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流れの正体 小倉孝プロ編

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【世界で戦うポーカープロ】

「黒木、よかったらポーカー教えたるで」
 8年ほど前いきなり電話をかけてきて、流ちょうな関西弁で私にそう言ったのはライアン・モリスというアメリカ人だった。

 この人はブラウン大学卒業のインテリで本業は翻訳家なのだが、ギャンブルホリックでもあった。
 私はあまりギャンブルに興味がなかったため「いきなり何なん?」としか返せなかったが、ライアンは「麻雀プロは頭がええ若手が多いから、彼らにポーカー教えたら強なる思うねん。そしたら世界のカジノで勝てる奴も出てくる思うねん」と言ってきた。それって自分に何も得ないやろ? と私がたずねたら、「ええねん、損するわけでもないし。何かオモロイやん」ということだった。
 で、何かオモロイという理由でライアンにポーカーの道を説かれ、本当にそれで生活をするようになった若手麻雀プロが小倉孝である。
 前号で触れた通り、彼は現在マカオを主戦場にしているため、帰国を待って取材をしようとしたのだが、入稿後に連絡があり「すみません、帰国は5月になりそうです」ということだった。
 それでは締切に間に合わない。仕方がないのでスカイプで電話取材することとなった。
 ちなみに帰国が遅れたのはやはり彼の仕事(=ポーカー)がらみで、シンガポールに行くことになったからだそうだ。

【賭けよりも戦いの長さ】

 そういう話を聞くと、優雅で楽しそうに思えてくる。ホテル暮らしだから掃除も洗濯もしなくていいし、寝る時間も起きる時間も自由。うらやましい限りだと思った。

「好き勝手やってはいますけど、ポーカーで勝ち続けるっていうのは意外としんどいですよ。少なくとも遊びでやってるギャンブルのように楽しくはありません。もっと作業というか事務的なものです。ただまぁ、それでも普通に働くよりは良いし、儲かるからやってるんですけど」

 小倉からはそんな答えが返ってきた。確かに、どんなことでも仕事となれば多少の苦痛は伴うのだろう。
 真っ先に小倉に聞きたかったのは、白川道さんの「デジタルなんてのは博打をやったことがない奴の意見」という発言に対する反論である。
 彼はデジタル派雀士であり、世界を相手に戦うポーカープレイヤーなので、反論できるはずだと思ったのだ。

「白川さんが言いたかったのはたぶん、金を賭けてるかどうかだけじゃなく、勝負の長さも含まれてると思うんですよ」

 長さというのは、たとえば徹マンとかそういうこと?

「徹夜麻雀は分かりやすい例ですね。長時間お金を賭けて戦っていると、メンタルを正常に保つのが難しいと思うんです」

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