安藤満とセルフプロデュース(文・黒木真生)
【プロは人前で強さを証明するべき】
前回のnoteで故・安藤満プロの人となりをご紹介していく内に、安藤さんはものすごくセルフプロデュースについて努力された人だったんだなあと再認識した。
『近代麻雀』の馬場裕一さんの原稿や、荒正義さん原作の漫画を読んで、その印象はさらに強くなった。
安藤さんは、とにかく世に出ることにこだわる人だった。
麻雀で日本一になってやるぞ。
多くの人がそう思ってプロの世界に入ってきたはずだ。
安藤さんも同じように思っていたと思うが、安藤さんは、その「日本一決定戦」の場を「多くの人が見るステージ」であるべきだと考えていた。
それはなぜか。
人知れず行われる「日本一決定戦」で勝ちたいなら、わざわざプロになる必要がない。
どこにどんな世界が存在するか知らないが、裏のプロの日本一になればいい。
でも、プロ麻雀界を選んだのであれば、観客の前で「日本一」を証明しようとするのが当たり前だろう。
安藤さんは、その「日本一の舞台」に立つために何が必要かを考えた。
答えは簡単だった。「見たい」と思われる人間になること。これがステージに上がるための条件である。
あとは「勝つ」こと。これが日本一になるための条件である。
【1人でやるのは無理】
ここから先しばらくは若手プロ向けの「セルフプロデュース講座」のようになってしまうかもしれないが、一般の方は「へー」ぐらいに思って読み流していただきたい。
少し前に、萩原聖人さんが「せっかく日本プロ麻雀連盟に入ったんだから団体に何か寄与したい」と言ってくださって、結局、若手プロ向けに講義をしてもらうことにした。まだコロナでこんな世の中になる前のことで、40人ぐらいが浜松町の会議室に集まった。
キャパの問題もあり、私の独断で、タイトルを獲ったけどあまりクローズアップされてこなかった人や、やる気がありそうな若手プロ、良い素材なのに今イチどうやったら良いか分かってなさそうな人などに声をかけた。
半分ぐらいが出席するかなと思ったら、9割近い人が「出たいです」と言ってきたので驚いた。
みんな、何とかしたいのだろう。麻雀で何者かになりたいと思って、ずっと努力してきたのだから当たり前かもしれない。
萩原さんが言われたことを要約する。
1:麻雀だけをやっていればいいわけがない。でも、麻雀は一番必死にやらなければならない。
2:目立てということではなくて、人前に立つための「実力」をつけてほしい。それは見た目、教養、表現方法など、様々。
3:すべては準備。いつ、突然、どこからか降って湧いたようにチャンスが来るかもしれない。でも、そういう降って湧いて来るようなチャンスしかない世界で、それを逃したら終わり。ずっと準備し続けて、チャンスをつかみ取るしかない。すべてはそのための準備。
私からしたら、ものすごく重要な話をしてくれたと思う。
しかし、なかなか思うようには伝わらない。
蒼山秀佑(あおやましゅうすけ)という若手プロも参加していた。広島から出てきて「麻雀で何とかしてやるぞ」と、野心を持っているように見えたから誘った。
萩原さんの講義の最中、蒼山が手を挙げて発言した。
「あの、僕は口下手で自分を売り出すのとかできなくて。だからYouTubeをやろうと思うんですけどどうでしょうか?」
いやいや、口下手な奴がYouTubeやってどないすんねん。あれはだいたい、口から産まれてきたみたいにペラペラと…
「ちょっとまって黒木」
私は脊髄反射で指摘してしまうのだが、萩原さんに制された。
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