最強戦オーラス《逆》奈良判定の真相
【困った河野高志】
「これどうしたらいいの?」
河野高志は困り果てていた。
6月25日に行われた「麻雀最強戦2022・タイトルホルダー頂上決戦」の決勝オーラス。ホーテイ牌が打たれた後、親の渋川難波は「ノーテン」を宣言した。
麻雀最強戦では、親から順番に「テンパイ」か「ノーテン」かを宣言する決まりになっている。間違えた場合に罰則はないが、大切な局面では皆が慎重に宣言をする。
親の渋川に続いて南家の奈良圭純は「テンパイ」と宣言した。
さて、ここからである。
西家の河野は困った。自分の手牌はテンパイしているのだが「テンパイ」を宣言すると「おそらく」渋川が優勝となる。あえて「ノーテン」と宣言すると奈良が優勝となる。
ただし、北家の佐々木寿人がテンパイしていれば話は変わってくる。
逆に河野が「テンパイ」を宣言すると、渋川が一人ノーテンとなって奈良の優勝。河野が「ノーテン」と宣言すれば渋川が優勝となるのだ。
河野の読みでは寿人はノーテンなのだが、手牌を隠してやっている以上、絶対はない。
また、寿人がテンパイしていようが、ノーテンであろうが、自分の選択で優勝者が変わってしまうことに対し、河野は「どうすんのよこれ」という状況に陥っていたのであった。
プロ雀士にとって、優勝者が変わるというのは、その人の人生が変わるということである。
麻雀はお互いに何かしらの影響を与えながらやるものだから、いずれにせよ他人の人生は決めてしまうものなのだが。
それにしても、あからさますぎるのである。
渋川もファイナルへ行ったことはない。
奈良はこの中で最も知名度が低く、ここで勝つのと負けるのでは、天国と地獄ほどの差があることを河野は知っている。
勘弁してくれよ。
それが河野の本音だったと思う。
【どういう状況だったのか】
少し込み入った話なので、以下に整理する。
■トップ目・渋川と2着目・奈良の点差=3,900点
■つまり、奈良の1人テンパイか、渋川1人ノーテンなら奈良が優勝。
■それ以外のケースで渋川がノーテンなら渋川が優勝。
■渋川は親なのでテンパイの場合は連荘。
つまり渋川はノーテン罰符で逆転を許す可能性があるため、何とかしてテンパイを取らなければならないという状況だった。
これに対して河野は、現状は三倍満ツモ条件だが、流局時にテンパイしておけば、次局倍満ツモ条件に緩和される可能性があった。
細い糸ではあるが、河野と渋川がテンパイで、奈良がノーテンだった場合、少しだけ緩和される。次の局にリーチ棒が佐々木と奈良から出れば、河野は倍満ツモで優勝となるのだ。
河野としては「渋川はテンパイ」という前提があったから、放銃しないようにテンパイを組もうとするのが普通だ。
だから素直にテンパイを取った。
だが、流局し、なんと渋川が「ノーテン」を宣言した。
ええっ。
そして奈良が「テンパイ」である。
河野はとにかく困った。
私は対局場へ走って行き「テンパイしているのでテンパイを宣言してください」と言った。
これはテレビ対局だからこその措置だと私は思う。
【奈良圭純という打ち手】
奈良は青森県に生まれた。
実家に住みながら美容室で働いていたのだが、いつか地元を出て行きたいと思っていた。
理由などない。ただの衝動だった。普通の若者の衝動である。
麻雀は高校生の頃「少年マガジン」で連載されていた「哲也」の影響で覚えた。
20歳を過ぎた頃、少し足を延ばして麻雀の旅打ちのようなことをしてみた。
少しだけ「哲也」になれたような気がした。東京にも行って打った。
1カ月ちょっとで金が心もとなくなってきて、そろそろこの遊びも終わりかという頃、渋谷の「メカバビィ」で二階堂瑠美と同卓した。
瑠美と麻雀を打って、麻雀のプロという存在を知った。
青森に帰って、悶々とした。
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