛ばす『ロマン』を捨ててはいけないと思う」
そういう趣旨のことを言われました。自分にできないことができる人を見て「プロってすごいな」と子供の頃に感動した。だから俺たちはその『ロマン』を捨ててはならない。そう言われたのです。
プロ野球界の黎明期の選手とかOBが言うなら分かるのですが、古田さんが言ったことが驚きでした。すでにプロ野球界は成熟しきっており、ファンも大勢います。
古田さんは勝ちに徹するタイプで、もっと効率主義者かと思っていました。ロマンなんかなくても勝てば人気が出るし、ファンは勝手に夢を見る。
それぐらいに思っていても成立する世界の中で『ロマン』という古臭い言葉が出てくるなんて、びっくりしたのです。
【魅せる麻雀で勝ちに行く】
古田さんのプロ論は、かなりハイレベルな話で、ものすごい化け物のようなアスリートが集まった野球界の中で、さらにすごい化け物は化け物であり続ける義務がある、という話だと思います。
だから麻雀の世界にたとえるのはちょっとナンセンスかもしれないのですが、根底にあるものは同じかなと思うのです。
見ているファンに「ロマン」を与えたい。
そういう考えが「魅せる麻雀」には詰まっていたと思うのです。
ただ、容易なことではありません。「麻雀新撰組」とは時代が違うし、ファンの考え方もぜんぜん違います。世の中がもっと即物的になってきているし、「ロマン」なんて言っても鼻で笑う人も多いでしょう。
だから若手プロの皆さんは「魅せる麻雀」なんて意識しなくて良いと思います。ていうか無理ですよ。
確かに、すでに「魅せる麻雀」を打っている人は何人かいると思います。あえて具体例は出しませんが、私が思っているだけでも、小島さん以外にたくさんいます。
ではなぜ、皆さんには「魅せる麻雀」を意識しない方が良いと言うのか。それは、彼ら全員が「(ほぼ)勝ちに行っているだけ」だからです。
だいたいのケースにおいて、普通に本気で勝つために戦っている姿が面白いだけなのです。
二階堂瑠美さんも同じです。彼女は彼女の打ち方で、最強位、プロクイーン、夕刊フジ杯と優勝してきました。
〈第11期プロクイーン優勝二階堂瑠美〉
誰も見ていなくても、いつも同じ打ち方をしています。
当たり前ですが、彼女には「こうやって打てばお客が喜ぶだろう」という傲慢さはひとかけらもありません。とにかく「勝ちたい」と思って試合を戦っているだけなのです。「勝ち負けを度外視してスタンドプレーをしている」ということは決してありません
「勝ちたい。でもファンの期待にも応えたい。それなら両方とってやる」という姿勢で戦った結果、お客さんから賞賛されるのが「魅せる麻雀」の正体です。
狙ってできることではないんです。「やってみよう」と思ってすぐにやれてしまう人は、最初からできているんです。
だから狙わないでおきましょう。
普通に、勝つための麻雀を一生懸命やってください。その全力の姿を見た人が感動すればあなたの勝ち。そうでなければ負けです。
プロ競技者には、競技での勝敗と、見ている観客との勝敗があります。麻雀は、さらに「運」との勝敗も絡んできます。ものすごく因果な商売なのです。
【見られる麻雀】
「運」と戦う方法は私にも分かりませんが、観客との戦いで勝つために「見られる麻雀」であることは意識し続けてください。
「魅せる麻雀」を意識すると大変なことになりそうですが、「見られる麻雀」であることは意識するべきです。
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